第1話 寝ても寝ても、眠いの
僕はダイニングテーブルで、ゆかりちゃんからプレゼントされた『フォアローゼス ブラック』を飲んでいる。バーボンウイスキーで、普通の『フォアローゼス』の上級品だ。
昔はロックで飲んだが、今はロックだと濃すぎる。最近はもっぱら、濃い目の水割りで楽しんでいる。
実に旨い。
近所のスーパーにはノーマルのフォアローゼスしかなく、Amazonで購入したのだ。
こんな素敵なプレゼントをくれた、優しいゆかりちゃんは、ソファーでTVを観ている。
そして、そのゆかりちゃんが、つぶやいた。
「眠いの。・・・寝ても寝ても、それでも眠いの。どうしてなんだろ?」
僕はスルーした。
「お風呂、先に入りなよ~」
「うん。そうだね。 ・・・ん? スルーした? わたし今、なんって言った?」
「ああ。『眠い~』って言ってた~。かれこれ、一緒に暮らすようになって5年だけど、さっきのセリフは5年前から、もう何十回って聞いているんだよ~。もう、日常だよ~」
「きゃはははは~!」
ゆかりちゃんは、弾けるように笑った。こういうところが、ゆかりちゃんの素敵なところなのだ。
かわいいところなのだ。
「春のはじめは『花粉症の時期は眠い』と言って、春の後半は『春眠、暁を覚えず』って言って、夏は『夏バテ』やら、『秋だから』とか、『最近寒いから』と、年中、眠いって言ってるよ~」
「あはははは~~~!」
「午後9時ごろは、1時間くらいの仮眠という、もうルーティンや~ん」
「あははは・・・、ん!」
ゆかりちゃんは、「そうだ思いついた!」と、行動で語った。
ソファーに置いてある、クッション2つを重ねたのだ。枕にするほかは、ありえない行動だ。そして、横になったのだ。
(そうだ! 仮眠しよう)と思いついたのだ。
JR東海のCMは「そうだ京都、行こう」だ。
ゆかりちゃんは「そうだ仮眠、しよう」だ。
なんかおもしろい。
僕たちは同じような会話を、もう何度もしてきた。それでも、ゆかりちゃんは、本当に自分自身の体調を心配しているのだ。そして疑問に思って、そして少し不安になって、そして僕にたずねるのだ。
「なんで、寝ても寝ても眠いのだろう?」と。
ゆかりちゃんは、純粋なのだ。思ったことを、そのまんま、つぶやいているのだ。
僕は、そんなゆかりちゃんが大好きなのだ。
PS.書き直しました
読み比べていただけると幸いです。