'woven song' イカロとクヌーと祈り歌
「僕たちという自己は、大きな偉大なる何かの一部で生かされている。例えば、新たな境地に立ち向かう時、僕たちが心を開いている間はしっかりと支え受け止めてくれる腕のような存在、感覚、そういったことのメタファーを、映像作家のThomas Vanzが可視化してくれた」
アイスランドのポスト・クラシカルの旗手、オーラヴル・アルナルズのニューアルバム'some kind of peace' よりシングルカットされた'woven song'
アルバム作品の中で、一番最初に書いた曲で、このアルバム制作において決定的な瞬間でもあった、という。タイトルの'Woven'は編み込まれた歌、と訳したら良いだろうか。
幻想的な光の帯が飛び交う、フューチャリスティックで、それでいてとてもオーガニックな映像に目が釘付けになった。
旋律は、オーラヴルらしい、はかなく強く美しいピアノにストリングスが重なり、そして、アマゾンのシャーマンによる'Icaro/イカロ’というHealing song(治療歌、祈り歌)が用いられている。
アマゾンの熱帯雨林は超高周波の自然環境音に冨み、そこに住むシピポ族のシャーマン達は、その地を’母なる生命’として敬い信仰し、そこで、自身の呼吸音を薬用植物が教える振動に同調させて ’イカロ'(ケチュア語で’吹く’を意味する)を歌うのだそうだ。
そして、この植物の振動を音楽にした癒しの歌は、密林の中で、極めて限られた治療儀礼の中で歌われ、伝承されてきた。
「このシャーマンに出会い、彼女の治療歌をサンプリングする事に了承してくれて本当に感謝だった。彼女はもう亡くなってしまったけれど、こうして作品ができあがった」
シピポ族の自然崇拝/シャーマニズムにおいては、草も木も人も、全ての存在はそれぞれ固有の「クヌー」を持っているいう。(Spiritual DNAとも言われる)’イカロ’を習得したシャーマンには、そのクヌーが独特の幾何学模様として目に見えるのだそうだ。人が病気になれば、その人の持つクヌーが乱れ、シャーマンはその乱れたクヌーに向かって治療歌を歌う事でヒーリングを行う。シャーマンにとって、クヌーは「歌の楽譜」でもあり、このクヌーの幾何学模様は織り物などに施され、’見る薬’として、必要な人のもとへ送られたという。タイトルの'woven song'には、そんな意味も含まれているのだそうだ。
'woven song'は、オーラヴルとシャーマンとの、時空を超越した世界と、癒しの音に違いない。