没プロット『ミスティックキラードール』①


廃ビルの屋上、佇むロゼと泡(シルエット?)。
泡が口を開く。
「間違いねぇな。『魔術』の気配だ。」

授業中窓際の席でぼんやりと外を眺める女子生徒。
校庭の上空に浮く何かに気がつき目を凝らす。
それは苦しそうにもがく人間だった。
「恭子…?」
気がついて驚いたと同時にもがいていた人間が急降下し、
校庭の中心に落ちた。四方に真っ赤な血が広がる。

慌ただしい朝、スーツを着た母親が朝食の準備もそこそこに
出勤の準備をしている。
「食器洗っといてね あんた今日も学校休みでしょ!」
「課題もやっときなさいよ!学級閉鎖なんだから家から出んじゃないわよ!?」
口うるさい母親を見送りながら、パンを齧る。
『○○市で起きた。高校生の不審死事件に関して続報です。不審死と報じられていた少女ですが、死因に関して高所から落下したような痕跡があったとのことです。少女の死体は校庭の中央に遺棄されており、近くに飛び降りができる建物はなく警察は事件・事故の両方を視野に入れて捜査中とのことです。』
『なお、同市では今月に入り、4件の飛び降りとみられる死者が出ており、関連性を調査中です。』
「飛び降り…」
「自殺?いやいや、そんなわけないじゃん。あの恭子が。」
死んだ女の子・恭子とこの女の子・優里は友人だった。
回想、明るく笑う恭子。
「それに…」
宙に浮く恭子の姿を思い出す優里。
(あれは見間違いなんかじゃない…!)
目立たない服に着替え、部屋を出る優里。

学校に到着した優里、人の気配は無い。
周囲に人気がないのを確認した後、閉じている正門を乗り越える。
そのまま校庭へと向かう。校庭の入り口には黄色いテープが貼られ関係者以外の立ち入りを禁じていた。
そのまま、事件現場に近づく。

校庭の中央で空を見上げる。
続いて校舎を見る。
自分の教室がある3階よりも明らかに高い位置だった。
(人間…には無理だよね…?)

「ねえちゃん、こんな所で何やってんの?」
不意に後ろから声がかかる。
びっくりして慌てて振り返ると大柄の男と少年(ロゼと泡)が立っていた。
返答に困っていると泡がロゼを見上げ、尋ねる。
「一般人だよな?」
「そうだね。」
ロゼが一歩前に出る。優しい笑顔。
「ここで死んだ少女のこと、何か知っているのかい?」
状況がわからないまま頷く。
「仲が良かった?」「クラスメイトかな?」「いつから知り合い?」「家族構成とかわかるかな?」
一気に質問を投げるロゼ。
「あの…!」
声をあげる優里。
「もしかして…」
ロゼ構わず続ける。
「彼女がどうして死んだか知っていたりするのかな?」
優里の背筋に悪寒が走る。優しく見えていたロゼの笑顔がひどく恐ろしいものに見えた。
息を呑み、優里が一歩後ろに下がる。
「警察の見解では飛び降り自殺ってことらしいけど…」
ロゼの言葉に優里の目がきっと鋭くなる。
「あの!…あの子、恭子は!友達でした!多分1番仲良しの!恭子は自殺なんかしません!絶対に!それに私見たんです!あの日、まるで何かに掴まれているみたいに宙に浮いている恭子を!」
ロゼと泡が驚いた顔で優里を見る。さらに捲し立てる優里。
「それに何物って言うならあなた達の方こそ何者ですか!!?ここ学校ですよ!?休校してますけど、部外者は入れないはずです!もしかして…恭子を殺した人と何か関係があるんですか…!?」
息を荒げる優里。

後ろに立っていた泡が、手を叩く。
「オーケーねえちゃん、一旦冷静になろう。うちのおっさんが警戒させちまって悪いな。」
「結論から言えば、俺たちはこのねえちゃんを殺した奴がなんのなのか知っている。そして、その犯人を追っている。だからよ、ねえちゃん情報交換といかねぇか?」

場所変わり。
優里の教室。
「学校の教室なんて小学生ぶりだぜー。うわー座り心地わりー!」
軽口を叩きながら窓際の席に座る泡。
「ロゼ、アンタそこ立ってると、さえねー教師みたいで笑えるな。」
教卓のところに立ったロゼを指差しながら笑う泡。
「冴えないは余計だよ。」
と答えるロゼ。
きゃっきゃと笑う泡。

