やばい、まじやばい! オペの途中で目が覚めたーーー!
やばい、まじやばい!
何がやばいって、オペの途中で目が覚めちゃったのよ!
全身麻酔で目が覚めたらオペが終わってるって話じゃなかったの?
どうして目が覚めるのよ!
え~!!! なんか医者もナースもすごくあせってるしーーー
「きょ教授、こっこっこれって、まっまずいんじゃないでしょうか?」(・・・ 何?何? 意味わかんないんですけど)
「あちゃーーー! やっちゃったね。ちょっと深く切りすぎ。しかも左右逆だし」
(・・・ ええっーーー? 何それ。どうなってるの?)
「やっやっぱ、まずいですよね。教授の神の手でなんとかなりません?」
「勘弁してよ。いくら神の手でも無理、無理。今日はあくまで指導的立場だから」
(・・・ちょっ待てよーーー!)
そしたらナースが私が目が覚めてるのにようやく気づいた。
「せっ先生、あの・・・ クランケ、目ばっちり開いてますーーーー!」
「あーーー ホントだー。頭いじくってると、時々そうなるのよ。でも意識全然ないから大丈夫だよー」
(・・・いや、意識あるし・・・ ちゃんとあるし)
「教授、このまま頭閉じちゃいましょうか?」
「・・・だな」
「了解っす」
もうたまらず叫んだよ。
「ダメーー!そのまま閉じちゃダメーー!」
「えーーーーーっ! 意識あるの? ホントに目が覚めちゃったの?」とおっさんの方の医者。
「覚めましたー!ばっちり覚めてますぅー!」
私はもう大絶叫。
「話、どこから聞いてたの?」と若い方の医者。
「左右逆で、神の手でも無理なとこからぁーーーー!」
「まずいな、それ・・・、教授どうします? 麻酔の先生、麻酔マシマシできます?」
それ聞いて、このままだと無理やり眠らされて、そのまま殺されるって思ったよ。
まだ麻酔が効いてて身体に全然力が入らなかったけど、身体につけてあるチューブやら電極やらをなんとか剥がした。
で、自由になった右手ですぐ脇に置いてあったメスやら鉗子やらをもう手当たりしだいに医者やナースに投げつけた。
メスはおっさん医者の太ももに刺さって、おっさん絶叫。
鉗子やピンセットは若い医者のメガネをぶち壊した。
ナースは腰を抜かして失禁してた。
他にも何人もスタッフがいたけど、流血するおっさんの手当やら、私が床に撒き散らかした器具類を拾うのに忙しくて、誰も私を見てない。
その隙に私は手術台からなんとか降りて、ふらふらだったけどオペ室から裸足で逃げ出したよ。
「クランケがオペ室から出ましたーーー!」って、私の逃亡に気づいたスタッフが騒いでたけど、知ったことか。
つかまったら殺される。
オペ室の外で私の手術が終わるのをずっと待ってたママとお姉ちゃんは、ふらふらでオペ室から出てきた私を見て・・・満面の笑顔・・・からの白目をむいて卒倒。(パパはトイレに行っていたみたい)
さすがに開頭したまま出てきちゃったのはまずかったみたい。
脳みそ丸見えだもんね。
オペ室から緊急通報があったんだろうね。
「脳外科オペ室から開頭中の患者が逃亡しました。見つけ次第 保護してください!」って院内アナウンスがされた。
私は卒倒したママ達を、気の毒だけど、そのまま放置して逃げたよ。
逃げる私に遭遇したナース、医者、患者、見舞客は、みんな口をあんぐりさせて私を(正確には私の頭を)ただ見てるだけだったし、私が受付のあるロビーに出た時は、受付待ちの大勢の人達は私の姿を見るやいなや大パニック。誰も私に近づこうとはしなかった。
おかげで私は正々堂々と病院の正面入口から逃げ出すことができた。
玄関前にはタクシーが何台か止まっていたけど、どれも私(の頭)を一瞥しただけで乗車拒否。ありえないでしょ。こっちは病人よ。
仕方ないので歩いて逃げたよ。裸足だったけど、仕方ない。
大通りを抜けて、駅前の交番まで行こうと思った。
もう警察しか頼れないと思ったからね。
やっとのことで大通りに出るまでに、SNSで誰かが拡散したのかな、スマホを持って私を見ようとする人がだんだん増えてきちゃって大変だった。
なにしろこっちは手術着の下はマッパだからね、風も強かったし、かなり気を使って歩いたよ。女子だもの。
え? 隠すところはそこじゃない?
結局、駅前の交番に着く前に、パトカーが何台も来てくれて無事保護された。ホントほっとしたよ。
なぜか手錠をかけられたけど・・・
で、それからどうなったかって?
パトカーに乗って警察署に行く途中で意識がなくなって、次に目が覚めた時は、病院のICUだった。
逃亡から3週間もたってた。
頭はちゃんと閉じられてたよ。
私のオペを担当した医者、ナースはみんな病院からいなくなってた。
私の逃亡を許したことがすっごい問題になったらしい。ザマーミロ。
私の頭は大丈夫なのかって?
よくわからない。
けど、まだ生きているから大丈夫なんじゃないの?
新しい担当医からは、しばらく静養が必要だって言われてる。
長い入院になりそうだけど、わりと居心地がいい病院なので、それほど心配はしてない。
「頭パッカーンのお姉ちゃん」って子供の患者から呼ばれるのはさすがに閉口してるけど。