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恋愛下手な沖縄娘が、東京で仕事に夢中になり、沖縄に新たな夢と恋人を連れて帰る話(仮)【小説の下書き その15】

下書きです。
あとで書き直します。


11.ひまり 初めての二日酔い

ノドが少し痛かった。トイレにも行きたい。
私は、重い身体を持ち上げた。
部屋の時計を見たら、もう10時を回っていた。

身体がだるい。風邪を引いてしまったみたいだ。

昨日、バリ島から帰国した。

会社へ寄って、それからスナック『縁』に行った。カラオケを歌った。
そこまでは憶えている。
今、私は、ちゃんとアパートのベッドの上だが、途中から記憶がない。着替えることなく、スーツのまま眠ったらしい。

大家さんに、お土産を渡しただろうか?  ぐるりと部屋を見回すが、紙袋は見当たらなかった。

『縁』で飲み過ぎたのだろう。記憶を失くすまで酔ったのって何年ぶりだろうか。二十歳のとき以来だから、9年ぶりかと、私はもやのかかった頭で計算を行なった。

酔っていなかった前半の記憶はあった。ママに、お土産を渡した記憶もある。大城さんも小松さんもいた。
カラオケも、けっこう歌った。
「あ〜い、とぅいまてぇ〜ん!」という、芸人さんのモノマネがウケた。何度も言ったという記憶が、薄く朧気おぼろげによみがえった。

『縁』で暴れたとかはない、と思うけど、迷惑をかけたかもしれない。お昼を過ぎたら、ママに電話して聞いてみよう。

私は、またベッドに入った。風邪は寝て治すが基本だから。


* * *


次に目が覚めたのは、午後1時に近かった。
私は、空腹も感じた。
ノドの違和感や身体のだるさは、まだ少しあったが、午前中と比べると、かなり良くなっていた。

昼食は、冷凍パスタをチンして食べた。
お風呂に入って、散らかっている部屋を少し片づけてから、私はママの携帯に電話をかけた。

ママは出るなり、「大丈夫?」と聞いてきた。
私は「風邪を引いたみたいで。でも、少し良くなりました」と言った。

「ひがちゃん。それ、風邪じゃなくて二日酔いよ。あなた、昨日のこと憶えている?」

「あちゃちゃ、私、なんかやらかしちゃいました?  後半の記憶が何もなくて……」

「ひがちゃん、最後、眠ってしまって起きなかったのよぉ~。大変だったんだから~。あなたみたいに小柄でも、眠っている人って、スゴク重いの」

「わ~っ。ご、ごめんなさい」

「そんな、イイから」と、ママは優しく言ってくれた。

「私、記憶がないのが怖くて。失礼とかなかったですか?」

「そんな、心配することはないわ。ただ、大城さんと小松さんには、お礼とを言うべきね。ええっと、ひがちゃん今夜来れる?  来れるなら、昨日のこと、全部、説明するけどぉ~」

「行きます。7時くらいでいいですか」と私は言った。ママが、その時間で良いと言って、電話は終わった。


* * *


私は、7時ちょうどにスナック『縁』のドアを引いた。
ママと、大城さんと小松さんもいた。

「昨夜は、ごめんなさい」

私は頭を下げた。

「そんなのイイから、こっちに来て」とママが言った。
大城さんはニコニコして迎えてくれた。小松さんは難しい顔をしているが、それはいつもの顔でもあった。

ママはカウンターの中にいる。カウンター席に、左から、小松さん、1つ空けて大城さんが座っていて、やはり1つ空けて、私は座った。

大城さんが、「わんは最初、ひがちゃんが気を失ったと思ったさ~」と、いつもの沖縄なまりで言った。
「さっきまで話してたのに、見たらテーブルに突っ伏しててさ~。『どうした?』って声をかけても、ナンも反応がないの!」と、身振りを加えて教えてくれた。

「私も、何度も声をかけて揺すったの。でも、ピクリとさえ動かなくてね。救急車を呼ぼうか迷ったの。そうしたら、小松さんが『眠っているだけだ』って、そう言ったのよ」と、ママが言った。

