第8話 奇跡 byさだまさし

僕と、ゆかりちゃんは、ともにサスペンス好きだ。

趣味。食べ物の好みの異なる2人だが、サスペンスや推理小説という、このジャンルだけは同じなのだ。大好きなのだ。

今、ゆかりちゃんは、テレビでサスペンスドラマを観ている。

山村紅葉が出演している。

「あ、山村紅葉が出てるね」と僕はつぶやいた。

でも、ゆかりちゃんからは、リアクションがなかった。


さて、

1 ドラマの内容に夢中。

2 僕のつぶやきが聞き取れなかった。

3 山村紅葉、だから、なに?

この、いづれかが理由だろう。


僕は、ゆかりちゃんより少しだけ推理小説の読書歴が長いから、油断すると、ちょっとしたウンチクを語りたくなる。

悪い癖なのだ。


でも、今日はこらえた。

言いたかったのは、山村紅葉の母は山村美紗で、西村京太郎がなんちゃらで・・・、というウンチクだった。


内容なんて無いに等しい。

僕の、雑学をひけらかしたい! ただ、それだけ、なのだ。

言わなくて良かった。


最近の僕は、ムリしてまで、ゆかりちゃんと一緒に行動しよう、としていない。

ちょっと前までの僕は、なんでも共有したかった。

映画でも、ドラマでも、小説でも、同じものを観て、そして同じものを読んで欲しくて、また実際に、そうしようとしていた。

例えば、録画した映画があって、僕がそれを観たくても、ゆかりちゃんがそのとき、いないのならば、僕は観ないのだ。

一緒に観れるときにと、僕は考えるのだった。


同じものについて、意見を交換したかった。

感動を共感したかった。


でも、僕はそれを最近やめた。


結局は、どんなに誘っても、ゆかりちゃんはBリーグを観に行くとは言わないし。

AAAのニッシーのライブに、僕も行ったけど、良かったけれど、でも僕は、次は行かないかな、と思っているし。

別々で、良いんじゃないか。そう思うようになった。


近頃は、同じとき、同じリビングにいて、でも別なことをしている。

そんなスタイルになっている。


今も、ゆかりちゃんはサスペンスドラマ視聴中だ。

僕は、こうしてnoteを書いている。


で、さらには、このnoteを書くまえ僕は、YouTubeを観ていたのだ。


さだまさしの『まさしんぐWorld 22』のライブだ。

いよいよフィナーレ間近。

僕はコードレスイヤホンで聴いている。

この時の企画は、ファンにリクエスト曲をアンケートで募集したのだ。1人1曲だけ。アンケートを取って、集計し、その上位100曲を、くじ箱の中に入れる。

当日、会場のお客さんが、このくじを引く。このコンサートで歌う曲が、こうして、数曲づつ決められてゆくのだ。


アンケートの上位3曲は、必ず歌うらしい。

この動画で観ている、その昔のコンサートは、そういう企画だった。


3位はオープニングで歌っている。

「主人公」だった。

説明不要の名曲だ。

さだまさしファンには納得だ。


以降は、会場のお客様の引く、くじ引きの結果で歌う曲が決まっていった。

普通、このようなアンケート調査をすると、リクエストはかたよるらしい。

「それは、そうだろう」と、思う。人気の曲に、表が集中するだろう。それが普通だろう。

ところが、リクエストが400数十曲に分散したらしい。


さだまさしの場合は、すべての曲がが名曲といえる、のかもしれない。僕は実際、全曲が名曲だと思っている。


さらに、代表曲の『精霊流し』が100位以内に入らなかったと!


コアなファンが選ぶ選曲。ファンならではの選曲。

僕は、めっちゃ興味津々だ!


さて。

そんなこんなで、残すはラスト2曲。

リクエスト2位は『奇跡』。


これは僕も大好きで、15年前ぐらいに練習した。

キーが高く、そして音域が広いので、カラオケでキーを下げると

低いところがイマイチになる。

ゆえに、カラオケのレパートリーに加えることを、泣く泣く断念した曲だ。


この曲を練習した理由は歌詞にある。

↓ご参照くだい

https://www.uta-net.com/movie/10965/

ゆかりちゃんに歌う歌として、バッチリの歌詞なのだ。


だから今も、つい、小さな声で、僕も歌った。


ゆかりちゃんが観ているドラマを、けっして、じゃましないように。

小さな声で。

でも、心地よく。

うっとりしながら、メロディーと、自分の声と、そして歌詞に酔いしれていた。


歌がサビに入った。

♪あなたの笑顔を~ 守るために~♪

♪多分~僕は~ 生まれてきた~~~~~♪♪♪

(そうだ。僕は、ゆかりちゃんの笑顔を守るために・・・)



「どうしたの? 苦しいの?」

という、ゆかりちゃんの声。


目を開けると、ゆかりちゃんが僕の顔を覗き込んでいる。

僕が、うっとりと歌っている顔は、苦しい顔、だったらしい。



ちなみに1位は、なんと『黄昏迄』。

僕は、この曲が好きで、高校生のころ、良く口ずさんだ。

自転車に乗り、歌った。

映像が、くっきりと浮かぶ曲だった。


僕が、20歳か21歳。

好きな女の子と、ドライブで逗子や葉山のヨットハーバーに行った。そのときも、この曲が頭の中で流れた。


そして今。僕は53歳になって、わかった。

この歌詞は、晩年向きなのだ。

晩年の人の心に、グッとくる歌詞だ。


さだまさしファンも、いつしか高齢化していた。

だから、今になって、この『黄昏迄』が、リクエストナンバー1になったのだ。僕は、そう思う。


そして、この曲は、若いころのさだまさしが作詞作曲したのだ。


すごいなあ。


うっとりと歌を口ずさみ、曲がサビに入る。めっちゃココチいい!

僕は、そんなタイミングで声をかける。


そんな、ゆかりちゃんが大好きなのだ。




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