この展開は? 妻に、真面目に「私を見て!」と言われて、僕は少しとまどった
その日曜日、僕は、朝から麻雀に出かけました。
仲間との麻雀です。
朝の9時から夕方5時までが、このメンバーの通常の対戦時間です。
せっかくの日曜日ですが、僕は、ゆかりちゃんにお付き合いができません。
にもかかわらず、昨夜のゆかりちゃんは、ルンルンでした。
「まずは、○○へ行って~」
「あ、先に△△へ行った方がイイか!」
「で、午後は~・・・」
と、メッチャ楽しそうに計画を立てていました。
* * *
夕方の6時くらいに、僕が帰宅しました。
すると、ゆかりちゃんが、僕に駆け寄ってきて、
「わたしを見て!」
と言うのです。
(なんだ?)
(ま、まさか)
(ぬ、脱ぐのか?)
ゆかりちゃんは、僕の正面に立ちました。
そして両手で、僕の両手を取りました。
逃がさないという、真剣な気迫です。
そしてもう一度、
「わたしを見て!」
と言いました。
(・・・こ、この流れは?)
(・・・これは、瞳を閉じるのか?)
(・・・その場合は、応じるべきだろうか?)
ゆかりちゃんは、瞳を閉じることなく、こう言いました。
「今、スッピンなの!」
「エステに行ったら、凄いのよ~!」
「ものすごく顔がキレイなの!」
「わかるでしょ⁈」
「肌が、すごくキレイになったの~~~!」
「お、おお~っ!」
と、僕の口からは、感嘆と受け取ってもらえそうなセリフが出ました。
咄嗟にしては、どうやらナイスな発言のようです。
そう手応えを感じたので、僕はもう一度、
「お、おお~っ!」
と、重ねて言いました。
僕は、できることならウソを言いたくありません。そういう人間なのです。
本当は、ゆかりちゃんの顔はいつもと変わらない、とそう思っていました。
そもそも、ゆかりちゃんは、普段から肌がキレイなのです。
スベスベです。肌はすごくキレイなのです。 肌もすごくキレイなのです。
今日が特別キレイかというと、僕には正直、違いが分かりませんでした。
ウソは言いたくありませんが、だからといって、ゆかりちゃんをガッカリさせたくもありません。
ですから、「わからない」とか「変わらないよ」とか、そんなヤボを言うわけにはいかないのです。
* * *
僕の「おお~っ!」というセリフに満足した感じのゆかりちゃんは、今度は、鏡とにらめっこしています。
「このキレイな顔、写真に撮っとこ~」
かなりのボリュームで、滑舌も明瞭に、高らかに自画自賛してスマホで自撮りします。
自撮りした画像を、ゆかりちゃんが確認しました。
「・・・ん?」
「・・・写真じゃあ~、肌がキレイなことが、よく分からないなぁ」
と、ボヤいていました。
(スマホには【エステ行ったからキレイになったバイアス】って、ないからねぇ)
重ねて説明します。
僕は、思っただけです。余計なことは言いません。
だって僕は、ゆかりちゃんが大好きなのですから。
おしまい
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