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小川洋子「ことり」取り繕えない人たち
前から気になっていた「ことり」をやっと読むことができた。ずっと本棚で待っていてくれてありがとう♡
11歳の頃から小鳥の言葉を理解し、小鳥の言葉を話せるようになった兄。言い換えると、小鳥の言語しか聞き話すことができない兄と、唯一兄の言語を理解できた弟の物語。
社会の中に適応することが困難な、ある種の障害をもった人たち。著者の言葉をお借りすると、「取り繕えない人たち」の物語である。
声高に何かを訴えるものではなく、あくまでも静かにささやかに、温かく愛に満ちて語られる。だからこそ、ひたひたと感銘が押し寄せてくるのだろう。
この物語を読んで感じることは、一人一人違ってくるかもしれない。
わたしが思ったことは、「いろいろな人がいるのだもの、取り繕えないことも個性の一つであり、特別なことではない。あるがままの存在を大切にできたらいいな。」ということだった。
そして、何よりもわたしにとっては「音」に関連した表現が特に魅力的だった。好みの問題だけれど。こういうところがないと文学を読んだ気がしない。たとえば次のような表現だ。
彼の中身は透明で、空っぽで、ただ耳だけが小鳥や朗読やオペラに向かって捧げられる。だからこそ音たちは余計なものに邪魔されず、意味さえ脱ぎ捨て、ありのままの姿でお兄さんの中に染み込んでいった。
なんて素敵な文章だろう。教えていただいてよかったぁ。
ホドロフスキー監督の虹泥棒の余韻がまだ視界から遠のかず、あれ以来映像作品を鑑賞していない。おかげで久々に読書に親しむことができたので、それはそれでよかった。今は村上春樹だ。