あふれちゃった #Xmasアドカレnote2019 (20日目)
夕方になるとあっという間に暗くなって体の芯から凍えるのに、街の家々の明かりやイルミネーションがあったかく感じる。
子どもだけじゃなく、私もわくわくが止まらないこの季節だからこそ、極力使わないようにしている言葉がある。
「いい子にしてないとサンタさん来てくれないよ」
この言葉には破壊力がありすぎる。私はこの黒魔法に「サンタクラッシュ」と名前をつけた。
子どもが話を聞いてくれないとき、時間を守らないとき、何かしでかしたとき。サンタクラッシュを繰り出せば、ほぼ100%子どもは言いなりになる。だから私はこの絶大なる破壊の呪文を封印している。
それでも、私自身が疲れているとき、イライラしているとき、あまりに子どもの行動が目に余るとき…
のどの奥からこの言葉がこみあげてきて、だけど私はぐっと喉元でそれを呑み込む。
…なんてかっこいいことを言ってみたけど、実際にはそんな綺麗事も言ってられず、呑み込めないで言ってしまって、あああああ…となっていることもなきにしもあらず。
けれど今年、本当に私はこの呪文を使っていない。
ここのところ、もうすぐ4歳の真ん中っこ二男がかわいすぎて、サンタクラッシュの出番がないのだ。むしろ私がクラッシュされている、いい意味で。
時期なのか性格なのか、わりと怒りん坊だった二男が最近では身をひそめ、意にそぐわないお話しでも怒らずに聞いてくれ、「ちょうがないなぁ〜」なんて言いながら妥協してくれる。舌足らずは健在だ。
自分から進んでちゃきちゃきと生活全般をこなしていることもある。
素直にお返事をし、1歳になったばかりの弟のご機嫌が斜めならばひょうきんなダンスで笑わせ、そのうえ大人には甘え上手だ。
控えめにいって、お利口さんすぎて正直ちょっと調子がくるう。
特に最近、私にとって効果絶大の回復魔法を頻繁に放ってくる。
キッチンカウンターの向こう側から、お風呂の浴槽越しに、ソファで一緒にテレビをみているその合間に…
突然、何の脈絡もなく「かっか~?」と呼びかけてきたかと思えば、
「だーいすち…」
若干、上目遣いで、はにかみながら。
最初、私はうれしくってかわいくって、
「かっかもだよ~」
とハグしては、ほくほく喜んでいた。
二男の頭は、まだ私のコマネチラインあたり。目を合わせて、コンパクトな体を私のふところにお迎えしてぎゅっとする。頭をやさしく抱き寄せることもある。
だけど、あまりにもちょくちょく言ってくるもんだから、ちょっと心配になってきた。
だってほら、付き合いたてのカップルとか、倦怠期になったカップルにおいて、ちゃんと愛されてるか自信がないからって自分から「好き」って言うことで相手の気持ちを確かめる…みたいなことってよくあるじゃない?(私は何度もやったことがあるよ。)
というか、そもそも私は息子たちに「大好き」って言ってもらえるような人間なんだろうか。
途端に不安になる。申し訳ない気持ちになる。
すぐ自分の都合で理不尽に怒ってしまうし、忘れ物ばかりするし、計画性がないし、極度におっちょこちょいだし。
長男があまりにダラダラしているから毎日のように雷落としちゃったし、ついこの前は保育園に提出するものを連続3日間くらい忘れていた。突然思いつきで部屋の模様替えするし、ケチャップのフタがちゃんとしまっているか確認せずに振り回して、壁に赤い芸術を描くこともしょっちゅうだ。
子どもたちはそんな私のポンコツぶりによく振り回されている。
私は、大好きに値する人間なんかじゃないと、突如卑屈な自分が顔をだす。
それなのに、今日も二男は、
「だいつき…かっか、かわいすぎるんだもん」
などと大絶賛してくれる。
私は学生時代、お世辞にもモテる人間じゃなかった(きっと今が人生最大のモテ期)。だからこそ、誰かから素直に大好きをぶつけられた経験がなかったからこそ、なんか裏があるんじゃないかと疑いたくなる。
子どもの純粋な気持ちを信じたいのにいけないと思いながらも、ついついこんな質問をしてしまった。
「じろちゃん、何か心配なことでもあるの?それとも、大好きって気持ちがあふれちゃったの?」
自分のためのわがままな質問だ。前者が本命で、後者は冗談めかしてみただけ。
…だったんだけど。
二男は静かに「ううん」と首をふり、
「ちんぱいじゃないよ、あふれちゃっただけ」
そのときの私の目は、よくマンガでみるような、ただの丸くて黒い点になっていたにちがいない。
そうか、あふれちゃってるなら、しかたない。
二男の自信たっぷりな言い方には妙な説得力があった。
それ以来、「だいすち」のあとに、
「あふれちゃった」
が照れ笑いと共に付いてくるようになった。
…あれかな、よく「魔の2歳児」「悪魔の3歳児」という言葉は聞くけれど、4歳児って「小悪魔」なのかな…?
