第129話 めっちゃイイ小学校
こんな小学校。あったらいいな。
めっちゃイイ小学校だ。
こんな、めっちゃイイ小学校が、あったらいいな。
めっちゃイイ小学校にも校則はある。
校則
1.自分の好きなことを、一生懸命やれ。やり通せ
2.自分のことは自分でやれ。他人に迷惑をかけるな
3.物や時間を大切に使え
校則はこの3つだ。
そりゃ、いくら、めっちゃイイ小学校でも、「すべて自由!」ではないだろう。それでは小学校じゃ、なくなっちゃう。
この校則がなかったなら、どうなるか?
ぼくが、この小学校の生徒だった場合、かわいい女子にちょっかいを出してしまう。
ぼくは今は53歳のオジサンだ。だけど、ぼくにだって小学生時代はあったのだ。そして、ぼくは小学生のとき、席替えで、ひそかに大好きだった、ゆうこちゃんのとなりになったとき、うれしくて舞い上がり、イタズラばかりしたのだ。
席替えのときに、こっそり神様に「ゆこちゃんのとなりになれますように」って、お願いしてたんだ。神様っているんだ~、って思ったのを覚えている。
ほかの男子から、「じょーじは、ゆうこちゃんが好きだからイタズラするんだろ~」と、冷やかされた。「ちがうよ~。ぜんぜ~ん」と、ごまかした。すると、なんと担任の先生が、「では席を変えますか?」と言ったのだ。
そんなこと言うなよ~、と思ったけど、そんなふうに正直には言えなかった。
ぼくは、「ああ、べつに~。どうでも~」と強がってしまって(そりゃ、はなしの流れからいって、強がるよ~)、それから46年たった今でも、「しまった~。あんなこと言うんじゃなかった~」と思っている。
だから校則は必要なのだ。かわいい女子に迷惑をかけちゃいけない。
それと、初恋が、舞い上がったイタズラで散るのも、切なすぎる。
他人に迷惑をかけるな
この校則があれば、ゆこちゃんが僕のイタズラに困ることも、僕が席を変えられることも、きっとなかったはずだ。
そして、こんなタイミングで余計なことをいう先生は、めっちゃイイ小学校には、ひとりもいないのだ。
・・・先生のせいにしちゃ、ダメだよな。ぼくがイタズラをしなければ良かったんだ。・・・でも。
めっちゃイイ小学校には、学年がいらない。学年がないんだ。
年少組と年長組に大きく分けるだけ。ざっくりいうと、低学年と高学年で分けるんだけど、でもそれは、年では分けない。教科別に、ひとりひとりの能力をちゃんと考えて、それで分けてくれるのだ。
「タロウくんは、そろそろ年長組やね~。ハナコちゃんは、まだこっちの年少組やよ~」という感じだ。
年少組と年長組では、教わる先生が変わる。たとえば、算数の先生が6人いて、年少組の担当が、A先生、B先生、C先生。
年長組の担当が、D先生、E先生、F先生。と、このように分けているだけなのだ。
そもそもが、めっちゃイイ小学校では、生徒が、好きな先生を選べるのだ。
時々、なんとなく、という気分で、別な先生に質問したってイイのだ。
めっちゃイイ小学校では、どの先生も生徒ひとりひとりに、ちゃんと目を向け、ちゃんと耳を傾けてくれるのだ。
めっちゃイイ小学校には、時間割がない。
自分が今勉強したい、その教科の教室に行けばいいのだ。
ずーっと国語だけでもイイのだ。算数だけでもイイし、図工だけでもイイ。音楽だけでもイイのだ。
体育の時間は決まっているけど、ただ、やりたい種目は自由なのだ!
野球ばかりやってもイイし、サッカーだけでもイイ。ころころ変えてもイイ。まんべんなくやってもイイ。マット運動ばかりやってもイイ。
あと、途中での移動も自由だ。
国語の先生に、「アリは、はたらくのに、どうしてキリギリスは、はたらかないの?」と質問したら、「それは素敵な質問ね~。その質問ならわたしより、理科のサブ先生がくわしく教えてくれるわよ~」となって、「じゃあ、理科室に行ってきま~す!」って、そのタイミングで移動してイイのだ。
めっちゃイイ小学校では、先生はあだ名で呼んでいいのだ。
生徒が考えた、生徒が自然に呼ぶようになった、そういうあだ名で先生を呼んでイイのだ。「サブ」「カメレオン」「鬼瓦」「さくら」「サナエ先生」などと、生徒たちが呼びやすい名前で呼んでいいのだ。
めっちゃイイ小学校では、先生があれこれ言わない。
「あれをしなさい」「こうしなさい」というのがないのだ。それどころか、先生からはめったに話しかけてこない。
わからないところを、生徒から先生に聞きに行くのが、基本のスタイルなのだ。なにを聞けばいいかわからないなら、だれかの質問に先生が教えているのを、それを一緒に聞けばいい。
めっちゃイイ小学校では、先生は生徒のどんな質問でも、どんな意見でも、ちゃんと聞いてくれるのだ。そして、ちゃんと答えてくれるのだ。
めっちゃイイ学校には、なんと宿題がない。
マジでない。
ほとんどない。ほんとうに、ごくたまに宿題が出ても、それはドリルとかではない。
宿題は、あったとしても、『考えること』なのだ。
「先生。五角形の面積って、三角形の面積の計算を使わないと、出せませんか?」
「おお、いい質問だ~。これは宿題にしよう。【不当辺五角形の面積を、三角形を使わないで計算する方法】だ。みんな、これを考えてみなさい」
