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港町の少年奴隷(完)
婚約相手が海難事故で命を落した後も、ヘレンのアドニスへの態度は変わらなかった。
しかし、ヘレンの表情は常に暗い。
そんなヘレンを心配して、あるいは他の理由からなのか、来客が増えた。
「次の相手を紹介する」
「我が息子はどうだ、悪い話ではないぞ」
「世継ぎは必ず作らねばならない」
来客の言葉は、誰でも同じようなものが多い。
ただ、アドニスにとって、一番困ったのは、来客のアドニスを見る目も「異常」を帯びていること。
それは、男でも女でも同じ。
アドニスの顔から全身をくまなく、なめるように見る。
中には、偶然を装うのか、アドニスに倒れかかって来る場合もある。
それも、すべてヘレンの機転により、「実害」は、発生していない。
そんな生活が数か月続いた後、とうとうヘレンからアドニスに「夜のベッド」の言葉がかかった。
アドニスは、ヘレンの奴隷であり、その指示を拒むことはできない。
その身体を、ぶるぶると震わせながら、ヘレンのベッドに入った。
「・・・全て・・・言う通りに」
アドニスは、懸命にヘレンの要求に全て応えた。
「上手くできなかったら・・・」
そんなことを心配する余裕もなかった。
「必死の行為」は、やがて甘美なものに変わった。
ヘレンも何度も涙を流して、アドニスを求めた。
「全て」が終わり、ヘレンはアドニスの耳元でささやいた。
ヘレンの腕と脚はアドニスに巻き付いている。
「彼の子供のころに、よく似ているの」
「だから、アドニスを買った」
「アドニスは私が満足するまで、私を喜ばせなさい」
「それがアドニスの仕事」
アドニスは買主ヘレンの指示通り、ヘレンが35歳の若さで命を落すまで、ヘレンの要求に応えた。
その後、ヘレンの残した遺品を整理する中、一通の手紙を発見した。
「アドニスへ」
「婚約相手には似ていないよ」
「アドニスを一目みて気に入ったから、買ったの」
「身体の成長が待ち遠しかった」
「いつも、夜は至福でした」
手紙の最後に驚くことが書いてあった。
「アドニスの奴隷の身分は、もうありません」
「市民権を買ってあります」
アドニスは天を仰いだ。
「いったい、自分の人生は・・・何だ・・・」
「これから・・・いったい・・・」
アドニスは、生涯結婚することはなかった。
女と浮名を流すこともなかった。
アドニスにとって、ヘレン以外の女は考えられない。
ヘレンの残した商売を引き継ぎ、無難にこなしながら、生活を送った。
ヘレンの死後、ほぼ二年後に、アドニスは死んだ。
死因は、アドニスの愛を得られない女奴隷による毒殺だった。
自分のものではない奴隷の人生と死。
アドニスにとって唯一の幸福な時間は、ヘレンとのベッドの時間だけだった。