2人の1週間の日帰り旅行【ミステリー】
~愛は一瞬の直感が始まりである。分身の匂いを嗅いだ時に止まらない感情が湧く。懐かしい何かを相手に見つける。そんな2人の愛はどこまでも深い~
プロローグ 爽やかに2人はいなくなった
「今から電車に乗って海に行こうか?」
裕也は萌に話しかけた。
2限の午前の講義が終わり、2人は午後の講義がともに休講であることを話しながら、学内のカフェテラスで話していた。週末間近の金曜日の午後。混雑の時間帯は過ぎていたので2人の声はその楽しそうな弾みとともによく響いた。
「旅行? 今から?」
「今から1時間ちょっとか、日帰りできるよね。気分が変わるし、行こうよ」
「遠くない?というか今1時過ぎでしょ?」
「通勤や通学で通っている人も多いよ?大袈裟な」
いつも一緒にいる萌と午後にどこかに行こうとしていたのは私だった。
でも、まあいい。
あの頃、あの2人は最近急に仲良くなっていた。
5月に大学の屋外観戦イベントがあったため、皆の顔は日焼けで火傷のように赤くなっていた。気温は日ごとに暖かくなっていく季節。
柔らかい薄い新緑も深く濃く変わっていた。生暖かい風が草の香りを運んで生暖かく匂う。
同じテーブルの他の人たちも2人の急接近には気づいていたが、振り切って深くできていたのか、なんであれ急接近して距離が縮まっている。
楽し気な2人の会話は周囲を聴衆のようにひきつけていた。
「どこにいく?」
「え~、地下鉄で行けるところのほうが良くない?お台場とかさ♬」
こうして裕也と萌の2人は海に行くことになった。
そして周りが不審に思う事件のはじまりはこんな楽し気な羨ましくも感じる会話だった。
ところでこの2人の行方は多くの人に注目されていたのである。2人を好きな人たちは多かった。
楽しそうに萌たちに行き先をアドバイスするけーすけの顔は引きつっており、光太は石地蔵のように固まっていた。
(そんなことはない!その噂は違う) と信じたかった人達の願いはこうして目前で崩れた。
2人はきっと日帰りで帰ってくる、もしそうならまだ自分にもチャンスがある、などと彼らは思っているのだろうか?
「じゃ、ちょっと行ってくるよ!」
みんなにこんな心の痕跡を残しながら、このほがらかな高らかに言い放った宣言とともに2人は旅行に行った。
行先は湘南のどこかの海。なりゆきできめるのだそうだ。
翌日、2人は姿を見せなかった。日帰りではなかった。
そうですか、熱くお泊りなさったか。と思うわな。
「楽しいんだろうね、あの2人」
昼も夜もね、たぶんさ~、と品位を欠いた言葉続き笑いは渦となった。だがなぜか美沙子の顔が曇り、みるみるうちに涙目になっていった。
そうだったのか…、みこ、気づかなかったよ、、その想い。
一部のことの心は悲嘆の極に叩き落されていたとはいえ、周りはそんな陽気な状態であった。この時点ではまだのん気だった。
だが週が明けた月曜日。2人はまた姿を見せないまま休んでいた。
でも月曜日段階。少し心配していたのは少数派であり、明らかに2人をからかうような爆笑の輪は頂点になっていた。表面上は。
「表面上は」といいましたが顔を引きつらせて無理して懸命に笑う人、そしてブヨブヨの涙目で心を隠しながら拍手している人もいましたわ、という意味である。
心配とからかいという両極端が交錯するみんなの想像は日ごとに緩く変化している。
そして次の日も来ない。
「変だよなあ、あるいは考え過ぎかな。2人はお愉しみなだけかな?」
何をしているのか?訊くべきか?という声が聞こえ出した。私はとっくに連絡はしていた。
「大丈夫。別に心配しないでいい」
萌からはこういうメッセージは入ってきた。でも通話には出ない。あとは既読スルー。
裕也もそんな感じらしい。
まさか事件や事故に巻き込まれた? でもドラマではよくあるそんなことも、普通はなかなかない。心配し過ぎではないか? とも思う。
でも江の島だろうが鎌倉だろうがそんなに見るところがいくつもあるだろうか?
ない。考えても見れば今までに何回も行っているところではないか?
このメッセージだけで大丈夫としていいのか?
ダイイングメッセージになる可能性もまさか?
