第71話 昨日のケンカ
長文、あしからず。
◆臭い問題
僕たちは、マンション管理組合の理事長を務めている。
今年、大規模修繕工事を控えていて、つい先日の日曜日にも「大規模修繕委員会」と「理事会」とを行なった。
理事会で、マンション隣の飲食店の、【臭い】が問題として上がった。
焼き肉の臭い。
1年前。A店が閉店。代わりに現在のK店が開店。経営する企業は同じで、屋号の変更だ。店舗を改装しプレオープン。そのタイミングで「くさい」と、何件かから苦情が出た。
ダクトの向きを変更してくれないかとお願いした。
すると、担当の責任者は速攻で対応してくれた。
ダクトの位置を変える工事が完了するまでは、大量の段ボールで排気の向きを変える応急処置を、「そうしてほしい」と言った1時間後には、キッチリやってくれて、実は、僕たちは好感をおぼえたのだった。
ダクトがマンションに近い位置にあったときは、たしかに凄い臭いだった。しかし、向きを90度変え、位置を15mくらい離した位置に変更されたら、なんとか妥協できるくらいには改善されたのだ。
この件では、昨年、お店に何度も電話した。
・・・もう苦情を言いたくない。ゆかりちゃんも同意見。
窓を閉めればいいのに。これもゆかりちゃんも同意見。
僕は思った。
ひょっとして、窓を開けていたいのか?
◆建築系YouTube
僕は、不動産屋兼工務店で働いていたこともあり、建築系の番組が大好きだ。ゆかりちゃんもビフォーアフターの大ファンだ。
さらに僕は進化して、建築系のYouTubeをたくさん見ている。
そうすると【本物】に出会う。本物がわかる。
レベルが違う。
本物なのだ。お客様のことを考え、本当のことを、めちゃくちゃ重要なことを教えてくれる。
参考までに【松尾設計室 YouTube】で、ぜひ検索&視聴あれ。
娘への遺言に、「将来家を建てるなら、松尾設計室のYouTubeは必ず観なさい」と書いてある。本当に書いてある。そのくらい本物。
兵庫県の会社だし、そこで作れなんて言わない。ただ、契約前に知っておくべき知識というのはある。だから遺言には「観なさい」としたのだ。
電気代の節約。
カビ対策。
ダニ対策。
ヒートショック対策。
などなど、快適に暮らすための、希少で重要な情報ばかりが無料で観れる。知れる。
素晴らしい時代になった。
◆号外「エアコンの使い方 来る大規模修繕工事に向けて」を書いた
「そうだ。大規模修繕工事も近いし、エアコンのことも・・・」と閃いた。
これはナイスアイディアだ!
・工事中はネットで覆われる
・塗装工事のとき、半日弱、エアコンが使えない日あり
・ちなみに我が家は、夏はエアコンをつけっぱなし(一昨年まえから)
・電気代変わらないか、少し安い
・帰宅して涼しいのはメリット
・松尾設計室のYouTubeも紹介
このように書けば、臭いとは関係なく窓を閉める、そんな家庭も、もしかしたら増えるかも。
直接「臭いなら閉めれば?」というより、何倍も良い提案に思えた。
ついでに、大規模修繕工事の見積りが、管理会社の見立てより500万円も安くなったという報告も入れた。
マインドマップを作って、わかりやすい文章にした。
けっこうユーモアのある文になったと思う。
「エアコンの使い方」という号外だが、結果的には窓を閉める生活をしてくれるかもしれない。
それも、強制などしていない。お願いもしていないのだ。
◆ゆかりちゃんに配慮したつもり
ポスト投函するまえに、ゆかりちゃんに読んでもらうのは当然だ。
でも、帰宅してすぐに「読んでほしい」では配慮不足だ。
そこで、帰宅途中のゆかりちゃんへ、電話で事情を伝えた。
目的や、通知文の概略も話した。
あと、臭いとは別件がもうひとつあって、座間さん(仮名)宅には訪問したいことも伝えた。座間さんとは、【臭い問題】を上げた方だ。
日中少し雨が降ったようで、乾きの足らなかった洗濯物を、浴室乾燥機にかけた。
キッチンの洗い物もした。
帰宅したゆかりちゃんに、一読をお願いした。
ゆかりちゃんは、無言だ。
前半で「これは、ちょっと」と言い出した。
「最後まで読んで」と言った。
読み終えて、考え込んでいる。
「じょーじ! 最高! ナイスアイディアだね~」ってなると思っていた僕は、ガッカリした。
途中で、「お風呂掃除は洗濯物の乾燥中だから~。後でやるから~」と言ったが、生返事だ。
20分も考えてる。
嫌なんだと、明確にわかる。
深いため息をしている。
だんだん腹が立ってきた。
でも、ガマンだ。
「まあいいか」もしくは「まあしかたない」。そんなつぶやきでOKが出た。
ん? 何様?
