画面から臭いまで伝わる。【映画感想】「その夜の侍」(2012)
●もう一度観たい度 ★☆☆☆☆
●度肝抜かれ度 ★★★★☆
●かじりつき度 ★★☆☆☆
●どんな人に勧めたいか 堺雅人が嫌いな人
【あらすじ】
妻をひき逃げで殺された中村は鬱々と暮らす中で、加害者の木島を殺して自分も死のうと決めていた。木島は短い刑期を終えて、人に迷惑をかけながら適当に生きつつも、中村からの脅迫に動揺していた。
中村の義兄や、職場の仲間が心配して縁談など持ちかけるが自暴自棄のようになった中村には何も届いていない様子。木島は友人夫婦の家に居候のような形で居座り、暴力で周りの人間を支配している毎日の中、中村から脅迫状が届くようになる。そんな中で迎えた妻の5年目の命日に、中村と木島は対峙する。
*****
まず、見ようと思ったのが、堺雅人×山田孝之 というキャスティング。
先にふたりのインタビューを呼んで、爽やかでサラサラなオーラを纏った堺雅人と、獣のように髭を伸ばした山田孝之のツーショットが面白くて。
実際観てみると「堺雅人はどこ」というかんじ。
賢そうでもなくかっこよくもなく、強そうでも優しそうでもない、普通のおじさん(むしろ普通より汚い)なぜもともとむさ苦しい人じゃなくて堺雅人がキャスティングされたの?と考えながら観続けることに。
山田孝之演じる木島はクズなんだけど、なんか安心感がありすぎて、クズ木島に対してこいつまじやべーとか、こいつなんなの最後ひどい目にあって死ね!って思ったりとかがなかった。
むしろどんなに乱暴者で最低なことをしてても、時折見せる子供っぽさとかに無意識に救いを見出したりして。
これは意図的なアレなのかな。木島を心底嫌な怖い奴に見せないようにしてるのかな。行動だけでも清々しいクズっぷりだったけど。
一方で堺雅人演じる中村は、被害者遺族であって、奥さんを亡くしたせいで普通じゃなくなってる。汚くて汚くて暗くて汚い。ぜったい臭い。満員電車にあの人が乗ってきたら、どんな事情があるか知らないけどあっち行ってって思っちゃう。悲哀たっぷりで同情はするけど共感まではできないキャラクターだった。
綾野剛というキーワードで観たものの、綾野剛の出番は多くない。
事故に居合わせ良心の呵責も持っているものの、木島に逆らえない、友人というより子分のような雰囲気の男の子。悪人ではないものの強い意志表示ができず深く考えることもできない、そのせいで木島に良いように使われて内心モヤモヤしている、成熟も自立もしきっていない”コモノ”っぽい表情がすごくリアル。
すごく幼くて初々しい表情だったのでまだ出たての頃かな?と思ったけど公開は2012年。
2012年といえばドラマ「カーネーション」のあたりでその翌年には「最高の離婚」に出てるので売れかけの頃?なのかな。撮影が前年だったとしてもあの”完成していない佇まい”はリアルだった。30歳には到底見えない。
全体のストーリーで言うと、ああいった暗くてじめじめした作風の中に、何気ない日常の会話を出してきたり平凡のありがたさみたいなのを見せてくるのはわりと普通かなと思ったけど、出て来る人全員が幸せじゃない丸出しの顔を終止しているので、いつ何が急に起こるのかドキドキしながら静かなシーンを観ていた。ネタバレ気をつけて言うけど、最後のプリンのシーン、
わけがわからなかったけど、人の心ってああなのかも。妻が残した留守電を、妻の下着を嗅ぎながら繰り返し聞くシーンも、
わけがわからなかったけど、人の心って、誰も見ていないところではああなのかも。あくまでかもだけど、かもと思ったから見れた。
見終わった後味として、「救いがない」「ただただ暗い」「鬱になる」などの感想を目にしたが、プリンをああするラストはハッピーエンドなんじゃないかな。私としてはプリンのシーンがいちばん痛々しかったし、プリンをお願いだからもう出さないで って思って見ていたから。
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