そこで自宅のご家族に連絡することも皆で考えたが、問題が一つあった。それは私達がアリバイに使われているおそれ。
たとえば
「え!?恭子さんと一緒じゃなかったんですか!?」
となったらマズいことになる。
そして。。ご家族に聞いて仮に異変であると聞かされたところで、いったい何ができるであろう?
こうして「大丈夫。心配しないで」
の言葉だけが置かれた。深く疑えば何かの事件に巻き込まれ、このメッセージも他人の手で送信された可能性もあり得る。
でも、できることは何もないでしょう。というのも捜索願を出すのも変だし。
でも水曜日になっても2人は顔を見せない。いよいよおかしくないかな?
こうして色んなうわさが飛び交い、日々それは大きくなり、日付は変わっていった。
そうした皆の困惑。
そしてついに金曜日、2人は教室に現れた
こうして目の前に2人が現れたことで、少なくとも今は無事であることは確認できた。
「おつかれー」「元気そうで何より」「元気すぎだけどな」
笑いが起きた。
でも裕也の顔は冴えなかった。後ろで小さくなっていた萌の顔色は引きつり暗い影があった。
「品のないくだらないことばかり言っているね。想像はしていたけど…」
裕也は嫌そうに表情を曇らせて言った。
これは何かあったな! これはあとで話を聞いたほうがいい。
眼で合図したら萌は軽く頷いた。一緒に夜を食べようと萌に伝えた。
○初夏の湘南の真相
待ち合わせの店に萌は早く来ており、私が来た時には既に着席していた。
萌は目が合うと無表情に頷いた。1人でビールを飲んでいた。
「なんかトラブルに巻き込まれたの?ずいぶん長く1週間も。」
トラブルはあった。と語った。
まず、挨拶して皆から去ったそのあと駅で裕也が喧嘩したのだそうだ。それが異変の始まりか?
はたしてそれは?
萌は話し出した。
「なんか変な目でにらみつけられて目があったら薄笑いをされたんだと。 近寄っていってその人に何がおかしい?と裕也もニヤニヤと笑い返して喧嘩を買いに行った、って感じ」
あれか、好きな人の前で男らしさを見せる、という。
既にやや赤い顔でタコの唐揚げをパクパクと口に入れながら饒舌に話は続いた。取り留めなく話は飛んだので要点をかきたい。
「私たちもあるじゃん?カッコいい男がさ、ちょっとどうかな?って女を連れていると、何がいいんだろう?ってじろじろ見てしちゃうって」
「そんなことはいいから。萌が可愛いので喧嘩が起きたことはわかった。何が起きたの?」
「2人で大学見学に学園祭に来た時も、大学生と間違えられてコンテストの当日飛び入り枠にスタッフに誘われていたの覚えてるでしょ?そうじゃあないかな、とは思っていたけど、私は本当に可愛いのかもしれない」
自分が可愛いという話をしだした。萌はこの話が好きなのである。
要点だけでもこんな調子。
「そこの2人出ませんか?って。私は違うの?私も誘われてたよ」
「でも、お兄さんやお姉さんたちは7割は私に話して誘っていたでしょ、」
萌は不満そうに言った。
まあそれはいい。いつものようにマウントしてくるのはいいとして、話がそれている。萌という人がどんな人であるのかこれでわかる!という話が饒舌に続いたが、肝心の謎の一週間、その真相から焦点がずれていくので省く。
さえぎるように話を元に戻した。
「喧嘩で大けがしたの?」
「裕也が言うには喧嘩はすぐどちらが強いかわかるんだって。軽い小競り合いでその人は逃げて行ったよ」
まるで猫みたいだ。いや、猫そのものだ。
そして指の痛みがまだ残る、と萌は言った。そして
「ボイスチェンジャーっていうのがあって異性の声で話せるんだよね」
何かあったことはたしかだ、既に過ぎた事件だからなのか赤い顔で焼き鳥を食べながらふつうに話している。
「振り落とされたときに手をついて指を突いちゃった」
喧嘩にでも巻き込まれたのか?
「江の島と八幡宮しか行っていないのよ」
萌は謎な言葉を語りだした。
この話の佳境は異境の物語である。あるいは他人に言わないだけの多くの人に起きている平行世界?
絵空事ではないが膝を叩いて頷く人とそんなバカな?と怪訝に思う人がいることはわかる。
語られた一週間の空白
金曜日。2人は夕方に宿についた。大磯に。
そしてもうどこかに出かける時間でもないと部屋に入った。
突き指 そして痛めた首
これが謎を解く手掛かりになるのであるがその話は続きで。
続く
おもしろいのは書けるんですがなんというか戸惑っているあたりが今です
続く