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恋愛下手な沖縄娘が、東京で仕事に夢中になり、沖縄に新たな夢と恋人を連れて帰る話(仮)【小説の下書き その19】

下書きです。
あとで書き直します。


エピローグ

祖父江37歳
4月1日

雨どいが外れていた。
青い空に見惚れて、偶然気づいたのだった。

この程度の不具合ならば、下請けの工務店に電話した方が良いだろうと、僕は判断した。
スマホをポケットから出し、電話をした。

「おはようございます。お世話になっています、祖父江です。今、お話して大丈夫ですか? INNOCENCE 2 の雨どいが外れているんです。ええ。2です。そう、新しい方です。正面に向かって右です。西の方……あ、そうだ、写真撮って送ります。はい、お願いします」

僕は、乗ってきた軽バンに戻ろうと思い、真後ろに振り返った。掃除用具を取り出すつもりだったのだ。
アパートの敷地に、小さな車が入って停まるのが見えた。この辺ではあまり見かけることのないフィアット500だった。淡いベージュ色のフィアット500から、やはり、この辺では見かけることのない40~50代の、痩せた渋いオジサンが降り立った。

真っすぐ僕に向かって歩いて来る。

「君を調べるの、大変だったんだぜ」と、その男性は言った。

「ここを見つけるのも大変だった。もっと早く会える予定だったんだが……。祖父江匡亘さんで間違ってないよな」

ぶっきら棒な話し方をする男性だった。しかし、粗野ではない。
浮かんだのは、刑事だろうか、という想像だ。

僕は「ええ」と答えた。

彼は、僕の目の前まで近づき、「ひがちゃんのことだ」と言った。

僕は、考えを巡らせた。

「小宮山ひまりのことだ」と、彼は言い直した。

まさか、事故? いや、事件か?

「あなたは刑事さん、…ですか?」

「ったく。…オレは刑事じゃない。いいか。小宮山ひまりは、旅行会社を辞めた。つまり、もうツアーコンダクターではない。掟は、もう無い」

掟って、なんだろうか。ひまりさんは何故、会社を辞めたのだろうか。
僕は、彼に言うべき言葉が見つからなかった。いや、そもそも彼は何者なのだろう。

「彼女は、まもなく羽田を発ち沖縄に帰る。言っておくが帰省ではない。アパートを引き払っての帰郷だ」と、と彼が言った。

沖縄。帰省ではなく、帰郷……。

「時間は?」と、僕は彼に尋ねていた。

「13時10分発だ」と彼は言った。

3時間とちょっとしかない。電車と新幹線で向かっても、きっと間に合わない。
車じゃ、もっと時間がかかる。

ドス。

僕の腹が小さく爆発した。息が止まり、胃の中の物を戻しそうになった。
彼が、僕にボディーブローを打ち込んだのだ。
額やこめかみに、変な汗が浮かんでいるのが感じ取れた。

僕の腹にめり込んだ彼の左拳が開かれた。
紙があった。クシャクシャになっている。
彼はその紙を、僕のワークシャツの胸ポケットに入れた。

「そのメモ帳には、小宮山ひまりの携帯電話の番号と、沖縄の実家の住所が書いてある。君に、くれてやる」

彼は、踵を返して、フィアット500に向かって歩き出した。

なぜか、能條さんの「挑戦してねぇだけだべ」「てえしたモノは手に入ってねえべ?」という声が聞こえた。

僕は「駅まで送ってもらえませんか?」と、その男の背中に声を投げた。
彼は、少し考えて、それから「どっちに向かうつもりだ? 羽田か? 那覇か?」と聞いてきた。

「羽田です」と、僕は答えた。
「間に合わんぞ」と、彼は言った。

「そのときは、飛びます」と、僕は即答していた。
また彼は少し考えて、「なら、乗れ」と言った。

僕は、助手席に乗り込んだ。







※この記事は、エッセイ『妻に捧げる3650話』の第1553話です
※僕は、妻のゆかりちゃんが大好きです


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