「あの…恭子は自殺じゃないんですよね?」
2人の会話を遮りながら、優里が尋ねる。
一瞬間を置いてロゼが応える。
「そうだね。」
「だったら、あの子を殺したのは誰なんですか?」
「「魔術師」」
ロゼと泡が同時に応える。
「……」
全員が黙る。
「…ふざけてます?」
優里が沈黙を破る。
ロゼ「大真面目だよ。いいかい。この国では年間8万人超の行方不明者、1000件近い未解決事件が発生している。さらに認知されていないものを含めると数えきれない数になるね。それらの大半は魔術師による犯行だよ。君たちはそれらを認知していないからね。」
優里「冗談…じゃないんですか…?」
泡「何を疑う必要があるんだよ。アンタ、もう見ちまったんだろ?」
優里、空中で苦しむ恭子の姿を思い出す。
泡「それどう説明すんだよ」
優里「…ワイヤー?重力反転装置?…宇宙人?」
泡、ぷぷっと吹き出す。
泡「アンタひょっとして天然だな?」
泡、少し考えて思いついたような様子。
泡「ロゼ」
ロゼ「なんだい?」
泡「喉乾いた。茶が飲みてぇ」
ロゼ「本当になんだい、急に!!?」
泡「いや、ほら、魔術で…」
ロゼ「ああ、なるほど」
疑問符を浮かべる優里。
咳払いをするロゼ。教卓の上に手を添える。
ロゼ『出(トロイ)。ティーセット。』
教卓の空間がぐにゃりと歪むと同時にティセットが現れる。
さらにロゼが空中で指を振る。
ロゼ『水(ヴィーシュ)。火(ティーネ)』
水の玉が現れ、その周囲を火が覆う火が消えると、水の玉から湯気が上がっている。
指をティーポットの方に動かしながら、ポットの蓋を開けると、湯の玉がポットに入っていく。
そのまま、ティーセットで紅茶を淹れると優里と泡の前に置く。
フーフーと紅茶を覚ます泡と目を丸くする優里。
ロゼ「どうだい、これが『魔術』だよ。信じてくれたかい?」
こくこくと頷く優里。
ロゼ「ちなみに、今この学校に私たち以外人間がいないのも魔術だよ。こっちはもう少し複雑な人払いの結界だけどね。」
泡「世界なんてそんなもんだ。一歩横道に逸れりゃてめぇの常識じゃ測れないモンが広がってる。」
ロゼ「それじゃあ話を続けようか。魔術師には、いくつか禁忌があってね。その中でも大罪に当たるのが『魔術の秘匿』を破ることなんだ。これは大昔に迫害されたって言う歴史があるんだけどまぁその辺は置いといて…」
ロゼ「私たちはその禁忌を破った者を裁く『秘匿隊(オブスキュラス)』という組織のものだよ。私が隊長。その子…泡は戦闘員だ」
泡が笑顔で手をふる。
ロゼ「今はこの街で、連続落下死を起こしてる魔術師を追っているんだが、魔術の痕跡は残ってるけど、中々足がつかめなくてね。ようやく目撃者に出会えたよ。」
泡「ここからはこっちが話を聞く番だな。」
泡「浮いてるねえちゃん見たのってこの教室か?」
泡、窓から外を眺める。
優里「…うん、この席。えと、浮いてたのはあの辺かな。」
泡「掴まれてるみたいだったって言ってたよな?」
優里「うん、こう、首押さえて…苦しそうだった…」
百合がジェスチャーで自分の首を握る。
泡「どう思う?」
泡がロゼの方を振り向く。
ロゼは顎に手を当てながら考えるように上を向く。
ロゼ「浮遊や重力操作とは違うみたいだね。」
優里「あの、もうひとつ聞いてもいいですか?」
ロゼが優里を見る。
優里「どうして恭子は殺されたの?多分あの子、魔術とかそう言うものに関わる子じゃないと思うんだけど…」
ロゼ「それは…」
泡「イカレてんだよ。あいつら。」
ロゼが言葉を選ぼうとしたところで泡が言葉を取り次ぐ。
泡「人殺しの魔術師と出会ったら聞いてみるといいぜ。大抵意味わかんねぇからよ。」
皮肉めいた笑みを浮かべる泡。
紅茶を飲み干すと立ち上がった泡。
泡「さーて、もう少し学校見て回ってくるかな。」
泡が教室を出る。

