Victor Erise "El Espiritu De La Colmena"

ヴィクトル・エリセ監督「ミツバチのささやき」を観た。
音楽も映像も美しく、甘やかな痛みに胸が締め付けられる映画だった。最近では「読書する女」以来の大好きな映画だ。
実は昔、憧れの人に誘われて観に行った映画。しかし私は幼な過ぎてあまり理解できなかった。
今回観直してみてほんとによかったと思う。
ヴィクトル・エリセ監督はスペインの人。この映画は1940年頃のスペインが舞台で、スペインの内戦が終わるか終わらないか・・・監督が生まれた時代である。映画はフランコ政権下の1970年代に発表された。そんな時代背景が、前面に出すぎることなく絶妙なバランスを保って芸術へと昇華されているところがすごい。
ロングショットの風景、永遠に続くかのような線路、列車から飛び降りる兵士、広がる荒れた農地、廃墟のような作業小屋、フランケンシュタインの幻想。
無垢な妹アナと姉のイザベル。アナの演技ではない自然な表情は切なくなるほどの可愛さだし、イザベルもまた魅力的だ。イザベルが黒猫の首を絞めて反撃され、血の滲んだ指先で唇をゆっくりなぞって染めていく様などゾクゾクしてくる。
姉妹が住む館のガラス扉はハチの巣状のワイヤーで装飾されているのは象徴的だ。父親は日記に綴る。
「・・・巣の中の蜂たちの活動は絶え間なく、報われることのない過酷な努力・・・唯一の休息たる死もこの巣から離れねば得られない・・・」
母親が手紙に綴るのは「・・・内戦で失われた村、失われたもの・・・人生を感じられる力もなく・・・」
諦めているかのような大人の中にあって、アナだけは月に照らされた庭へと扉を開き
「ソイ・アナ Soy Ana」私はアナよ・・・と精霊に呼びかけるのだ。