いわゆる「イヤイヤ期」を脱し、トンネルの向こうに明るい陽射しがみえてきたような気がする。
もちろん、まだ寝起きはたいてい「かっかが先に起きちゃったー!」と怒っているし、保育園に向かう道すがら低い石垣を忍者に扮して渡る際には、「いっちゃん(長男)が先にいっちゃったー!」と怒り狂っているし、機嫌が悪いと「かっかのせいだ!」とポカスカ小さなこぶしを振り回しているけれど。
それでもだいぶ、ましになってきた。
だから最近、サンタクラッシュじゃなくて、逆手にとった呪文をとなえることにしている。
「がんばってるから、サンタさんきてくれるね」
これはサンタクラッシュじゃなくて、サンタフラッシュ。まばゆくあったかく、子どもたちの希望の灯台になるような光だ。
だって本当にがんばってる。
ちょっとマイペースな長男も、彼なりに保育園最後の年をがんばっているし、二男は上記のとおりだし、三男も果敢に兄たちに追いつこうとよちよち歩きでがんばっている。
大人にとって都合の良い「いい子」じゃなくたっていい。サンタさんはきっと、そのがんばる姿勢をみててくれると思うから。
∞∞∞∞∞
それでまた話は戻るんだけれど。
でもやっぱり、この甘えっぷりは、何かしらのサインなんじゃなかろうかと思うこともある。
二男は否定していたけれど、私は親として、充分な愛情を注げていないんじゃないか…?
堂々めぐりが止まらない。
でも、このかわいさは今だけの期間限定なんだよな。今だけ、今だけ、もう少しだけ…と自分に言い聞かせながら抱きしめる。
それをみた長男も「いいなぁ」と近寄ってきて、3人でぎゅーしていたら、最近、母独占欲がめきめき発達している三男が泣きながら兄たちをおしのけて、「おれもいれろー」とやってきた。
4人でぎゅうぎゅうするおしくらまんじゅうは、窮屈だけど愛おしい。
…あ、これかもしれない。
ふと思った。
二男だって、いまの三男くらいだったときには、独占欲丸出しだった。
二男はもうすぐ4歳。
胸にわきあがる独占欲を「だいすき」って言葉に昇華させてるのかもしれない。
そういえば、長男が4歳前後、二男が1歳過ぎくらいのときも、やたらと「だいすき」って言ってような気がする。
記憶は芋づる式に頭に浮かんでくる。
そうだそうだ、そうして意識的に長男と2人だけの時間を作ったりしていたんだった。
特に二男は生まれながらにして長男という存在があったわけで、親をシェアすることが当たり前。そのうえ三男が生まれてからは、若干2歳10ヶ月にしてお兄ちゃんとしての立場も求められるようになった。
「3人目が生れるんです」って話をすると、「真ん中っ子は要領よく育つよ」という噂を何度も聞いた。その噂は、現実となりつつある。
その器用さゆえに、二男が自分を押し込めてしまわないか気にかけてきたつもりだった。それでもやっぱり、私が受け止めきれてない色んな感情があふれちゃってるんじゃないだろうか。
家族なのに、本心をさらけ出せないような関係はいやだ。「大好き」以外のどんな感情だって、あふれちゃう前に吐き出していい場所でありたいから。
がんばってる二男には、「かっか独占権」というスペシャルなクリスマスプレゼントを贈ろう。どこかに2人でおでかけしたり、2人きりで大好きな絵本をたくさん読んだりしよう。
だから、「だいすき」は時々でもだいじょうぶだよ。そんなに安売りしないで大事にとっておいてもいいよ。そんなに急いで大好きを使い切らないで。
言葉にしなくても、伝わってるからね。
私の胸にもあふれちゃっている大好きを、照れずに息子たちへ伝え続けよう。
メリークリスマス!
〈おわり〉
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最後までお付き合いいただき、ありがとうございます。
このnoteは、ルミさんが企画された #Xmasアドカレnote2019 に参加しています。
大人になって、12月の毎日がこんなにわくわくしたことってあるでしょうか。
最初お誘いいただいたときは、そうそうたる執筆メンバーの中、「えっ…私でいいの…?」という思いが前面にでてしまったけれど、だからこそ気負いすぎずに思いきり自分らしい文章を書いて楽しもうと思ったのでした。
素敵な企画にお誘いいただき、本当にありがとうございました!
さて、このリレーイベント、昨日の走者はおぎさんでした。
タイトルからは想像もつかない、とても壮大なストーリー。サンタさんって偉大だ…!
想像力ってとても大切だと思う。子どもの無限の想像力を伸ばすお手伝い、私もしていきたい。素敵な解釈は目からウロコで、自分の親にも感謝したくなるお話だったなぁ。
さてさて、明日のバトンを握るのは、誰でしょう??
それこそ想像力をかきたてられる小説を書かれる、あのお方です。
どうぞお楽しみに〜!
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