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第127話 マドンナたちの怪談
これは、僕が高校時代に同じクラスのマドンナふたりから聞いた怪談だ。マドンナふたりは、ほかの友だちから仕入れたのだと思う。
約35年前のネタということだ。だからご存じの方もいるかもしれない。
途中で「ああ、これ知ってる」と思った方には申し訳ない。その場合には、微笑みながら、ほかの方のnoteへ移動していただければ幸いである。
内容は脚色せずに、当時僕がマドンナたちから、聞いたとおりに書く。
マドンナふたりは、「ねえねえ。『ちょっと背中がスーッとする話』するから聞いて~」と言って、次の話をはじめたのだ。
聞き終えると、ホントに背中がスーッとしたのだった。
◆ちか道
サラリーマンが、深夜に自宅へ、徒歩にて帰宅中。
けっこう酔っている。
真っ直ぐ進んで、次の大きい通りを左に曲がる。それが普通のルートだ。左に曲がって、しばらく歩けば自宅に着く。
今いる位置から、大きい通りまで、ゆっくり歩けば10分くらいか。左は大きな公園だ。大きい通りまで公園なのだ。
(この公園を抜けていこう。その方が近いだろう)と、サラリーマンは考えた。
* * *
公園を歩いていると、林の中から物音がした。
「カーン」
また、聞こえた。
サラリーマンは好奇心が騒ぎ、行ってみることにした。音をたよりに林の中を進む。しばらくすると、ぼんやりと明かりが見えた。
そこからは、息を殺して慎重に進んだ。
女だ。
女は白装束だ。明かりは、ロウソクの火。女は、火のついたロウソク2本を鉢巻きで頭にくくっている。
「カーン」という音の正体は、女が、五寸釘をわら人形に打ちつけている音だった。
女の目は血走り、耳を澄ますと、「死ね・・・、死ね・・・」と、つぶやいている。
◆逃げる、そして黙る
サラリーマンは後ずさりした。そして小枝を踏み、音をたててしまった。
「ポキ」
女と目が合った。
逃げた。走った。走って、走って、走った。
振り返ると、女が走って追いかけてくるのが見えた。
走って、走って、走った。
息が切れる。タバコや酒の、日頃の不摂生が悔やまれる。
公衆トイレが見えて、吸い込まれるように入ってしまう。
個室が3つあり、一番奥へ入った。鍵を閉めた。息を殺した。
通り過ぎてくれることを願う。
もう大丈夫か? そう思ったとき、ひとの気配がした。
はだしの「ひた・・・ ひた・・・」という足音が近づいてくる。
もう終わりだ。個室を全部確認されれば、隠れていることが確定になる。
一番手前の個室のドアが、「ぎいー」と鳴った。
「いない」というかすかな声。
「ひた・・・ ひた・・・」
「ぎいー」
「いない」
「・・・」
次はココだ。そしてドアは開かない。ドアが今にも「ガヂャガヂャガヂャ」と鳴りそうだ。いやそうなる。もう個室はココだけなのだ。
「・・・」
「・・・」
物音が一切ない。
あれ、帰ったのか? いや、待ち伏せだ。出てくるのを待っているのだろう。
引き続き、油断することなく息を殺し続ける。
かれこれ30分くらいはたったか?
さすがに、もう大丈夫かと思う。それでも、念のためにと考え、サラリーマンは動かない。沈黙を選択する。
さらに時間が経過する。
どれくらいこうしているのか、よくわからなくなってきた。
あれから5分しかたってないのかもしれないし、逆に1時間たったようにも思える。
(う!)
サラリーマンは、危うく声を出しそうになった。
(出ていくときの足音は、聞いたか?)と思ったのだ。聞いていないような気がする。
もしそうなら、女は女で、自分と同じように、膝を抱えて息を殺している可能性がある。
誰かが来るのを待つか?
朝までは、あとどれくらいの時間なのか?
さらに音もない時間が過ぎる。
サラリーマンは、何度も迷う。
(いくらなんでも、もう大丈夫だ)(いや、念のためもう少し)
(こんなにも長い時間、物音を立てないなんて不可能だ)
(そうだ、もう大丈夫だ)(あともう少し、念のため)
(しゃがんでいる脚がもう限界だ)(念には念をだ)
(ほんの少し、外が明るくなっていないか?)(いや、そんなことはない)
さんざん迷い。たくさんの時間を耐えた。
そして、どう考えても、もう大丈夫だと思った。
ゆっくり立ち上がる。
外の気配を探る。・・・音はない。
よし。カギを開ける。
「カチャ」
ふと思って、ななめ後ろ上を振り返る。
女が、そこからのぞいていた。
◆おまけ
この怪談は、もちろんゆかりちゃんにした。
「文章ではどう?」と聞いたら、
「ラストが、良くない」
と、たった今、バッサリ切られた。
僕は、そんなゆかりちゃんが大好きなのだ。
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![奈星 丞持(なせ じょーじ)|文筆家](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/76807197/profile_1b131e63b956beac74502f9366356404.jpg?width=600&crop=1:1,smart)