固定された世界と取り残された私の話 ~深堀隆介『方舟2』によせて
金魚に憑りつかれた絵師、深堀隆介。ひとつの絵を通して、彼が金魚に命を吹き込んでいるのか、金魚が彼に命を吹き込んでいるのか。それはわからない。それでも、2.5D Painting という技法を用いて彼が描いた金魚たちは、まるで本物のように美しい。いや、人間の理想を詰め込んで描かれた以上、それは時に本物さえも超越する。
「金魚鉢、地球鉢。」にて展示された作品の中でも、『方舟2』はかなり大型の作品だ。あまりに重く、樹脂を流し込んで制作を進めていくうちに、一人では運ぶことすらままならなくなったという。そういう意味でも、方舟は本作品の名前にふさわしいといえるのではないか。
本作品を作者は親魚から稚魚、そしてたくさんの成魚に至るまでの流れる人生をイメージしたというが、私は逆に、そこに一瞬の固定された時間を見た。水も金魚も酸素ポンプも、確かにあるはずなのに動いていない。時は止められて私以外、すべてのものが固定されているんじゃないかという錯覚。わかっている、これは作品だ。金魚は生きていない。動くはずはない。だけどそれでも、ふとここで私が振り返ったとき、本当にすべてが止まっているんじゃないか、止まった時間の中で私だけが取り残されているんじゃないか――そんな錯覚を、私に起こさせるのである。
あの部屋が無音だったら、たぶん私はしばらくの間その場から動くことすらできなかっただろう。おそらく、視界に入る何もかもに疑心暗鬼を抱き続けたはずだ。そんな中、遠くから響いてきたのは祭囃子。部屋越しに響いた祭囃子の音だけが、私をそんな妄想から現実に引き戻してくれたのである。