【小説】姉弟 ~ある夏の日~ 1000字
弟はお姉さんのサヤが怖かった。
しつこく、ねちっこく根に持ち、何かあるとそれは数か月にわたることもある。
蹴り攻撃には小学生の時に苦しめられた。
幼児のころから腕力脚力の喧嘩でも敗退し続けたことがあり、それゆえ拭いがたい苦手意識が無意識に沈殿していた。
「予防として目を付けられないようにする。災難にして何かあったら鎮火させないとまずい 反論を言い正論をはこうとすること自体無益だ なにか良いことになったためしはない」
見抜ききっており、展開や構図を読み切っている。
姉はそんな彼の心中も知らず、秋のそよ風のようなとても気持ちの良い弟だと思っていた。
こうした、いわくねちっこい?強烈な存在のせいでミキヒトは極めて自然に、川の水に流されるように、あるいは滝の崖から落下するように、天才的なレディファーストになっていた。
怖いと。
聞くしかないと。
。。。
さらに姉のおかげで中学1年になった時、恋の本質を知ることになった。
サッカー部に入った。
大きくて怖くて、強烈なシュート。あんなのが体に当たったら痛いよなあ。。中1と中3では大人と子供に近い差があるのである。
チャンスと見た時のゴール前への加速した飛び出し。的確な声掛けと指示。ものが違う。
凄いなあ先輩は。怖いし。触らぬ神に祟りなしだ。
俺も3年になったらああなれるのかなあ?
そんなある日のことである。
「お前も幸せだよなあ、あんな良いお姉さんがいて」
「は?」
彼に話しかけてきたのはその先輩だ。2年上の姉と同じクラスなのは知っていた。
「綺麗だし」
(あれがこういう人にはそう見えるのか。。そうか。そういうものなのか。)
「優しいし」
( ゚Д゚)
「まるで包み込んでくれるような」
()
「裸とか見ようと思えばいくらでも見れるんだろ。嬉しいよな?」
謎の言葉に対してピントを合わせないとわけがわからない。
「。。とくに見たくないです」
「嘘つけよ。嬉しいクセに。」
(なにいってんだろ?さっきからこの人)
「洗濯機の横にかごってあるよな、その中には、、あるよな?ホカホカの、、、代わりの新品の下着を買えるように金は出す」
「不潔なだけですよーそんなものあんなもの。本人に言ってくださいよさすがに。欲しいと」
妄想だ。誤解だ。異次元の誤解。なにひとつかすっていない。程遠いといっていい。何者でもない。優しさの対極にあるといっていい。
なんか愛想でも振りまいているのかな?そーゆータイプには見えないんだけどなあ。
そのときグラントににいた姉の姿が視界に入った。今までに感じたことのない怪物性を感じた。
夏の日差しの強い午後のことだった。
ミキヒトは軽いめまいがし、それを振り払うように頭を振った。
グラウンドの歓声が耳鳴りのように響き、熱い風が頬を撫でた。
耳鳴りのような蝉が鳴いていた。グラウンドで走りながら笑いあっている姉の姿を見た。
一部 完
満田