優里「あの…泡くん…なんか怒ってました?」
ため息をついて後頭部を掻くロゼ。憐れみの表情。
ロゼ「いいや。あれは怒りというより侮蔑かな。」
優里「侮蔑…?」
ロゼ「彼も君と一緒だからね。大事な人を魔術師に殺されている。」
息を呑む優里。
優里「それって…?」
ロゼ「彼は元々、魔術とは関係無い普通の家庭で育った普通の男の子だよ。」
ロゼ「8歳の時かな。彼が家に帰ると家族が全員死んでいた。魔術師による犯行だったよ。」
ロゼ「生き残った彼は魔術師を裁く道を選んだ。復讐者となったんだ。」

校舎の屋上。佇む泡。
目を凝らすと、校門のところに男が立っているのが見えた。
泡「……?」
男の口元が歪んで笑見を浮かべる。
不意に目があった気がしたと同時に見えない何かに首を掴まれた泡。

ロゼが魔術を感知する。
電流が走ったような感覚。表情がこわばる。
優里「どうしたんですか…?」
ロゼ「結界の中で魔術が行使された。」
優里「それって…」
ロゼ「君の友人を殺した魔術師が戻ってきたのかもしれない。」
教室を飛び出す優里。
呼び止めるロゼの言葉を無視して、全速力で駆け抜ける。

階段を飛び降りたところ、廊下の踊り場の様なスペースに痩せこけた男が立っていた。
その横にはだらりと力なく宙に浮く泡の姿があった。

優里「……!」
魔術師「お前…ではないようだ。」
魔術師「ここに魔術師がいるだろう。私の狩場に勝手に結界を張った奴だ。」
陰鬱な様子で魔術師は静かに話す。しかしその言葉には僅かな怒りが宿っている。

ロゼ(回想)「今この学校に私たち以外人間がいないのも魔術だよ。こっちはもう少し複雑な人払いの結界だけどね。」

魔術師「こんな隠蔽すらしていない大規模な結界を貼りやがって。協会の追手がきたらどうするつもりだ。」
魔術師がちらりと優里の方を見る。
魔術師「獲物を2匹も用意して。ここで殺すつもりだったか。全くこれだから低劣な蚊虻は。」

ロゼ「ははは、酷い言われようだね。」
ゆっくり階段を降りてきたロゼ。
魔術師「貴様がこの結界を張った魔術師か。」
ロゼ「いかにも。」
魔術師が目を見開くと、優里の前を見えない何かが通り過ぎる。
そして、ロゼの前で何かが弾けた。
魔術師「…防壁くらいは張っているか。」
ロゼ「血の気が多いね。」
ギリ…と歯を食いしばる魔術師に対して終始余裕の表情のロゼ。

優里「ねぇ!!」
優里が大声を出す。
魔術師が黒目だけで優里を見る。
優里「アンタが恭子を殺したの!?この学校で死んだ女の子よ!」

魔術師が興味なさげにロゼに向き直る。
と同時に優里の前で何かが衝突したような衝撃が走る。
優里は目を細める。
ロゼ「話くらいは聞いてあげてもいいんじゃないかな。」
魔術師「塵芥と会話をする趣味は無い。」
優里がさらに何かを叫ぼうとする。それを遮って、ロゼが口を開く。
ロゼ「だったら私が代わりに聞こう。君はどうして非魔術師を殺すんだい?」
魔術師が首を捻る。
魔術師「もちろん魔術の研鑽の為だが?貴様、殺しは初めてか?だったら教えてやろう。」
魔術師「魔術は人を殺す度に強くなる。」
息を呑む優里と目を細めるロゼ。
魔術師「比喩的な話じゃあない。言葉の通りだよ。ルフェの書の序項に書かれていることだ。かつて非魔術師共によって世界を追われた魔術師達の怨嗟は大マナへと留まり混ざり合ったのだ。以来、非魔術師共の叫びが、その血が、魂が、魔術を冴え渡らせる糧となるのだよ!」
魔術師「故に!!」
魔術師「感謝すると良い。価値なき命は私の手で偉大な力の一部となったのだ!!!」

優里の目に涙が浮かぶ。
優里「…そんな理由で…?」
優里「だって、そんなの、誰でもよかったんじゃない…」
優里「どうして…どうして恭子だったのよ…」
優里「あの子は…私と違って頭もよくて、良い子で、こんな私の友達になってくれたのに…」
泣きながら崩れ落ちる優里。

