見出し画像

【エッセイ】二〇二四年の夏休みの記録

 仕事はまあまあやっている。ぼくはお盆に六連休をもらった。ぼくは普段は、配送業者のひとが届けてくれる段ボールを開梱して、なかに入っている商品を仕分けしている。だから、配送業者がお盆休みに入ると、仕事がなくなる。そういうわけで、店長に頼んで休むことにした。
 店長は自分が長期休みなんていらないひとだからか、ひとが長く休みたいと言っても、あまりそれについて理解がない。ぼくの目から見ると店長は働きすぎなので、もっと休んだ方がいいとおもう。でも、そんなことは他人のことだからどうでもいいことだ。

 いまは、お盆休みの五日目で、木曜日だ。そろそろこのお盆休みを振り返って、そのことを文章にしておこうとおもった。あしたはどうやら台風が来るらしい。そして、メンタルクリニックの予約があるので、大雨のなかを出かけることになるだろう。

 ぼくには最近、自分のエッセイ集をまとめるという計画があって、二〇一九年の記事と、いまは二〇二〇年の記事を読んでいる。四~五年前だ。その頃はぼくもいまより若かったので文章に勢いがあって、なによりたのしそうだ。たのしそうと言うのは生活がたのしいという意味ではなくて、文章を書くこと自体のたのしみだ。そういうたのしそうな文章に触れて、いまの自分を反省する気持ちになった。最近のぼくはこんなに文章を書くこと自体をたのしんでいるとは言えない。

 ぼくはお盆休みをもらったので、とりあえず仕事のことは忘れてたのしむことにした。

 一日目は、アマプラでアキ・カウリスマキの『パラダイスの夕暮れ』を見た。これはゴミ収集人の男と、スーパーのレジの女が恋をする話だった。アキ・カウリスマキは同じ俳優をつかうことが多くて、この『パラダイスの夕暮れ』は初期の作品だったので、みんな若くて、とくにヒロインの女優が若くてよかった。恋愛は切なく、苦しいけれど、たのしい面もあるものだとおもう。
 映画を見た後は散歩をしてサイゼリヤに入った。サイゼリヤに入るのは久しぶりだった。ワインのデカンタを250にするか、500にするかで悩んだけれど、結局、500にした。そして、けっこう酔っ払ったけれど、予想よりは酔わなかった。以前、サイゼリヤでワインのデカンタの500を二つ飲んで、酔っ払って泣いてしまったことがある。そういうトラウマもあった。そのとき、泣いてしまったのは「お母さんがぼくをわかってくれないから」だった。おもしろい、とおもう。
 ぼくがワインを飲んでいる正面の席には、ドリンクバー一つで粘る女子高生の二人組がいた。そういう「これをやるとエモい」みたいな定型化されたエモのお手本がいまの世の中にはたくさんあって便利でいいとおもう。

 サイゼリヤでは小エビのサラダ、エスカルゴ、辛味チキンをおつまみに赤ワインのデカンタの500を飲んで、しめにたらこスパゲティーを食べた。二千円くらいだった。

 二日目は実家に行った。母に実家に来るように言われていたのだ。すごく暑い日で、こんな暑い日に一時間かけて実家まで行く自分は親孝行だとおもった。
 実家のある、以前住んでいた町まで電車で来たが、バスがなかったので、しばらく近くの本屋で暇を潰した。本屋のなかにはぼくとレジの店員のバイトの大学生の二人以外誰もいなかった。ぼくは新刊の棚、新書の棚、雑誌の棚、小説の棚、と順番に見て行った。汗が顔から噴き出して、ポトポトと落ちそうなのでハンカチで顔を拭った。

 実家に着くと、父が太ったという話はほんとうなのだとわかった。父は最近、職を失っているので、毎日、ゴロゴロしているのだそうだ。それなのに、食べる量は減っていないから太っているのだそうだ。そう母が言っていた。
 父と母は仲がいい方だ。父はわりとインテリなんだけれど、母はぜんぜんそういうひとではないので、話が合わないところも多いとおもう。それなのに仲良く暮らしているので、人間には話が合う、合わないよりも深いところの相性があるのかもしれないとおもった。まあ、でも、お互いに我慢している部分も多いのだろうけれど。

 ぼくはこの日、母にトマトの煮込みのハンバーグが食べたいとリクエストしていて、だから晩ごはんはハンバーグだった。デザートには桃が出た。この夏は桃を食べられないとおもっていたので嬉しかった。

 三日目は家で餃子をつくっていた。ボブ・ディランをBGMに流しながら、ひたすら餃子を包んだ。四十個つくるつもりだったが、途中でタネがなくなって三十九個しかできなかった。餃子をつくりはじめてから、つくり終わるまで二時間半くらいかかった。七個を晩ごはんのために焼いた。残りの三十二個は冷凍庫にしまった。これでしばらくは豊かな食生活だとおもう。

 四日目は元支援者のおばちゃん(Tさん)とごはんに行った。ブックオフの前で待ち合わせすると、Tさんはブックオフのなかから現れた。緑のボーダーの入ったTシャツを着ていた。すこし痩せたように見えた。Tさんとはもしかするともう二度と会わないのではないかとおもっていたので、こうしてごはんに誘ってもらえて嬉しかった。

 Tさんのよく行くらしい洋食屋に入った。その洋食屋は、ぼくが数年前にツイッターのフォロワーとごはんを食べた場所だった。昭和の洋食屋がそのまま、令和まで残っている、みたいな雰囲気があった。サザンオールスターズが流れていた。ぼくはあまり洋食屋には入らない。サイゼリヤくらいだ、と言うと、Tさんは「サイゼリヤはなにを食べても同じ味だから飽きた」と言っていた。それはそうかもしれない。
 オムレツや、ハンバーグ、ポテトサラダを注文して、それでハイボールを飲んだ。子どもが喜びそうな食べ物ばかりだ。お子様ランチを連想させる。そういうのって最高だな、とおもった。それなのに、ぼくは子どもに戻り切れず、小鯵の南蛮漬けみたいなものを注文していた。店員の女性が皿を下げるときに、きれいにマニキュアされた爪がケチャップやマヨネーズでグチャグチャの皿の汚れにつきそうで心配だった。Tさんは酒を一杯飲んだだけで、かなり酔ったように見えた。顔が赤らんで、早口になった。でも、本人はあんまり酔ってないつもりのようだった。考えてみると、普段からこんなかんじかもしれないな。ただ、顔が赤くなっているから酔っているように見えるだけなのだ。店員の女性がこまめに水を変えてくれた。

 洋食屋では奢ってもらって、食後の喫茶店はぼくが以前から気になっていた場所に行った。そこではぼくが奢る番だった。すごく雰囲気がよくて、ぼくもTさんもすぐに気に入った。また来ようとおもった。

 それがきのうの話だった。きょうは五日目だった。もう、休みはほとんど過ぎてしまった。六連休なんてあっという間だ。

 きょうは、あしたは台風だということもあって、洗濯をした。お昼に外に出て、日高屋でごはんを食べてから、QBハウスで髪の毛を切ってもらった。それから、スーパーで買い物をした。休日だとは言っても、生活をやっていくのに休みはない。それって疲れるな、とおもう。

サポートお願いします。