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ふたつの3.11

保護司さんから届いた手紙・・・
それはある少年の悲しい結末だった。

自分が拝命した時にはもう既に院生活も中間期に入っていたひとりの少年
自分が当直の時には、まるで自分を試すかの様に巡回中の自分に声をかけてきた・・
「先生、何歳?」・「結婚しているの?」とか・・・
“独身だ”と答えると「女いるの?」とか
“こいつ、俺を試しているなぁ”と感じるものの不思議と嫌な感じや警戒心はいだかなかった。
何でも知りたがり、聞いてくる小さな子供のようにすら感じた。
実際に彼は能力的にも低く、精神的にも少々障害持つ少年(精神年齢は6.7歳)であるとの鑑別結果もあり、幼少期から施設を出たり入ったりと言った生活である。
「先生、ちょっと話してくださいよ!」
「何の話が聞きたいの・・・?」
「えぇ〜何でもいいよ!」
たまたま、彼が以前入院していた施設に自分の友人が教官としていたので、
その事を話をした・・
「あぁ、〇〇先生、覚えているよ、良い先生だよね!俺好きだった!ダチ(友人)なんだ!」
「そう、アイツは良い奴なんだよ!今度お前がいる事話とくよ!」
「ヤベェ〜!ヤキぶっこまれちゃうよ!」
「アイツはそんなことしないよ、代わりに俺がヤキ入れてやるよ!」
「何すかそれ〜!」と無邪気に笑う。
「先生、昔悪かったでしょ?」
「何で?」
「わかるよ!みんな言っているよ!絶対悪かったよなって・・!」
「誰が言ってるんだよ」
「みんなですよ!俺らの班の奴とか他もみんな!」
「馬鹿野郎!お前、俺は真面目を絵に描いたような人間だ!」
「きゃっきゃっきゃ〜」とまるで幼稚園児が笑うように笑う・・
色々、規律違反やらで手を焼くことも多かったが何とも可愛さを感じる奴だった。

彼の出院が近づいたある日・・
「お前、出たら仕事とか決まっているのか?」
「保護会に帰って、保護司さんの紹介で・・」
「頑張れよ!将来の事とか考えているのか?」
「う〜ん、まだわかんないっす!」
「やりたい事は無いの?」
「色々あるけど、決められないってか・・」
「そうか、生まれ変わったらどうだ?どんな人生にしたい?」と質問した時
物凄く悲しい顔をして・・・
「俺もう、2度と生まれたく無い・・本当に・・もうやだよ」
その言葉は怖いくらい彼の本心のように思えて・・一瞬言葉を失った。
「今まで、色々辛っかった分、良い人生が来るんじゃねぇか?」
「でも、また親からごみくずみてぇに捨てられる・・・意味ねぇよ!」
「・・・・・」
「何のために生まれて、何のために生きているのか全然わかんねぇよ!先生わかる?」
「えぇ・・・それは・・難しいけど、“あぁ、生きていてよかったなぁ〜”って思える時があるだろう、その為、というかそれを繰り返し積み重ねていく為じゃねぇか!」(実はこの言葉・・“男はつらいよ”で寅さんのセリフのアレンジである。)
「よくわかんないけど・・・・・」
「親とはもう連絡つかないのか?」
「多分、ついても話す事ないし、もう会いたくもないっすよ!」
その時の口調、声のトーンから、何となく親のことは彼の中で既に許していて、自分なりに整理できている様にも感じられた・・
「とにかく、夢を持って、早くやりたい事見つけて頑張れ!」
それには答えず、片手を軽く上げニコッと笑った。

彼が出院して一年位たった頃・・・
彼の担当保護司さんからの手紙が届いた・・・
【19△△年3月11日〇〇山の山林にて〇〇君が遺体で発見されました・・・・
足にいっぱいマメを作り痩せ細った〇〇君でした、どこも傷んではいませんでした。
・・・・・・・・・・・・・・・中略・・・・・・・・・・・・
2月24日に彼からの電話、そのテンポの速さに戸惑い・・・・・・・
こういう形でしか抱きとめてあげられなかったけれど還ってきてくれた・・・・
今、ここに眠る彼の枕元で問いかけながら・・・安らかにと祈るばかりです。】
との内容であった・・・

23年弱の人生である・・・
短すぎたが、人の何倍も様々な思いを胸に精一杯生きたと思ってあげたい・・
最後に彼はどんな景色を見て・・
どんな空気を吸いながら・・
どんな事を考えながら力尽きたのか?
22年分の無念や重荷・・
恨みや、怒りを捨てることが出来たのか・・
心乱れる事はなかったのか?少しでも穏やかな気持ちになれたのか?・・・

その場所に行ってみたいとも思った。
人里から少し入り、獣道を進み、沢を300m程登ったところで・・
とても静謐な場所であったとの事・・・・
そして、彼に伝えたいと思った・・・
「お前は決してひとりぼっちじゃなかったし、みんなから愛されていたんだぞ!、お前を嫌いだって言う奴を俺は一人として知らんぞ!・・・それから本当に今日、ある人から聞いた話だけど、あの世では思えばすぐ叶うんだそうだ、ラーメン食いてぇと思えばすぐ目の前にラーメンがって・・だからそれだと面白くないから、なかなか実現できない地球に来るんだってよ!だとしたら食いたい物たくさん食べて・・お前は痩せすぎだから、少し太って体力つけて、帰って来い!きっと今度は良いことあるよ!」

明日、3.11は東日本大震災・・
自分の叔母も被災し、横浜に避難してきた・・
そしてもうひとつ、年代は違うが、こんな事もあったんだ・・・
正直、いつの間にか彼の記憶も小さくなっていた・・・
不思議なことに、先日、何気なく昔もらった手紙や、資料みたいなものを見ていたらこの保護司さんからの手紙のコピーが出てきた・・・
「たまには、俺の事思い出せよ!先生!」って言われた様な気がした・・

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