「寝不足の人間は、時に、あんなふうになるって知ってたんだよ。ちゃんと呼吸もしていたし、脈も正常だった」と、小松さんが言った。小松さんは、本当に博識なのだ。

「それからが大変でねぇ~」と、ママが詳しく教えてくれた。

私が目を覚まさないので、まず大城さんが、私のアパートの大家さんに電話をしてくれた。
次に、担架を作って、私を乗せて運んだ、…らしい。
担架は、大城さんがご自宅から、物干し竿を4本と、毛布を2枚持ってきて、小松さんの指示で作られた、…らしい。
合鍵を持って駆けつけた大家さん、大城さん、大城さんの息子さん、小松さん、の4人で、私をアパートまで運んだ、…らしい。

「階段が、大変だったさ~」と、大城さんが言った。

「私も頑張ったのよ。スーツケースや荷物を持って、一緒にアパートまで行ったの」と、ママが付け加えた。

私は、カウンター席から立ち上がって、「ほんと、ごめんなさい」と、もう1度、頭を下げた。

ママと大城さんが、いいから座って、と強く言ってくれた。
私は、穴があったら入りたい、という気持ちを初めて抱いていた。

「一発ギャグは、面白かったぞ」と、小松さんがボソリと言った。
口の片方だけを、ニヤリと上げた。
間髪入れず、「あれは、デージおもろかったさ~」と、大城さんがはしゃぎ出した。

わざわざ立ち上がって、私のマネを実践したのだ。

「あ〜い、とぅいまてぇ〜ん!」と、芸人のフリも付けての実践だ。
「わ~、恥ずかしい~!」と私は叫んだ。顔が熱い。きっと赤くなっている。

ママも小松さんも笑っていた。
大城さんが調子に乗ってしまった。

「ほかにも、いろいろ言ってたさ~」
「純粋無垢でぇ~、あ〜い、とぅいまてぇ〜ん!」
「無謀な賭けでぇ~、あ〜い、とぅいまてぇ〜ん!」

私は必死で「恥ずかしい~、もうやめて~」と言った。

「あと意味は分からんけど、これもオモロかったさ~」
「足跡ねぇ~、あ〜い、とぅいまてぇ〜ん!」

私は、そんなアレンジを加えた記憶などなかった。

「もうやめて、ね、おねが~い」と私は、大城さんの手を握って動きを封じ、拝むようにして懇願した。

小松さんが、ママを見て「飲ませ過ぎだったな」と言った。
それに対しママは、「時にはね、飲み潰れた方が良い時って、あるのよ」と返した。

「ほかに、私、何か言ってましたか?」と私は、恐る恐る尋ねた。

「あと?  あとは、カラオケを歌ってぇ~、タンバリン叩いてぇ、BOX席で『バリの春日君が面白かった』とか言ってさ~。で、なになにって聞いたら、ひがちゃんは、こんなふうになって、突っ伏してたんだよ~」と、大城さんは、BOX席に行って、私の寝姿を実演してくれた。

テーブルの手前にオデコを乗せて、右腕は真っすぐで、左腕は曲がっていたらしい。

「ほかに、私、変なことを言ってませんでしたか?」と、再度、私は聞いた。3人は、それ以上の失言はなかったと言った。

「私、お土産、ママに渡しましたよね?   大家さんへのお土産って…知りませんか?」

「大丈夫よ。私、見せてもらって知ってたから、大家さんに渡したの」と、ママが教えてくれた。今夜は、部屋に入る前に、大家さんにもお詫びしなくっちゃと、私は思った。


12.祖父江 帰郷を決心

12月

「お疲れ~」
「お疲れ様です」

僕は、いつもの居酒屋で、芳賀部長とビールジョッキを合わせた。
部長は店員さんに、茄子の一本漬けと、焼き鳥の盛り合わせと、お刺身の盛り合わせを頼んだ。

「今年も、あっという間に師走だな」と、部長が言った。僕も、そうですね、早いですよね、と言った。

「で、話ってなんだ」

「来年の3月末で、退職させてくだい」と、僕はストレートに言った。

「これは相談か?  それとも報告か?」と部長は確認した。
僕は、報告です、と答えた。

「それは驚いた。どういうことなのか、説明してくれ」と部長は、お通しのキャベツを食べながら言った。
「驚いた」と言いながらも、部長の表情は、まったく驚いているようには見えなかった。