いやいや、がまん。
座間さん宅に行って、別件を伝えて、最後に号外を渡した。「僕が、無理やり書かせたんです~」と、これもまた、ゆかりちゃんに気を使って付けくわえたのだ。
集合ポストへ行って、残る全戸に投函して部屋へ戻った。
◆ケンカ
ゆかりちゃんが晩ごはんを作った。僕はフロ掃除をした。
二人で晩ごはんを食べた。
ゆかりちゃんの口数が、極端に少ない。
(そんなに嫌だったのか?)
(そんなにヒドイ文だったか?)
(そんなに酷いアイディアだったか?)
ついに僕は、そんなゆかりちゃんの態度を責めた。
責めてしまった。
こうなると、ゆかりちゃんは貝になる。
なにか言うと、火に油を注ぐことになるからだ。
普段から「貝になる」「貝になるしか方法はない」と広言している。
そしてこの時も「だまるしかないから」という。
すべて僕が悪いのか?
その、黙ればイイんでしょ的な態度にも腹が立った。でも冷静になろうとした。
そこで、散歩に行くことにした。
「散歩に行くけど、一緒に歩く?」と聞いた。
「うん」というので、「ゆかりちゃんのコースでいいよ。僕はついてゆくから」と言った。
30分以上、ほとんど会話もなく歩いた。
帰り道、わが家が近づいて、少しだけ会話した。
◆一夜明けて
こんなに大ゲンカになっても、僕とゆかりちゃんは同じベッドで寝る。
これは、ふたりで決めたルールだ。
僕は3:00から4:30まで目が覚めてしまった。
朝の挨拶もする。【挨拶は挨拶。ケンカの道具にはしない】も夫婦のルール。
朝の会話で、昨夜ゆかりちゃんは、なかなか寝付けなかったのだと知った。
◆思うこと
僕の実家は、いわゆる育ちが悪く、家族が家族を応援しない文化だった。「できっこない」とか「どうせ口ばっかりだろう」とか、ダメ出しが凄いのだ。
なんか、身内に厳しく、他人さまには気を遣う文化っていうのか、そんな感じがあった。
子どもの頃は、世の中とはすべて、そういうものだと思い込んでいた。
しかし、大人になって、田舎から都会に出て。すると、家族が家族を応援する、そんな家族があることを知った。
最初は「小っ恥ずかしいくないのか?」と思った。
そして、家族が全力で応援したり、家族が家族を全力で庇うことも見聞きした。また聞きではなく、直接聞いたのだ。友達が姉を庇う言葉を。
姉が宗教のルールで、親の葬儀に参加しない。手も合わせない。それを親戚たちは責め立てる。
友達は、「ホントに困った姉で~」というもんだとばかり思ってた。
なのに、「お姉ちゃんが信じる宗教のルールだから、しかたない。兄弟が庇うしかない」と言ったのだ。
兄弟が全力で姉を庇ったと聞いた。
衝撃だった。
仮に、もし僕の実家ならと置き換えて想像すると、兄弟は「お姉ちゃんのせいで」と、親戚以上に責めるだろう。
「そもそも、変な宗教に入ったりして、どうかしている」と、全力否定する光景しかうかばない。
実例はまだある。
「姉が『30万円貸してほしい』と言ってきた」と、友達。
僕は、てっきり友達からは、「困ったもんだ」と、文句や愚痴が出ると思っていたが、「50万円貸した」というのだ。
「余計な20万円は返さなくていいし、貸した30万円もある時払いで良いから」と、そう言ったのだと!
驚いた。
「姉が、あんなこと言うなんて。きっとよっぽど困っているんだよ」
僕は、このとき危うく泣きそうになった。
こんな素晴らしい兄弟愛があるのか。現実にあるんだ!
そう感動したのだった。
だからか。
僕は、応援する家族に、すごく憧れている。
全力で庇う家族に、すごく憧れている。
コンプレックスかもしれない。
憧れているから、応援してくれなかったゆかりちゃんの態度に傷ついたのだろう。
そして、育ちの悪さが改められてないから、ゆかりちゃんを責めてしまったのだろう。
書いていて思った。
応援する家族に憧れているのなら、
僕は、ゆかりちゃんを全力で応援し、全力で庇わなければならない。
僕がゆかりちゃんを責めようとする。
そのピンチのゆかりちゃんを、もう一人の僕が全力で庇うのだ。
育ちの悪さを克服し生まれ変わった僕が、ゆかりちゃんを全力で庇うのだ。
これは、新しい気づきだ。
今日が人生で一番若い日だ。
全力で家族を応援し、全力で家族を庇う。僕は、そういう僕になる!