第95話 にわかファン
今、ゆかりちゃんは野球を観ている。
選手名鑑を片手に、応援している。ゆかりちゃんは選手名鑑を毎年買う。古いのも捨てない。
巨人VS中日戦だ。3-5で中日のリード。
ゆかりちゃんは長年ジャイアンツファンだった。内海哲也をトレードで放出してから、ジャイアンツ、正確には原監督のジャイアンツを応援できなくなったのだ。
内海哲也が行った西武ライオンズの放送は、この地域ではない。かつ、内海が1軍にいない。
2年を要して、この地域のマジョリティ、ドラゴンズファンに転身した。
にわかファンだ。
僕も3年ぐらい前から、にわかドラゴンズファンだ。情熱のまったくない、静かなファンだ。軽く応援する程度なのだ。
ゆかりちゃんは情熱のあるジャイアンツファンだったので、チームや監督は応援できなくても、好きな個人はたくさんいるのだ。日テレのズムサタを毎週楽しんでいる。
そんなゆかりちゃんが言った。
「今日は勝ってよ~」
「ん? どっち?」
「中日よん♪ 巨人対中日なら中日」
「ほ~」
巨人が中日以外と戦ってるなら、そのときは巨人を応援するという意味だろう。
「よし!!!」とゆかりちゃんが喜んだ。
「ん!」
TV画面を観ると、4-5だ。 4?
「中日がピンチをしのいだん、ちゃうの~?」
「ほほ~^^、亀井さんが打ったもんだから~」
テレビでの放送が終わって、4-6らしい。中日が1点追加したみたいだ。
中日の抑えは、岡田。
岡田は、智弁和歌山高校出身らしく、そのときから応援しているらしい。
「チベンの漢字、わかる~?」
「難しい方か? 変換で出たよ」
「あ、和歌山は簡単な方かも」
(なら、なんで「漢字、わかる~?」って言ったの?)と思ったけど、僕は、ゆかりちゃんの間違いは指摘しない。
和歌山は、辯ではなく弁でイイらしい。
「岡田君が投げてんのに、観れんの~悔しい~~~」と悶絶している。
ネットで試合の経過を見ているのだ。
「岡田君だけはタオル持ってるもん」と、不思議な自慢を入れてきた。
「よし! 今日は勝った!」
中日が勝ったようだ。
でも、一番大きな声の「よし!!!」は、亀井の内安打のセーフのときやったで、ゆかりちゃん。
僕は、そんなゆかりちゃんが大好きなのだ。