見出し画像

今はスマホがあるから,イイ時代だよなぁ

「私はブスだ」と、お姉ちゃんが言った。

僕は、そんなことを思ったことなかったから、「えっ?」と言った。
驚いたのだ。
まあ、お姉ちゃんが「私は美しい」と言った場合でも、驚いただろうけど。


「唇は厚くて、タラコ唇だし。……こんな唇、大っ嫌い」

「へ~」


「へ~って、じょーじだって同じだからね」

「は?」


「遺伝だよ、遺伝」

「じゃあ、俺もタラコ唇なの?」


「あんた、知らなかったの?」

「あ、お、・・・うん」


この会話は、お姉ちゃんが小6か中1だった。
僕は、小4か小5。

それまで僕は、ろくに鏡を見ることがなかった。
東北のド田舎の昭和50年代。我が家には洗面台がなかった。
歯磨きは流しで行なった。「流し」とは台所のことだ。キッチンだ。

風呂場には鏡があったが、鏡は曇るし、僕はド近眼だった。
当然、入浴中は眼鏡を外していた。

だから、僕の思う僕の容姿は、完全に想像だった。
妄想やイメージだ。

写真を撮られる機会も滅多になかった。
我が家にカメラはなかったし、写真を撮るという機会がなかった。


僕が、僕の容姿を確認したのは、小学5年生の修学旅行の後だった。
同級生が20人しかいないド田舎の小学校では、5年生と6年生が一緒に修学旅行に行った。
学校側は、2年に1度で済むという合理化ゆえだった。

カメラマンによる写真が撮られて、廊下に貼りだされ、欲しい写真の番号を申告する制度だった。

僕は、同級生のマドンナの写真が欲しかった。
でも、そんなことをしたことがバレたなら、男友達に冷やかされるに決まっている。
さんざん悩んだが、マドンナの写真はあきらめた。

じゃあと、自分が写っている写真を探した。
なかなか見つからない。

あれ?
もしかして?

そういえば、お姉ちゃんが「じょーじだってブサイクだからね」って言っていたな。

え?
コイツが俺か?

僕は、ちゃんと見れば良いのに、ちゃんとは見たくなかった。
すぐに目を逸らした。


あの、大村崑みたいな小学生。

大村崑さんの動画↓


……あれが、俺か?


メガネをかけているのは、俺と田代だけだ。
田代以外でメガネは、大村崑だけだった。

あれが、俺なのか?


改めて写真を見る。
また、即、目を逸らす。

俺って、いつも、あんな変な姿勢なの?
俺って、いつも、口が開いているのか?


僕は、1枚も写真を買わなかった。
にもかかわらず、後日、集合写真が強制配布された。

僕は、両親や姉弟にからかわれるかと思った。
「変な顔」と言われるだろうと身構えた。

しかし、周りは何も言わない。
周りは何とも思っていないのだ。

そうか、と僕は気づいた。

両親も、姉弟も、先生も、同級生も。
いつも僕を見ているのだ。
見たマンマの僕が、写真になっているのだ。

世界中で唯1人、僕だけが驚いたのだ。
そして、世界中で唯1人、僕だけが傷ついた。

こんな顔じゃ嫌だ。
こんな姿じゃ嫌だ。
僕は、こんなんじゃない。

神様を呪った。
ブサイクな母ちゃんを少し恨んだ。
父ちゃんのせいにもした。もっと美人を選べよと。
そうすると僕が生まれてこないとか、そういう理屈が頭をかすめたけど、とにかく受け入れたくなかったのだ。


僕は、意識して鏡を見なくなった。
見たくないのだ。

僕は、意識して写真には写らないようした。

現実逃避を、徹底的に行ない、
現実逃避を、徹底的に続けた。


だから、いつまでたっても自分の顔に慣れなかった。
口がポカンと開くことも治らず、猫背でアゴが突き出る姿勢も、全く治らなかった。

その自覚がないから。


今、学生や若者で、自分の顔や身体が嫌いな人は、心して読んでほしい。

ブスだと思うなら、人の何倍も鏡を見ろ。

ブサイクだと思うなら、人の何倍も鏡を見ろ。

動画も撮れ。
自分の動きを、姿勢を撮って撮って撮りまくれ。
それを毎日観ろ。

慣れるから。
マシに思える日が来るから。

口を閉じることが出来るようになるから。
見続ければ、美しい姿勢や動きも出来るようになるから。

何年も見るんだ。
1日に何回も見るんだ。

僕のように逃げちゃダメだ。

ブスなのに、あるいはブサイクなのに、美人やイケメンと勘違いしている奴がいるじゃないか。

あれは、見慣れたからだ。

なぜ、自分ちのワンちゃんがハンサムに見える?
見慣れているからさ。
ヨソのワンちゃんってブサイクじゃん?
見慣れていないからさ。

そういう事なんだよ。

現実逃避は、しちゃアカン。
現実は受け入れるしかない。致し方ないのだ。

受け入れると、【正しい対策】が可能になる。

笑顔の練習。絶対にやった方がイイよ。マジで。


僕は、小5で気づいたのに、25歳まで現実逃避した。

思春期を、青春を、棒に振った。







おしまい


※この記事は、エッセイ『妻に捧げる3650話』の第1513話です
※僕は、妻のゆかりちゃんが大好きです

PS. 僕のKindle本 ↓『いいかい、タケルくん』【考え方編】です。


読むと、恋人ができてしまう自分に変わります。
恋愛とは、若者だけのものではありません。

人生100年時代。
40代、50代、60代、70代でも、恋愛って必要です。(僕の主観です)
そばにいるパートナーは、誰にだって必要ですよ。(僕の感想です)

「考え方」ですから、若者だけでなく中年にも参考になります。
もちろん若い男性には、モロ、参考になります。

女性にも参考になります。
【男の思考】が詳しく書かれていますから。
「男性って、そんな考え方をするんだぁ」と、きっと参考になります。

ご一読いただけたら幸いです。


いいなと思ったら応援しよう!

奈星 丞持(なせ じょーじ)|文筆家
コメントしていただけると、めっちゃ嬉しいです!😆 サポートしていただけると、凄く励みになります!😆