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第141話 高校時代


僕は、高校時代、器械体操部だった。

だから、当然に、バク転やバク宙ができた。


今、53歳。

【バク宙のできるジジイ】になりたくて、最近練習を開始した。

やがて、できそうだ。

そんなに遠くない未来に、できそうだ。


・・・身体的には、だ。


・・・。 ・・・精神的には、かなり高いハードルを超す必要がある。

・・・。


要は、怖いのだ。


できるとは思うが、なんせ、「安全に、できるかどうかを試す場所」がない。


子どもを対象とした体操教室に行って、すみっこを貸してもらえないかと、交渉しようと思っている。


一度、ちゃんとできるようになれば、あとは、毎日繰り返して、衰えを防止すればいい。恐怖を再発しなくて済むので、日々の日課にするのは、一石二鳥だ。


* * *


ゆかりちゃんは、高校時代、となりのクラスの、友だちでも何でもない男子の弁当を、勝手に食べたらしい。

2回も。


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体育の授業中で、となりのクラスの教室には誰もいない。

そのとき、授業をさぼった数名の女子。

無人の教室で、授業をさぼって談笑。その時ゆかりちゃんは、誰かの弁当を勝手に食べた。


「ほんとうに、美味しかったのよ~」


「美味しかったから、また食べた」


まさに、【味を占めた】のだ。


スカートの長い、聖子ちゃんカットの女子たちが、闊歩した時代だ。普通の男子は、その女子を取り巻く男子の存在を感じ、不問にするだろう。

2回も、カラの弁当と対峙した被害者の男子高校生に、こころから同情する。


そんな、ゆかりちゃんが、得意料理の肉じゃがを作ってくれた。

美味しかった。

肉や野菜をしっかり炒めて、少しだけ焦がしてから煮込む。それが、ゆかり流のレシピらしい。

となりのクラスの他人の弁当を、勝手に食べて鍛えた舌は、伊達ではないのだ。



ゆかりちゃんが当時の仲良しに、この弁当のことを聞いたのに、誰も覚えていなかったらしい。

「わたしの思い込みだったみたい~」と、ゆかりちゃんは、過去の黒歴史をなかったことにしたいようだ。

僕が思うには、ほかの女子は談笑に夢中で、その中でゆかりちゃんだけがさらに自由で、ごく自然な振る舞いで、他人の弁当をパクついていたのだ。


黒歴史があろうとも、僕は、そんなゆかりちゃんが大好きなのだ。

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奈星 丞持(なせ じょーじ)|文筆家
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