すごいぞ、ユナイテッド
前半
しのぎを削ったあのライン間攻防戦
リヴァプールの保持は235。ユナイテッドの非保持は541ブロック形成。リヴァプールはカーティスがメイヌーとウガルテの間に立って2人を固定。そこから相手2CH脇にディアスが降りてきたり、カーティスのサイドフローで出口を作るという、ベーシックなビルドアップを志向。これに対し、ユナイテッドはHVが迎撃。
ふふふ…予想した通りじゃわい。ユナイテッドのHVはここまでの試合でも、かなり前方まで迎撃に出てくるのじゃ。それを利用して裏のスペースを使えば良いだけである。幸い、HVの背走はそこまで速いわけではない。これはもろたも同然じゃ。
しかし、この日は何かが違っていた。ユナイテッドの迎撃がいつもよりタイトなのである。HVの迎撃により、リヴァプールの前線は前を向くことができない。結果、外に逃がしたボールにはWBがしっかり絞って対応。加えてCHもタイトに身体を寄せてくる。楔を打った先で前も向けず、逃した先での前線への再配球もままならない。そして、ユナイテッドは奪回からのソリッドなカウンターを披露してくる。ぐぬぬ…聞いてた話と違うではないか。
うちがやりたいことやるのやめなはれ
一方、ユナイテッドの保持は325。リヴァプールの非保持は424ハイプレス。
ディアスはホルダーに近付きながらウガルテへのルートを消し、カーティスもメイヌーをチェック。サラーも外誘導で相手に近づくことで、中央ルートを塞がれたユナイテッドは外を使う。
ここで偉いのがホイルンドである。WBにボールが出る瞬間を狙って列落ちすることで、コナテの出足を遅らせる。これにより先にボールに触ることができ、そのまま前向きで自由を得たメイヌーにリリースして前進。前半早々に複数回、同じレイオフが見られたので、再現性のあるアタックだった。ファンダイク側を避け、怪我明けのコナテ側で勝負していたのもニクい。
ひぇぇ…リヴァプールがやりたかったことをユナイテッドがやっている…だと?
しかし、リヴァプールも負けてはいない。マカリスターが危険なエリアを埋め続け、カーティスもしっかりとプレスバック。バックラインもロングボールに対しては難なく対応できていた。SBに対してはノーコメントである。
膠着状態を打開するための引き出し
あまり有効な形が作れない中、次第にリヴァプールも工夫を見せ始める。
マカリスターがサイドフローでウガルテを引き連れることで、ゾーン2中央へのルートを確保。その空いたスペースにはディアスが落ちてボールを引き出す。秀逸なのがこの直後。ディアスが楔のパスに触れる瞬間、裏を取る動きをやめてステイするマカリスター。これにより、レイオフを回収する体勢を整え、ボールを受けるとワンタッチで中央フリーのカーティスへパス。ポッカリ空いた中央でアタックを加速させることができた。
また、押し込み局面ではゼアーイズノーライン間問題への対策も準備。相手が541ブロック形成をして行き場を失っても、ペナ角にディアスが落ちてボールを引き出す。これによりユナイテッドが半歩ラインを上げて、少しばかりのライン間を生成することに成功。そこにタイミングよくグラーフェンベルグが列を上げ侵入。そこからニアゾーンを取ったガクポにリリースし、フィニッシュワークに到達することができた。
また、シンプルではあるが、裏を取る動きも徐々に増やしていく。カーティスの大胆な裏抜けにより、マグワイアを押し込んで助走距離を確保。そのスペースに走り込んでマカリスターがフリーでフィニッシュに到達するシーンも。フェイエノールト時代にもよく見られたダブル裏取りである。このプレーには秀逸な準備もあった。トレントが右ハーフスペースでダロトを予め引き出しておくことで、大外サラーのケアをマルティネスに強いることに成功。これによりペナルティ内の人数が枯渇し、マカリスターのフリー状態を作ることができた。今季のリヴァプールは立ち位置の妙でチャンスメイクできる点も素晴らしい。
また、グラーフェンベルグへのマーキングを利用したマカリスターのアンカー化もここ最近よく使われる技のひとつである。グラーフェンベルグがマーカーのメイヌーを引き連れて前線へ移動。ヘソ位置で時間とスペースを得たマカリスターの差配能力とビジョンを最大限生かすプランである。これにより保持の安定化をグッと高められる。相手はマカリスターをケアする出足が遅れてしまい、その矢印を利用してカーティスが位置調整でフリーになることができた。また、トレントがハーフスペースにインバートすることで、相手のマーキングを更に迷いを生じさせることにも成功。実質、4対2で中盤の数的優位を醸成し、スペースを上手く活用できる場面もあった。
相手のチェックが緩い時にはグラーフェンベルグの反転前進から一気に盤面を進められる。しかし、この日のユナイテッドの迎撃は超タイト。マカリスターに時間とスペースを与えてゲームメイクする方が得策であると判断したのかもしれない。
でも、目線が合わんのぅ
が、一方で目線が合っていなかった部分も散見された。ロバートソンやトレントのちょっぱやキャリーである。これにより相手は当然、相手のポジトラを警戒して一気に重心を下げてしまう。裏のスペースを確保できなくなり、クロス等に飛び込むスペースを自分たちで殺してしまっていた。