という感じだ。
そして、この宿題は、できなかったとしても問題ないのだ。そのときは、ほかの生徒の考えを、聞かせてもらえばいいのだ。
ぼくは小学生のとき、やればできる計算ドリルを、夏休みの宿題として出されることが納得できなかった。だって、やればできるんだから、やらなくていいじゃないか。そう思っていた。
親も先生も、このぼくの考えは、受け入れてくれなかった。
でも、将棋プロの藤井聡太くんは、同じことを言って、そして堂々と宿題をやらなかったらしい。計算ドリルではないだろうが、「わかっているのだから、取り組む必要はない」という考え方は、ぼくの考えと同じだったのだ。
ぼくは、ひょっとしたら【天才】だったのかもしれない。
ぼくが天才だったのか、の話はやめて、めっちゃイイ小学校の話にもどる。めっちゃイイ小学校には、ともかく、ほとんど宿題がないのだ。
だから、めっちゃイイ小学校では、教科書を学校に置いてってイイのだ。
もちろん、持ち帰るのも自由だ。
先生への質問は、教科書以外でもイイし、図書館にあった本のことを質問してもイイし、雑誌でもイイ。なにを質問してもイイのだ。
めっちゃイイ小学校には、いじめっ子がいない。
みんな、自分がやりたいことや、やらなければならないことで、時間が足らないのだ。
人をイジメたり、イジメられたりする、そんなヒマがないらしい。
めっちゃイイ小学校は、本当にある。
実在するのだ。
ぼくの書いたこの文章の、ほとんどは、『山の学校は✕年✕組』という本(文芸社 著者:島居義侑(すますえ よしゆき)の中に書かれていることなのだ。
この本の前半の内容を、少しだけかいつまんで、そして、ぼくなりの文章にしたのだ。
もちろん、『山の学校は✕年✕組』という本の内容は、こんなもんじゃない。もっと深くて、そして面白く、そして泣ける。
なによりも、「そうなのか~」という驚きがあり、「そうだ、そのとおりだ」と、とても大事なことを教えてくれる。
ただし、大人向けだ。小学生が読むには、すこし難しいかもしれない。
でも、メモをして忘れないようにして、大人になったら、ぜひ読んでみてほしい。それくらい素敵な本なのだ。
「好きな教科ばかりでイイなんて、そんなのおかしい」
「たとえば、算数が嫌いな子は、算数を勉強せずに小学校を卒業するの? そんなのダメよ」
「音楽ばっかり、とか、理科ばっかりとか、何かにかたよってしまうんじゃないか?」
このような心配が、うかぶかも知れない。
大丈夫なのだ。
じっさいの、山の学校には、年少組の下に、1年組がある。
この1年組で、大事な土台をつくるのだ。
もう一つ、大丈夫な理由がある。
好きなことを学ぶと、必ず別な勉強も必要になるのだ。
たとえば、野球を頑張ると、理科の知識が必要になったりする。より、遠くへ投げるには?という疑問には、理科の知識が役に立つのだ。
ぼくが、この小学校の生徒なら、絵ばかりを描いたかもしれない。
そして、絵を描くには、遠近法とかをきっかけに算数や理科にも興味を持ったかもしれない。算数の教科書を、ちゃんと理解するために、国語の勉強が必要になり、国語を勉強したら、シャーロックホームズの推理小説に夢中になった。と、こんなふうになることも、けっこうあると思う。
勉強は、つながっているのだ。
ゆかりちゃんの案
ぼくの奥さんの、ゆかりちゃんに聞いてみた。
「どんな小学校なら、めっちゃイイ小学校だと思う」と。
「エアコン完備!」
これが、ぼくの奥さんの第一声だった。
少し考えて、「トイレがきれい!」ときた。
「あ、あと、これは絶対や! 給食はバイキング!」
いろいろな料理があって、好きな料理を、好きなだけ食べていいのが、バイキングだ。
ぼくは笑った。
笑ったけど、でも考えてみると、ゆかりちゃんの案は、めっちゃイイ学校にあったなら最高なのだ。
ぼくたち夫婦が考える、【あったらいいな、めっちゃイイ小学校】とは、
・校則は3つ。
・学年がない。
・生徒が、好きなことを学べる。
・先生を、あだ名で呼んでイイ。
・先生全員が、生徒を見ている。
・先生全員が、生徒の話を聞いてくれる。
・先生が、あれこれ言わない。
・宿題がない。
・学校に教科書を、置いてっていい。
・イジメがない。
(ここまでは、『山の学校は✕年✕組』という本の内容)
・エアコン完備。
・トイレがきれい。(洋式、洗浄機能付き)
・給食がバイキング。
(ゆかりちゃんの考え)
・【幸せ】という教科をつくり、幸せとは何なのかを、先生と生徒が一緒に考える。1週間に1回【幸せ】を学ぶ。
・【お金】という教科をつくり、お金の基本を教える。これもやはり、1週間に1回【お金】を学ぶ。
・最悪のタイミングで、「では席を変えますか?」という先生は、いない。
(ぼくの考え)
と、このような内容となる。
これが、ぼくと、ゆかりちゃんが考える、めっちゃイイ小学校だ!
夏はめっちゃ暑く、冬もめっちゃ寒いという、盆地特有の気候。
ぼくの奥さんのゆかりちゃんは、そういう盆地で生まれ育った。
だから、第一声が「エアコン完備!」だったのだろう。
ぼくは、そんな素直なゆかりちゃんが、めっちゃ大好きなのだ。