泡「言ったろ?イカれてんだよ。こいつら。」
力なく浮いていた泡が急に笑い混じりの声をあげる。

驚いた魔術師がロゼの首をさらに強く締めようとしたところ、見えない速度で泡の右腕が上がる。
泡の身体は拘束を解かれたように地面に落ちる。その右手には大ぶりなナイフが握られている。魔術師が後退する。
魔術師、泡を見据える。
魔術師「貴様…」
泡、ロゼの方に向き直る。
泡「もういいよな。こいつが犯人ってことで。」
ロゼ「うん、自供もあったし、彼の魔術は被害者の死因とも一致する。」
泡「オッケェ。」
泡が魔術師に向き直り、ナイフを構える。
魔術師「貴様、その魔術師の子飼いか弟子か?見たところそのナイフに魔術は宿って居ないようだが。どんな魔術を使う?」
泡が魔術師を鼻で笑う。
魔術師「何がおかしい。」
魔術師の目が僅かに鋭くなる。
泡「アンタ、4つほど間違えてるぜ。」
泡がナイフを肩に置き、邪悪な笑みを浮かべながら人差し指を立てる。
泡「1つ目、アンタの言う『魔術を人を殺す度に強くなる』っての、アレ大嘘らしいぜ。大昔のサイコ野郎が書いた言葉なんか信じてんじゃねぇよ。」
魔術師が「何を…」と声を発すルのを遮りながら、泡は次に中指を立てる。
泡「2つ目、そいつが貼ったこの結界は隠蔽をしていないんじゃない。敢えてしなかったんだよ。なんなら普通より発見しやすくしてあるらしいぜ。つまり、アンタはここに誘い出されたんだよ。」
魔術師はなにも言わず戦闘体勢で泡を見据えている。
泡がさらに薬指を立てる。
泡「3つ目、俺たち…いやコイツか。」
泡がロゼを指差す。
泡「コイツはアンタみたいなコソコソ一般人を殺して回ってる魔術師じゃねぇよ。むしろ逆。そういうイカれた魔術師を裁く立場だ。」
ロゼ「協会所属の秘匿隊(オブスキュラス)…と言っても君クラスの魔術師じゃあ存在すら知らないかな。」
魔術師が歯を食いしばる。
魔術師「…4つ目は?」
泡が身を低く構える。
泡「アンタ、俺を魔術師扱いしやがったが、お前らみたいに薄汚ねぇ奴らと一緒にすんじゃねぇよ。俺は真人間だ!!」
泡が前方に駆け出す。
魔術師が噴き出し、そのまま大笑いする。
魔術師「はははははははははは!なにを言い出すかと思えば!!秘匿隊とやらはよっぽど人手不足のようだ!!魔力を探知することすらできない無能を使うとは!!」
魔術師が前方に一歩踏み込むと、泡の周りで風や破壊が起こる。

ロゼ「優里さんこちらへ。巻き込まれてしまうからね。」
ロゼが優里を呼ぶ。
優里はフラフラとロゼの方に向かう。
ロゼ「…ご友人のことは残念だったね。それでどうなるという訳ではないが彼は僕と泡が必ず裁くよ。」
優里「…助けてあげないんですか?泡君のこと。」
ロゼがふふっと笑う。
ロゼ「君は優しい子だね。でも、心配ご無用。泡はウチで1番の戦闘員さ。何人もの魔術師を裁いてきた。あの魔術のタネにももう気がついているはずだよ。」

泡、不可視の魔術をまるで見えているかのように躱す。
泡「アンタの魔術『見えざる手』ってところか?せっかく見えないのに、埃とか空気の揺らぎで一丸わかりなんだよなぁ。魔力を感じない俺でも躱せるぜ。あと、アレだろ。今まで全員落下死させてる辺り、握り潰して首の骨をへし折るみたいな握力は無いんじゃねぇか?」
泡は床だけでなく、棚や天井、壁を自在に飛び回りながら、見えない攻撃を躱していく。
泡「それにさっきナイフ(これ)で斬れた辺り物を透過したりも出来ないらしい。」
泡「家事にゃ便利そうだが、戦闘には全く向いてねぇ。」
キヒヒと泡が笑う。

