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兼業作家or専業作家!?
今、「作家デビューしても仕事を辞めるべきではない」論争がネットで話題になっているようですね。
私個人の意見としては、(デビューしてすぐは) 辞めない方が良いのでは、と思っているのですが、結局のところ、ケースバイケース。
まずは、作家の収入というものを知っておく必要がある気がします。
私の場合、2013年にWEBの小説賞を受賞してデビューしているので、コロナを経て書店の閉店が相次ぐ今よりも、出版業界がまだ元気な頃でした。
この話は以前、担当さんの許可を得てすでに他のところでもしているのですが、京都寺町三条のホームズ①の初版部数は、当初14000部の予定だったところ、企画会議で敏腕営業さんが「これは必ず売れます!」と強く推してくださったことで、22000部に決定。発売5日で5000部の重版、さらに翌週に2回目の5000部の重版と、今ではなかなか聞かない絶好調なスタートでした。
その後、角川文庫さんからお声がけいただいた時も、初めから2巻までの刊行が確約された状態でお話が決まりました。これは私が特別ではなく、当時それが当たり前だったそうです。もっと言うと私がデビューする少し前は、初版2万部なんて当たり前という時代だったとか。
しかし今は事情が変わっています。
先述したように書店の閉店が相次ぎ、娯楽は増え、本が売れないと言われている時代です。
デビューしたての新人さんの文庫の初版部数は、1万いけば万々歳で、大体が8千前後だそうです(もちろん、それ以下という場合も多々)。
単行本では3千くらいでしょうか。
印税も5%〜10%、また実売というところもあります。それはご自身で調べていただけると。
(名の知れた大手さんは10%ではないかと)
たとえば文庫一冊刊行することになり
その値段が700円で初版が8千部、
印税が10%だったとします。
入るお金は56万円。
(※ここから10%源泉徴収されます)
年に5冊新刊を出したとして280万。
年に10冊で560万。ここでようやくサラリーマンの年収くらいになります。
もちろん、もっと条件の良い方はいます。
初版部数1万5千部で、すぐ5千部部重版し、トータル2万部になったという方もいます。
その場合、140万印税として入ります。
ボーナスと考えれば大きいですが、年収と考えれば心許ない。
毎年毎年、年に10冊確実に刊行できるならば、生活していけると思いますが、そんな確約はどこにもありません。もし出版社とそんな約束ができたとしても、自分が書けるかどうかも分からない、そんな世界です。
先人たちがデビューしても仕事は辞めない方が良いというのには、こういう事情があります。
しかし、そう夢のない話ばかりではありません。
私は辞めない方がいい派だと最初に書きましたが、それはあくまでも「デビューしてすぐは」の話です。
作家にとって一番大きな宣伝は「新刊を出すこと」とはよく言ったもので、コンスタントに刊行していくと、新刊が出る際に既刊が重版されたり、電子版が動いたりするのはよくあることです。
電子版は実売ですが、印税率は紙の書籍よりも高いです。(大体20〜25%くらい)
また、オーディブル版が刊行されたり、コミカライズされたり、メディアミックスされたりも珍しくない話です。
がんばっていれば、なんらかの賞も獲れるかもしれない。
そうなると、これまで一冊刊行して印税をいただいて、という状態だったのが、既刊の重版、電子版やオーディブル版の売上、コミカライズの印税、メディアミックスにより原作が売れていくなど、歯車がぐるぐる回り出します。
ここまでくると年収は一気に上がっていき、専業作家として生活していけるでしょう。
しかし、ここで大事なのは「それでも書き続けなければならない」ということです。
書かなければ歯車は次第に回転を緩め、やがって止まってしまいます。
ここに生活がかかっているとなると、メンタルに大きな負担がかかってきてしまうわけです。
そういったことを踏まえたうえで、兼業でいくか専業でいくか、覚悟を決めて選択するのが一番ではないかと思います。
兼業か専業か、悩んでいる方の参考になれば、幸いです。