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フランス人のMangaは漫画なのか?

いろいろとあり、フランスで日本の漫画を出版する会社で働き初めて一年弱。
そしてうちの社長がフランス人のための漫画新人賞を企画し、先日無事終了。
フランスで初めて行われた漫画賞。なかなかおもしろかった。

フランスはそもそも漫画市場としては日本の次に大きい。つまり日本の漫画の翻訳版がたくさん出版されているということ。
私はこの会社に来るまで漫画のことをまったく何も知らなかった人間だけど、ここ一年弱、フランスという地で漫画について、そして漫画市場についていろいろ学んだ。

十数年で飛躍的な伸びを見せたフランスの漫画市場。BDの祭典、アングレームでとうとう大友克洋がグランプリを授賞するような時代。 また、ジャパン・エキスポなる日本のサブカルの大祭典があるのもフランスなのはわりと知られている事実かもしれない。

そんなフランス。読者ばかりではなくもちろん、描きたい人達も出てくるのが自然なことだろう。そもそもはBDという、日本ではタンタン(まぁこれも正確にはベルギーなんだけど。)などで有名なコミックの文化の発祥の地。漫画を描くことに興味を持つ人たちが現れてある意味当然なわけ。

というわけでこの漫画賞の授賞式を兼ねてうちの社長とBDのシナリオライターでサブカル専門番組のアナウンサーの二人による、フランスにおける漫画とその挑戦と題したカンファレンスパリ日本文化会館であった。
そもそもこんなわりと権威のある場所(ここは独立行政法人のジャパン・ファウンデーションのパリ支部)で漫画について真面目に議論されるようになったという事自体が示唆することも多い気がするのだがそれはまた別で。

フランス人の漫画家の漫画はなぜ売れない?ということからはじまる。
これって実は面白い設問で、そもそも漫画をしっかり定義すると何か?と聞かれてちゃんと答えられる人はなかなかいないのではないだろうか。

日本人が描いた、っていうこと?
今まではその定義で良かったかもしれないが、フランス人たちが漫画を描くようになった今やその定義がけっきょくは絶対的なものではなかったということが明らかになってきたわけで。
それでも、いやいや、やっぱりフランスのMangaは漫画ではないと言い切るか?
フランス人の描くMangaはフランス発のコミックであるBDとかなり趣きが違い、漫画だなぁと思わせるものなのに?どこに漫画の絶対的な定義があるのか?

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この質問に答える前にカンファレンスで言われたフランスのMangaが直面している問題についてざっとまとめてみた。

☆Mangaに対する固定観念

●今まで、そして今もまだ、フランスで漫画を売るときにそれがフランス人の作家であると言うと技術の高さなど関係なく売れない。
⇒試験的に、最初はフランス人であることを黙って出版してみると売れるものも、それがフランス人の作家であると言った瞬間に売れなくなる。

●漫画表現の決まり事、例えば性的に興奮の表現は鼻血をだすことだとか、漫画の登場人物はみんな当たり前のように日本人であることとか、フランスにはほとんどない制服文化が出てくるなどちょっぴりエキゾチックで文化の違いを感じさせる部分が漫画を漫画たらしめている。

☆構造的側面

●日本では漫画業界のシステムが完全に構築されているがフランスにはそれがない。
⇒漫画家がいるいないの問題ではなく、例えばアシスタントのシステムがあることとか、デビューの道の一つである漫画賞が非常に多種多様であることとか、漫画専門の編集者がいるというようなこと。
ひとつの業界として成立しているか、そして販売ルート含めたサプライチェーンが完成しているかということが重要なわけだけれどもフランスでは業界としての構造がまだ未完成。

●フランスではフランス人の漫画をあえて出版しようという編集者が少ないだけではなく、今度はそれを本屋に売り込む流通業界がまだまだ保守的である。

●週刊誌のシステムがない。

☆漫画家という職業の経済的側面

●漫画家として食べていくくらいの収入を得るためにはある程度のリズムが必要だが、フランスにはアシスタントを雇って描くシステムがない。なのでアシスタントなしで漫画の早いリズムを作るのは難しい。

●フランスではものすごく売れる漫画、例えば日本で大ヒットと言われると何百万、何千万売れるものもフランスでは例えばワンピースでも十万部。これでも漫画史上最高の売上だ。
⇒異様なヒット作品を除けば売れないものは500部。そして15000部売れるともうそれは大ヒットで、編集者たちはうかれる。ところがちゃんと漫画家として食べていけるくらいになるには売上部数が18000部ほどなければ難しい。

☆出版業界の文化や習慣の違い

●編集者が、作家の作品に口出しすることは、BD文化ではありえない。作者はあくまで一人で作り上げる。

日本の漫画は複数の人が関わることで完成するので団体競技のようだとすると、フランスはその逆。

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とまぁいろいろと問題が山積していて、フランス人の漫画の道には高い壁が立ちはだかっているわけだ。

でも。
それでもまだ希望はあると彼らはいう。
このたかが数年でフランス人も日本の漫画の技術を習得してかなりのレベルまできている。
読者が受け容れることがこれからの大きな課題なのだな、という気がする。

それに日本の漫画を模倣することがいいわけじゃなく、フランスのMangaとして独自色を出していくのも道だろう。

来仏していた日本の漫画家のT氏も、今回の漫画賞の応募者の中には日本の漫画家よりレベルが高い人もいて、ある種の焦りを感じるほどのレベルであったと言っていた。

既に枠が作られていて、その中でひたすら描くだけでいい日本の漫画家はフランスの漫画家たちからみるとかなり恵まれているわけだけれど、もがきにもがいて自ら道を切り開くフランス人漫画家たちはどんどんレベルを上げていくのだろう。というかそれしか道がない。

漫画の定義というのは流動的なもので、今後はもしかすると漫画家の競争というのはグローバルに開かれていくのかもしれない。

そして最後に、定義と言う意味では二つのことが言える。

1) それを日本人のもの、というふうに固定してしまうのであればこのクリエーションとしての漫画という分野は同じところをぐるぐる回り続けてやがては衰退していくのかもしれない。

2) しかしそれをもっとフレキシブルなものに考えると、漫画という分野にはまだ実はのびしろがあると気づく。秘められた可能性が広がり、さらに漫画という分野は成長していくのではないだろうか。

まぁ、どちらにせよ、今フランスで始まったこの新たな創造の形は名前は何であれ、既に確実に存在し、成長し続けることは間違いない。

つまり、それを漫画として見るのかどうか、という考え方の問題は日本の漫画の将来の問題、そして課題でもあると思うのだ。

#Manga #漫画 #出版業界 #出版市場 #フランス

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