それで僕は、つい、少し笑ってしまった。
それから僕は、簡潔、かつ、過不足のない説明を試みた。

会社と部長のおかげで、高収入を得られ続けたことへの感謝。
来年4月からは、岐阜県の田舎に戻る。
アパート経営を始めるための、充分な貯金がある。
アパートは当社に施工依頼する。
喫茶店経営も始める。
喫茶店は母親に手伝ってもらう。
「喫茶店をやりたい」というのが母の夢で、かつ、口癖だった。

部長は、僕の説明が終わるまで、ひと言も挟まなかった。
焼き鳥を食べ、ビールを飲みながら、いつもの自然体で聞いてくれた。

「親孝行だな」と、部長が言った。

「母の淹れる珈琲は、本当に美味しいんですよ」と、僕は言った。

部長は、「お前のおかげで、わが社の社風が変わった」と言った。

「うちは売上至上主義だったが、祖父江は顧客満足第一主義だったな。そして、それを貫いた。俺も最初は、キレイ事を言いやがってと、そう思っていたよ」と、部長は続けた。

「僕は、運が良かっただけです。良い地主さんにたまたま出会って、あとは部長がクロージングして決めてくれました」

「祖父江。君は、担当エリアでジョギングしてただろ」

「あ、はい。走ったり、散歩したり。走ることは僕の趣味なんで、どうせなら担当エリアを走った方がイイかなって」

「あの種まき活動は最強だったな。特に早朝の散歩は、お爺さんたちのウケが抜群に良かったよ。そして、あれは本来ならば仕事だ。俺はそれを知っていながら、知らないフリをした。もし、あの担当エリアでの散歩やジョギングを仕事とカウントしたなら、その場合、間違いなく祖父江は、働きすぎだと人事部からブレーキがかかっただろう。ダントツの労働時間になってしまうからな。年末年始も走っていただろ」

「箱根駅伝のあの時期は、どうしたって血が騒ぐんです。走らずにはいられないんです。それに、部下は時間外で走ったりはしていません。規定の稼働時間内で結果が出ています」

「ああ。部下が時間外労働を一切していないことは、ちゃんと知っている。いずれにせよ、君の仮説通り、種まき活動や顧客第一主義の方が、俺たちが教わった旧式の営業活動より優れていた。部下をインセンティブという飴と、ノルマという鞭で管理する。そんな売上至上主義の敗北は明白だよ。祖父江はそれを、見事に数字で証明して見せた」

「部長が、僕と本部長の間に入ってくれたおかげです。ありがとうございます」と、僕は言った。

芳賀部長は、僕が思うまま何でも自由にやらせてくれたのだ。古い営業手法を強制したがる本部長に対し、芳賀部長は硬軟織り交ぜ、あらゆる手段を使って僕を庇い、そして守ってくれた。

僕は、本部長の命令に背く場合、「本部長のこの命令には従いません」と芳賀部長には正直に報告した。芳賀部長は見て見ぬふりをしてくれた。
僕は、会社には背いていないという免罪符を、その都度、部長から発行していただいたのだ。

「祖父江」

「はい」

「ならばまず、岐阜県に転勤しろ。会社員の方が、圧倒的にローンが通りやすい。そして1棟目のアパートで黒字を出すんだ。そうすれば2棟目は、会社員を辞めていても、ローンは問題なく通るだろう」

「ぶ、部長」

「人事部には俺の方から話す。そうだな。君のおふくろさんが少々体調が良くないらしいと、そんな方便を使う。もし聞かれたら、上手く話しを合わせてくれ。
 ポジションは、今と同じ課長だな。君のやり方を、田舎でも見せてやるといい。まだウチの支店以外で、君のやり方の根幹を正しく理解している人間はいない。他の支店でも、同じ結果が出ると数字で証明されたなら、きっとウチの会社の改革が進む」

「ありがとうございます」

「移動したなら、すぐに上司に、アパートを建てたいと相談するといい。新しい上司への、良い手土産になる」

芳賀部長はそう言って、ビールを飲んだ。

僕は、やはり幸運だ。上司に恵まれ、部下にも、お客様にも恵まれた。
例外は、1つだけだった。





その16へ つづく


※この記事は、エッセイ『妻に捧げる3650話』の第1547話です
※僕は、妻のゆかりちゃんが大好きです


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