恋愛下手な沖縄娘が、東京で仕事に夢中になり、沖縄に新たな夢と恋人を連れて帰る話(仮)【小説の下書き その6】
下書きです。
あとで書き直します。
2.ひまり 【ゆ会】の忘年会
・12月
池袋駅北口から徒歩5分の居酒屋は、焼き鳥が安くて美味しいと評判のお店だ。
テーブル席の奥にはお座敷があった。大きいお座敷が2つで、小さいお座敷が1つ。間の襖を取り払えば、1つの大きなお座敷にすることも可能だった。
その大きいお座敷2つを、【ゆ会】が予約したのだ。真ん中の襖を外し、大宴会場が出来上がっている。
参加メンバー数は60人以上だった。
各テーブルの中央では、ちゃんこ鍋が出来上がっていた。シンプルな塩味で、好みで加える柚子胡椒が、めちゃくちゃ好評だった。
お刺身の盛り合わせ、焼き魚、焼き鳥と、店員さんがキビキビと料理を運んでいる。
One・Two・One・Two・Three・Four ♪
♪Bounce with me Bounce with me♪ ♪Bounce with me Bounce♪
♪Bounce with me Bounce with me♪ ♪Bounce with me Bounce♪
DJ OZMAの『アゲ♂アゲ♂EVERY☆騎士』が聞こえた。携帯電話の着メロで、鳴っているのは、ひまりの携帯電話だった。
「はい、小宮山です。はい、ありがとうございます。無事に帰ってきました~! 今日? 今日はムリですぅ~。明日、会社に顔を出しますね~。はい、そうします。は~い」
「誰からですか?」と、ひまりの隣に座っている田代さんの奥さんが聞いてきた。
さらにその隣には、田代さんのご主人が座っていて、【ゆ会】のご夫婦仲の良さは凄いなと、ひまりは感心しながら、「会社の上司からです。会社に寄るのか、って聞かれました」と、サラダを食べつつ答えた。
ひまりは、成田空港から直接、この居酒屋に来たのだった。それは【ゆ会】のみんなが知っていた。幹事の瀬戸さんが、
と、事前のアナウンスを行なっていたからだ。例の、メール一斉送信というのは、とても便利だと、瀬戸さんの奥さんのむっちゃんから、ひまりは聞いていた。
今日は無事、飛行機は遅れることなく成田に着いた。結果ひまりは、定刻の夜8時の少し前に居酒屋に着き、メンバーから「雪が降る」などと茶化されたのだった。
久しぶりに会う【ゆ会】のみんなは、どの顔も満面の笑みだった。メンバーからの好意を浴びて、その都度、ひまりの胸は熱くなった。
「それで、ブラウンさんは、わざわざ見送ってくれたんですか?」と、同じテーブルの上田さんが言った。
「そうなの。そんなこと初めてさ! それだけでも嬉しいのに、ブラウンさんは、なんと空港に、奥さんとお嬢さんを呼んでいたのさー」と、ひまりは目を大きくし、感情を込めて語った。
「ええっ! スゴイ! 家族で見送ってくれたの⁉」
「ブラウンさん、やるなぁ~」
「そういうのって、嬉しいですよね」
「そうなのよ~! 奥さん、メッチャ美人だったし~い。オリヴィアちゃんが、まあ~可愛いのなんのって」
「隊長は、奥さんや娘さんが空港に来るって、知らなかったの?」
「サプライズだったんじゃない?」
「そうなのよ~! ブラウンさんが見送りに来るのは知っていたよ、当人から言われたからね。でも、奥さんやオリヴィアちゃんの登場には、ビックリしたさ~」
「奥さんと子どもと、空港で待ち合わせしたのかぁ~」
「欧米の男性って、そういう、ちょっとしたサプライズをサラッとやっちゃうイメージあるわ~」
「男性が、サービス精神旺盛って感じ、あるよね~」
「すみません、日本の男はサプライズとか思いつかなくて…」
「文化の違いね。レディーファーストとかも、素敵よねぇ」
「ホント、ホント」
みんなが自由に語った。当たり前だが口数は女性が多い。圧倒的に多かった。
「これって、僕たちが思っている以上に凄いのかもよ。日本の修学旅行に例えたなら、バスガイドさんが新幹線のホームまで見送りに来た、みたいなさ。もし、そんなことがあったなら、引率の先生や、その学生たちがメッチャ良かったってことだろ?」と、田代さんが言った。
「なんか、その例えは微妙だけど、でも、隊長たちが凄かったのは間違いないわね」
「隊長は、現地の運転手さんまで魅了したのよ」
「その運転手さん、ハンサムなんでしょ? 会ってみたいわ~」
「今日ここに来たなら、盛り上がるのになぁ。隊長、サプライズないの?」
「隊長が1番驚いて、隊長の瞳がハートになったりしてな!」
大きな笑いが起こった。
ひまりは、前回、前々回と、2回連続で【ゆ会】の飲み会に参加できなかった。その反動もあってか、今日はみんな、いつも以上にテンションが高い。
「そのときのメンバーって、今日参加してます?」
「うん、もちろん来てる。あの辺にいるのが、そのときのメンバーだよ」
「あ、あの美人って、もしかして?」と、田代さんの奥さんが言った。
「え、どこ、どこ?」と、ご主人が食いつき、奥さんに「ったく」と睨まれた。
「そう! 染谷さん! チップを最初に渡した人。でも、美人に鼻の下を伸ばしていると、奥さんに逃げられちゃいますよ」
