第238話 二日酔いの前夜は、みそ味の鍋だった
娘が、彼氏を連れて来る。
僕は、会うのが2度目だ。
彼氏は、娘の幼なじみなので、ゆかりちゃんは、小っちゃいときから知っている。
前回会ったときは、彼氏が車で来ていて、お酒は飲めなかった。僕が「飲みたいなあ」と言ったからか、今回は、わが家に泊っていくという。
晩ごはんのリクエストは、「味噌味の鍋」だった。具材の希望を聞くと、
【 豚肉、白菜、シイタケ、シラタキ、角麩、豆腐 】
と、娘経由で、ゆかりちゃんのlineに報告があった。
ゆかりちゃんは、僕にも気を使って、「じょーじのリクエストは?」と、聞いてくれた。
僕は、「白菜多めがスキ~。鍋では、スープが一番スキだから~。だからスープも多めでお願いします~^^」と答えた。
ゆかりちゃんは、「大丈夫やて~、味噌だから。味噌の鍋なら、あとでいくらでも、チャチャっとスープを足せるから~」と、そう言ったのだ。
この発言を受けて、僕は、少し心配になった。
(そういえば、ゆかりちゃんは、味噌仕立ての鍋を作ったことが、1度もないぞ~)
鍋の後半で、「あら、スープが足らんね~」って言って、お湯を足し、味噌を溶きはじめる、そんな映像が浮かんだ。
しかし、そこはもう、尊重村の住民の僕だ。
カーネギーの教えに従い、否定などは、しない。
否定するわけではないのだが、あえて時間もあけて、しばらく経ってから確かめることにした。すぐに確認したのでは、どうしても否定の感じが出る、と思ったからだ。
~~~ しばらく経ってから(小一時間経過)~~~
僕は、切り出してみた。
「ゆかりちゃん、鍋のスープさ~、市販の、みそ味のスープを見たことあるからさ~、それを使った方がイイんじゃないかなぁ~」
「味噌煮込みうどんの、鍋バージョン、って言われてるから大丈夫」
(おお~っと、めっちゃイライラしてるやん~(汗))
(ん? 味噌煮込みうどん? それだって、出汁を入れて味噌を溶くだけのスープとは、違うと思うんだけどなぁ・・・)
「・・・ゆかりちゃん、味噌煮込みうどんって、スープはみそ汁と一緒? 同じ作り方~?」
「うん、そうだけど」
「味噌煮込みうどんも、あと、鍋も、スープは、みそ汁とは、違うんじゃないかなぁ」
ゆかりちゃんは、イライラがMAXという感じで、そしてそれを隠そうともしないで、「ったく~!!」と毒つきながら、スマホを操作した。
僕も、あわてて、ネット検索した。
検索しながら、僕は言ってみた。「僕は、なにも、ゆかりちゃんを責めてないし、批判もしてないし、ただ、『こうじゃないかなぁ』って言ってるんだけど~、僕は、僕の意見って、言っちゃダメ?」と。
やさしく、かつ、かわいらしく質問した。もちろん笑顔で。
ゆかりちゃんは、苦笑いしながら「ダメじゃないよ~」と言った。
そして、「ダメじゃないけど~、アンタだって、私が意見を言っただけで、ゴニョゴニョ・・・」と、途中、またチョット怒って、そして、検索したレシピを読みはじめた。
レシピを確認すると、僕の意見が正しかった。
やはり、お酒を入れるとか、砂糖やみりんを入れるとか、だし汁を使うとか、しょう油も入れるとか、レシピによって違いはあるものの、『みそ味の鍋』も『味噌煮込みうどん』も、ともにスープの作り方は、みそ汁の作り方とは、ひと手間違っていた。
それが判明した。
僕は、またちょっと間をあけて、「ゆかりちゃん、なんか料理のことで、僕が考えを言うと、怒るよね? ・・・すごくイヤなの?」と、聞いた。
この、ちょっと間をあけたのも、尊重村の住民ならではの、気配りだ。
ゆかりちゃんは、間髪入れずに、っていうか、ややかぶせ気味に「イヤやね!」と、きつい目で言った。
「こっちは専門家だからね」と、怒りながら言った。
「え? いま、僕の意見の方が、正しかったよね?」
「は~っ!?」
僕は、説明しようとして、それを考え直し、やめた。
議論なんて、いらないのだ。カーネギーの教えの実践だ。
◆結論&〆
ゆかりちゃんの作った、味噌仕立ての鍋は、めっちゃ美味しかった。
娘の彼氏も、ガンガン食べた。
そして、不要な議論をさけたからか、ゆかりちゃんは僕にやさしい。
ただひとつ気になるのは、僕が尊重村に入村したら、ゆかりちゃんが、ちょくちょく傲慢村にお出かけすることだ。
これを言うと、ゆかりちゃんは決まって、こう言うのだ。
「いや、じょーじは、まだ、尊重村の転入許可が、下りてないから~」
これを、最高の笑顔で、メッチャ楽しそうに言うのだ。
僕は、そんなゆかりちゃんが大好きなのだ。
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