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なまむぎ なまもげ まなたまご   1,326 文字

あたしが超滑舌が悪いオンナだと気づいたのは、野田がきっかけだった。

その日、市内の中学軟式テニス大会の朝、部活で集合場所に決めていた新潟駅万代口改札に1っこ下の野田亜希子だけがまだ来てなかった。
もう出発時間ぎりぎりというところで、はるか向こうの駅ビル入口から必死に走ってくる女子中学生が見えた。野田亜希子だった。

あたしは遠くに見える野田を指さして、

野田だな、野田だな、野田だな!

って言った・・・つもりだった。
なのに・・・

のだらな、のららな、のなだら

と言っていた。

絶望的な滑舌の悪さだった。
あたしの周囲にいた部活メンバーは腹を抱えて笑い、そしてそれはあたしのあだ名が「ノダラナ」に決定された瞬間だった。
その日の試合に勝ったのか負けたのかはもはや記憶にない。

ノダラナとなったあたしはそれ以降何を話すにも”噛み噛み”を気にするようになった。
けれど、気にすればするほど”噛み噛み”になり、噛めば噛むほどあたしの噛み噛み度合いは指数関数的に悪化していった。

1年もたたないうちに世界はあたしにとって発音困難な言葉や言い回しで満ち満ちていた。

みまままやる(見誤る)
はつちちゅじょー(初出場)
しょーひょひょーいはん(商標法違反)
はちゅちゅちょ(派出所)
しんしゃつつしつ(診察室)
あたたかっか(暖かかった)
らいじょーちゃちょーちゅ(来場者総数)
こーしょとくた(高所得者)
しゅたてんたく(取捨選択)
まんげんぎょんごー(万景峰号)
こびじゅちゅちゅちょー(古美術商)
ろーなくなんのお(老若男女) 
わかかかかかげ(若隆景)
まじゅちゅち(魔術師)
こうことくちゃしょー(高所得者層)
かくちゃちゃちゃかい(格差社会)
ちょちゃくちゃ(著作者)
じょちぇつちゃぎょーちゅ(除雪作業中)
さつぇちゅちぇんよーさせん(左折専用車線)
しゅじゅじゅちゅー(手術中)
こつそそーそ(骨粗鬆症)
せいかつひちゅずひん(生活必需品)

「ちょっと何言ってるかわからない」というフレーズがすごく流行った時があったけど、あたしに向けられた場合は、それはそのまんまの意味だった。


今、大学の研究室でのあたしのポジションは超無口なリケジョ(理系の女子)。誰とも会話せず、黙々と実験を繰り返し、データを収集・分析し、論文にまとめる毎日は快適だ。

周囲の理系の男子達が例外なく女子との会話が超苦手なのも良い。
彼らは余計なことは言わないし、女子に黙殺されることにも慣れている。
なので、だいたいの日常生活は「はい」、「いいえ」、「大丈夫です」の3つで済む。

そして来春アメリカのボストンにある提携校の研究室にフェローとして派遣されることになった。
あたしの研究成果が認められたのだ。
論文は当然英語で書いた。

日本語は噛み噛みで「ちょっと何言ってるかわかならい」けど、英語だと噛まない。まだ下手だけど・・・。
要はあたしは日本語が苦手だったのだ。
あたしの活躍の場はきっと海外なのだ!

早速、あたしはマンツーマンで英会話を習い始めた。

講師: Which state in the U.S. are you going to?(アメリカのどの州に行くのですか?)

あたし: マチャチューチェッチュ(Massachusetts)

講師: What? (え?)


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マジバイ
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