「ホント、男の人って、どうしようもないんだから」
「でね、このロンドンでの話は、まだ続きがあるんです」
「続き?」
「なになに?」
「なんだろう?」
「ブラウンさんがバスの運転手仲間に、私たちとのアレやコレやを、自慢しちゃったの。で、ロンドンの観光バスの運転手仲間にワ~ッと広がっちゃって、巡り巡って、ウチの会社にバレちゃったの! 私が勝手に、スーパーに寄らしちゃったことが!」
「あちゃー!」
「ええ? それってダメなの~?」
「ツアーって、鉄の掟があってね。それが『予定通り』なの。だから、会社から小言を言われたさ~」
「たぶん大目玉だよ。大目玉を喰らっても、それが、隊長には小言程度なんだな。どう、隊長? 当たってるでしょ?」
「正解! よく分かりましたね、さっすが。私、ササ~ッと始末書も書きました。そもそも私は、初めてのツアーでも、あっ、それは国内ツアーだったんだけどね…。その初めてのツアーでも、先輩の言いつけを、たった”3秒”で破ったからね! そんな私が、ロンドンのあの異常事態の中で、ルールなんかに縛られるワケない! あんなトラブル、予定通りになるワケないんだから」
「ハハハ~! 肝が据わっているなぁ」
「隊長~! さすがです!」
「でもね、小言を言われて、少しワジワジしたからさ~。会社ではブラウンさんを“日本製のお菓子”で説得したんじゃなくて、私の英会話能力と、”私の魅力”で説得に成功したって、ちょっと創作して説明しちゃったさ~!」
「ハハハ~! 隊長~、それ最高~!」
「メッチャ捏造~!」
「会社の上司たちはさぁ、私に会うと『お前は色気が足らない』とか、いつもうるさいから、『英国紳士にはストライクだったみたいですよ』って、言ってやったさ~」
「ワハハ~!」
「受ける~!」
「おもしろ~い!」
ひまりのトークは軽快だった。さっき別のテーブルでも同じことを語っていて、エンジンが暖まった感がある。この話は、これまでにスナックでも披露したし、方々で語っていて鉄板ネタになりつつあった。
まだまだ、回るテーブルはたくさんある。最近の【ゆ会】は毎回参加者が多く、隊長のひまりが席を移動するのは恒例となっていた。
みんな、ひまりと語りたいのだ。もちろん、ひまりも、みんなと語り合いたかった。
斜め前の島のテーブルには、瀬戸夫婦がいた。ひまりよりは年上だが【ゆ会】の中では、その若さが目立った。
2人は仲良く、愛し、見つめ合っていると、ひまりには感じた。
一方、50代や60代のご夫婦には、いたわりや、寄り添いや、良い意味でのあきらめや、信頼のようなものを感じるのだった。
もしかしたら、そのようなものが、本当の「愛」なのかもしれない。最近、そんなことを思う。
若い自分や、瀬戸夫婦は、「好き」や「大好き」であって、それを「愛」と思っているけれども、もしかするとそれは「愛」とは、別物かも、とひまりは思った。
愛って、きっと最初はないんじゃないかな。育ててゆくものなのかな。ふと、そう思った。
ダダ、ダ、ダダ
♪タ~ン、タ,タ♪ ♪タ~ン、タ,タ♪ ♪タ~ン、タ,タ,タ~ン♪ ポン♪
♪タ~ン、タ,タ♪ ♪タ~ン、タ,タ♪ ♪タ~ン、タ,タ,タ~ン♪ ポン♪
また、ひまりの携帯が鳴った。今度は、いつもの着メロで『島人ぬ宝』だった。
「はい! ひまりで~す。今終わったの~? 了解で~す。いや、まだまだ始まったばかりですよ~。は~い、待ってますね~」
電話を切ったひまりは、「私、テーブル移動するね」と言った。
「ええ? 隊長、行っちゃうの~」
「もっと話を聞きたいわ~」
「もっと隊長と話したい!」
「また、回って来るからさ~。あっ! 瀬戸さ~ん!」と、ひまりは立ち上がって、瀬戸さんに手を振った。
「またね」と言って、テーブルを離れる。
瀬戸さんも、声が届いたらしく、島の端に移動してくれた。「佐々木さん、あと10分くらいで着くって、今、電話があったの」と伝える。
「分かりました。見えやすい、あっちに、僕、移動しますね」
「助かるわ~。ありがとう」
「隊長は、次はどの島に行きますか?」
「あそこに行く。順番に回らないと分からなくなっちゃうからね」
「了解しました」と瀬戸さんは言った。瀬戸さんはハイボールのフリをして、ウーロン茶の炭酸割を飲んでいる。幹事だから酔っぱらうワケにはいかないと、2杯目以降はノンアルコールに変えているハズだ。
いつも大車輪の働きで、ひまりは、本当に頭が下がってしまうのだった。
今夜は、この現状を佐々木に見てもらって、今後の【ゆ会】についてアドバイスをもらうことになっている。
瀬戸夫妻は、無償で働いていて、ひまりは、ず~っと心苦しかった。
「僕たちが勝手にやっていることなので、隊長は、何も気にしなくてイイんです」と、瀬戸さんもむっちゃんも言ってくれるが、その言葉にさえ申し訳ないと思ってしまうのだ。
ありがたいやら申し訳ないやら。
ひまりは、佐々木さんを呼んで良かったと思った。分からないときは素直に聞く。もう、それしかない。
むしろ、相談が遅かったと、ひまりは反省した。
その7へ つづく
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