また、541ブロックの5と4の間が限りなくゼロ距離になり、前述のゼアーイズノーライン間問題も勃発。リヴァプールは大渋滞する中央でのアタックを諦めざるを得なくなり、外で探りを入れることを余儀なくされてしまった。
ユナイテッドズイズオーサム
結局、前半終了まで、リヴァプールが保持で悪戦苦闘し、ユナイテッドの迎撃からのカウンターという試合の流れは大きく変わらず。リヴァプールの方がゴールに近付いたとは言えると思うが、結果はスコアレス。全てはユナイテッドの練度の高い非保持に無効化されてしまった。あっぱれである。ユナイテッドのバックライン(特にマルティネス)の、前を向かせない迎撃は目を見張るものがあった。あとは、何よりメイヌー。非保持における集中力やプレスタイミングはお見事だったし、保持におけるナロースペースでの身のこなしも美しい。彼の相手の動きをしっかりと見たリアクティブドリブルの大ファンである。
正直もっと楽に試合を運べると考えていた。さすが、伝統の一戦。さすが、ユナイテッドである。
前半へ一言
メイヌー、好き。
マカリスター、愛してる。
トレント、信じてるぞ。
後半
両者の立ち上がりの狙い
両者共に前半と同じような試合の入り方。リヴァプールは保持235で押し込み、ユナイテッドは非保持541で構える。少し変化があるとすればマカリスターの立ち位置。サラーが相手WBとHVの間に立つのに呼応し、最前線で相手HVとCCB間を取るような立ち方。加えてトレントも大外に開く。最適な距離感の三角形を作り、ユニットアタックから崩そうとするリヴァプール。サラーにボールが入れば、マカリスターは最短距離でニアゾーンを狙う。
しかし、ユナイテッドの守備も徹頭徹尾タイトである。ダロトの背後にサラーが入ると、すかさずマルティネスがスライドで対応。ニアゾーンを狙うマカリスターにはメイヌーがチェイス。ユナイテッドの重心が下がり、ポッカリ空いたペナ角に顔を出すグラーフェンベルグには、ルートを消すようにフェルナンデスが立って盤石なブロックを形成。逆サイドから出張してくるカーティスに対しても、マークを受け渡し危なげなく対応。リヴァプールはゾーン1からの作り直しを余儀なくされる。ユナイテッドは虎視眈々とポジトラからチャンスを狙う。
生き急がんといて〜
一方、リヴァプールにも同じようにポジトラチャンスは複数回巡ってきた。しかし、味方のポジションが定まらないままロングボールを蹴り込んでしまい、結局簡単に回収され、ユナイテッド保持ターンに移行する場面が頻発。リヴァプールのポジドラ崩れからユナイテッドのポジトラに移るというお粗末な流れ。ユナイテッドの先制点も同じ流れからである。リヴァプールは想像以上にユナイテッドの強度の高い非保持の振る舞いを嫌がっているように見えた。
更に磨きのかかるユナイテッドの迎撃
前半のリヴァプールは特に右ハーフスペースでカーティスがマルティネスの迎撃にほぼ完敗。単独で前を向くことができなかった。後半、ひとつ工夫があったとすれば、この楔のレシーバーに対する平行サポートを準備したこと。トレントが大外の高い位置を取ることで、カーティスのサポートに入る狙いが見て取れた。しかし、ユナイテッドは迎撃の強度を更に高める。カーティスがワンタッチでリリースする隙すら与えない迎撃。リサンドロ・マルティネス、半端ないって。
一瞬の隙をついたリヴァプール
そんな中、リヴァプールは相手の一瞬の隙をついて同点にする。FK崩れからウガルテがクリア。グラーフェンベルグが回収し、ワンタッチで前に立つマカリスターへ。ディアスが大外に開いてマズラウィを釣り出したのを見て、マカリスターは前進の判断。これに対してメイヌーが右からチェックに入ってくる。加えて、左からもウガルテがガクポのケアを捨てて迎撃…この瞬間を見逃さなかったマカリスター。バックドアで裏に抜けたガクポにスルーパスで勝負あり。決め切るガクポも素晴らしいが、即断即決で最適な判断を下し続けたマカリスターも評価されるべきだろう。
選手交代で変えようとしたこと
ヌニェスとジョタを入れることで裏への積極的な配球を増やすリヴァプール。トレントだけでなくマカリスターも最前線へ配球を続ける。しかし、その全てがあまりにシンプル、というよりは雑で回収されてしまう。結果、ネガトラや非保持局面を増やしてしまった。冒頭の安定保持からチャンスメイクしようとした姿は何処へ。リヴァプールは自ら丁寧な保持局面を手放してしまう。しかし、神は見放していなかった。自らゲームを殺しかけていたところで、PK獲得から勝ち越し。
ホントの課題はどこにある?
リードした後もロングセカンドを狙うのか、一発で裏を狙うのか、曖昧なロングボールが飛び交い続ける。個人の気合いの足りなさはもちろんたが、果たして課題はそれだけだろうか。個人的にはリードを奪いながら、試合のテンポを落とす戦略が取れないチームとしての課題の方が気になった。リードした後も、トレントだけでなく、マカリスターやロバートソンからも曖昧なロングボールが配球されていた。簡単なパスミスも多かった。ハーフタイムでの修正については言うことなし。ただ、45分の中での試合運びには疑問符が付く。戦況や相手の状態を踏まえたゲームコントロールの重要性を今一度見直す時が来ているのではないだろうか。シーズン前半はやれていたことなのだ。きっと、大丈夫。やれるぜ、リヴァプール。