死後の世界ってある? この怒りは神様も大目に見る?
「死後の世界があるのか、教えてあげる」
と、余命わずかなお爺ちゃんが、娘や孫たちに言いました。
お爺ちゃんは、ベッドで横になっています。
「どうやって教えるの?」と、孫が聞きました。
「どうやるかは分からない。何が出来るのかが分からないからね。でも、必ず、お前たちに分かるサインを送るから」
お爺ちゃんは、死後の世界があったなら何かしらのサインを送ると、そのように、家族に強く伝えました。
お爺ちゃんが天国へと旅立って、その数日後でした。
家族は、自宅のリビングにいます。
「あっ!」
と、孫娘が叫びました。
指さす壁掛け時計に、家族の視線が集まりました。
その時計の分針が、高速でグルグルと回っていたのです。
分針の高速回転が止まりました。
「あっ!」
と、今度はお母さんが叫びました。
別の置時計の分針が、高速でグルグルと回っているのです。
「お爺ちゃんだ!」
誰かが、そう言いました。
それは家族全員の、共通の想いでした。
以上は、僕が観たテレビ番組の内容です。
再現ドラマでした。
時計の分針がグルグル回っている映像は、ドラマの映像以外に、スマホで録画された映像も紹介されていた気がします。
* * *
それとは別に、
5~6年前、僕は、ある恋愛小説を読みました。
主人公の女性は、最愛の夫に先立たれます。
夫は死の直前に、「必ず君に会いにゆく」と言ったのです。
ある日、主人公の女性に、白馬が駆け寄りました。
主人公の彼女は、白馬を、「彼だ」と確信します。
最愛の夫が亡くなってから、49日目だったような……。
そんな、小説でした。
* * *
(僕も、なにかサインを……)
と思いました。
死後の世界があるのなら、「ほら、あるよ」と、妻のゆかりちゃんに教えてあげたいと思ったのです。
ゆかりちゃんに「あっ! じょーじだ!」って、そう気づいてもらえるサインを送りたい……。
はたして死後の僕は、時計の針を操作できるだろうか?
物は、すり抜けて触れないのではないか?
いや、ポルターガイストという現象があるのだから、もしかしたなら動かせるのかもしれない。
どちらなのかは、分からない。
白馬……。
白馬は難しい。普通の馬にさえ出会うことは、まずない……。
ゆかりちゃんが、競馬場のパドックに行くとも思えない。
それに、馬って、憑依できたとして、僕がコントロールできるだろうか?
なんか、できそうにない。馬ってデカイし……。
小さい虫なら?
……いや、アカン。
ゆかりちゃんは、僕って気づく前に「ビシッ!!」って叩き潰すに決まっている。
なかなか、良い案が見つかりませんでした。
そこで僕は、ゆかりちゃんに相談してみました。
そもそも、サインを送るという意思があることを、僕だけが知っていても意味がありません。ゆかりちゃんと共有する必要があります。
そして、2人で話し合えば、何か良いアイディアが浮かぶ気がしたのです。
「ゆかりちゃん、コレコレこういう恋愛小説なんだけど、ゆかりちゃんも読んでたけど、憶えている?」
「なにそれ? そんなの私、読んだ?」
「じゃあ、最近一緒に観た、コレコレこういうテレビは? 憶えている?」
「ぜんぜん記憶にない」
「う~ん」
「なに?」
「だからさ、死後の世界から送るサインを決めたいんだよ~」
「は?」
「ほら、たとえば僕が、幽体離脱みたいになっていて、その時ゆかりちゃんにサインを送るんだよ」
「キモチワル」
「あ、いや、その、『見守ってるよ』というサインだから……」
「要らん要らん」
「・・・」
「・・・」
ゆかりちゃんは、眉間にシワを寄せています。
厳しい表情です。
数秒後、ニヤ~、って笑いました。
ドヤ顔でした。
僕は、メッチャ腹が立ちました。
⑴ 死後の世界からのサインを拒絶することに、少し腹が立ちました。
⑵ オモロイやろ、と言いたげなドヤ顔に、メチャクチャ腹が立ちました。
⑵ の怒りは、神様も許してくれる怒りだ、と僕は思います。
おしまい
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私、奈星 丞持(なせ じょーじ)は、note創作大賞2024に応募しました。
恋愛小説です。
タイトルは『恋の賭け、成立条件緩和中』です。
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