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【エッセイ】死ぬるなりけりでも生きたいと思った【青色手紙を打ち返せ】

 日々誰の手に届くかわからない、誰の目に止まるかもわからない文章をつらつらと書きながら、「誰かのために書いているのではない、自分のために書いているのだ」「万人に好かれようとは思っていない、自分の文章を理解してくれる人だけに届けば良い」と格好つけて言ったりしているのだけれども、やはり沢山の人に読んで欲しいし、読まれているという実感が欲しい。と思うことは、承認欲求に溺れているのでしょうか。

 それも、まだ会ったこともない、互いを知らない人に無理矢理エッセイをドッヂボールの様にぶつけて、さらに感想を頂こうとする自分自身の浅ましさと強欲さにうんざりしながら、それを受け入れてくれる相手に感謝申し上げなければならない

 先日このような記事を見つけ、花に蜂が引き寄せられるように気づけばコメントに参加を表明しており、「表明」は主導権がこちらにあるような表現な気がしてしっくり来ず、「お願いしており」の方が適切な気がするので、お願いしており、快く受け入れてもらった。懐が深いのである。

 AOIROさんの名前から取って青色手紙なのであろうが、この青色手紙という命名が好きだ。小説家を目指すのなら直接的な「好き」を使わず、比喩的な表現をするのが趣なのだろう。夏目漱石は「I Love You」を「月が綺麗ですね」と訳したらしいが、真偽の程は確かではないようだ。

 中学になるかならないかの頃、クラスの女子から「プロフィール書いてよ」と言われ、B6サイズくらいの厚紙を渡された。そこには2頭身の制服を着た男女のキャラクターが描かれていて、ところどころ虫食いの文字がびっしり書かれていた。
 「わたし・おれ の名前は___って言うんだ。___って呼んでね」
 私はそんな話し方はしないし、一人称は「ワイ」であるから、それは私の地元の方言で、同級生の男子の大体が「ワイ」と言うから、まだ声変わりもしていない高い声の子供達が「ワイよ、昨日よ」と話す様は今思い返すと滑稽なのであるけれども、一人称さえも偽って私の情報を書いてしまうことは自分を欺いている気がした。誰かに自分の人生とか生活の主導権を任せてしまっているような気持ち悪さだった。女子達はクラスのみんなのプロフィールを集めるのに必死で、田舎の限られた雑貨屋で購入するのか、全く同じ体裁のものもあり、私は半ばコピー機のように無心で書き続けた。

 そのプロフィールには必ず「好きな色」の欄があり、私は毎回そこに青と記入した。青は昔からかっこいいと思っていた。でも青が好きな男子はあまりにもベタであるから、何か別の色を書いた方がセンスが良いと思われるのではないかしらと思ったこともあるのだけれど、好きな色など青以外に思いつかないし、無理やりオレンジと言って、原色ではない色が好きだと嘘をついて、無理して雰囲気を出そうとしている自分を嫌にメタ的に見た時に情けなさを感じてからというもの、未だに好きな色は青である。でも昔よりは胸を張って青と言えるようになったのは、人はそれほど人に興味が無いと気づいたからであったし、そう思おうと自分に言い聞かせた結果なのだろう、と思う。

 AOIROさんは私のエッセイを読んで感想を返してくれた。

 「トンチを編むのと似ている」
 あぁ、この人は本当に感覚を言葉にするの上手い人だと思った。私自身、自分の回りくどい文章を読んでいてうんざりするのだけれど、「トンチ」と来たか。嬉しかった。トンチといえば一休さんで有名であるのだけれども、

生まれては死ぬるなりけり、おしなべて釈迦も達磨も、猫も杓子も

 という彼の言葉が好きで、結局死ぬのならそれほど気負うこともないと気づかせて貰った。生きるのはちょっとしんどい。いつもちょっとだけしんどい。そのしんどさをトンチと言う軽い言葉で表現してくれたことが嬉しかった。
 私は今までトンチを紡いで生きてきたのだ。トンチを紡ごとしてきたのだ。それは世界を少し斜めから見ようとする自分自身の傲慢さなのかもしれないし、特性なのかもしれないけど、分かれば怖くない。分からないから怖かった。

 絵と小説はどこか似ている。そこに無いものをまるで有るかの如く描き出す。虚構といえば虚構なのだけれども、それを見た人、読んだ人それぞれのリアルな姿として浮かび上がる。だから「表現者」という言葉で統一されるのかもしれない。
 私もなにか表現できる人間になれるだろうか。死ぬまでに何かを残すことができるだろうか。誰かに読んでもらいたい。
 でも、何かを残した人も、そのような実感を得ることなく死んでしまった人も、結局は皆死ぬるなりけりなのであれば、それらを求めることもまた、無意味な事柄であるのかもしれない。

AOIROさん
お忙しい中、私と遊んでいただきありがとうございました。また言葉を使って一緒に遊びましょう。

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