魔術師が激昂する。
先ほどよりも攻撃の勢いが増すが、合わせて泡も速度を上げる。
泡「おいおい、人間殺すと強くなるんじゃなかったのか?5人も殺しといてこの程度か?」
泡「俺を殺すにゃあと1000人は殺さねぇとな!」
泡前方にダッシュ、その際、服の隙間から大量のナイフを取り出し壁や床に刺す。
そのまま魔術師に接近し、頭を使うと地面に押し倒す。
新たにナイフを一本取り出すと、その首筋に突きつけた。
魔術師の首筋を汗が伝う。
泡「そんで、使える腕は12本、全部拘束したと思うけど合ってる?」
魔術師が力を入れるが身体は全く動かない。刺さったナイフが軋むが抜ける様子はない。
泡「合ってるみてぇだな。」
満足そうに泡が笑う。

優里「…すごい!」
ロゼ「泡は5年間人生全て擲って修行をしたからね。全ては家族の復讐のために。」

魔術師「クソがぁぁ!!離せ!!我らの大義の邪魔をするなぁぁ!!!!!」
泡「アンタはもう終わりだよ。」
泡の言葉に魔術師が歯を食いしばる。

ロゼが2人の元に歩み寄る。後ろには優里も隠れている。
ロゼ「ご苦労様。泡。」
泡「おう。」
ロゼ「さて…おっと名前を聞いていなかったね。まぁいいか。魔術協会所属『秘匿隊』の権限で君を裁く。」
魔術師が、ニヤリと笑う。
魔術師「はっ!やってみるがいい!監獄にでも入れて懲罰でも与えてみるか?その程度で、私の信念は揺るがない!」
魔術師が見栄を切る。
抜けた顔で魔術師を見る泡。
優里が歯を食いしばる。
優里「アンタみたいな…奴に…!」
泡「はっはっは!アンタ楽観的だな。間違い5つ目だ。」
疑問符を浮かべる魔術師。
泡「俺たちのことを警察か何かと勘違いしてるだろ。」
泡「俺たちは殺し屋だよ。」
魔術師が青ざめる。
優里も「えっ?」と間抜けな声をあげる。
ロゼ「君が破った罪は“非魔術師への被害”と“魔術の秘匿の毀損”。どちらも魔術界における最高位の罪だよ。私たちの仕事はそれらを破った魔術師の抹殺さ。情状酌量なんて無い。」
相変わらずだったロゼの笑顔が恐ろしいものに見えた気がした。

泡「さて、最後に1つ質問だ。アンタ、“他人の身体を刻んでくっつける”魔術を使う奴に心当たりはないかい。」
首を横に降る魔術師。
泡「そうかぁ残念。まぁ知ってたところで結果は変わらないんだけどね。」
泡がナイフに力を入れる。
ざくりという鈍い音と共に魔術師の手が力なく地に落ちる。

取り残された優里が一歩後ずさる。
ナイフについた血を拭き取りながら、死体から離れる泡。
ロゼと共に優里の方に振り向く。
泡「さてと。」
泡「俺の仕事は終わりだな。」

優里(殺したの…本当に…?)
怯えた様子の優里。
ロゼ「驚かせてしまったみたいだね。だけど、これが私たちの世界の常識なんだよ。すまないね。」
ロゼ「私たちの世界を守るために、非魔術師に知られるわけにはいかないんだよ。」
ロゼがゆっくりと優里に歩み寄る。

優里「…そうですか…」
と返事をしながら優里があることに気がつく。
優里(だったら。…知ってしまった私は?)
我に帰った時にはロゼの右手が優里の頭の上に迫っていた。
優里「…ヒッ」
小さく悲鳴をあげる。
ロゼの指先が百合の額に触れた。
優里の視界がぼやけ、暗転する。

病院のベットで目を覚ます優里。
横に立っていた両親が泣きながら抱きつく。
不思議そうに辺りを見回す。
退院する優里。病院の前、母親が運転する車に乗り込もうとしたところで、向かいの道に立っているロゼと泡が視界に入る。
しばらく、眺めたところで母親が話しかける。
「なに?知り合い?」
「ううん。全然。」
車に乗り込む優里。
そのまま走り去る。

泡「問題なく効いてるみたいだな。記憶消去。」
ロゼ「そうだね。無事一件落着だ。願わくば彼女のこれからの人生が魔術と無縁であることを祈るよ。」
泡「どうだかな。あのねぇちゃんはもう関わっちまったし。簡単にこっちに足を踏み入れちまうかもな。」

『魔術』
『魔力という未知の力を用いて、超常に近い現象を起こす技術』
『それは確かにある』
『平和維持、神秘性の保全、人種差別の危惧など様々な観点から隔離・隠蔽されている』
『しかし、その思想に叛き、魔術を用いて文明社会を脅かす者達も一定数存在する』
『この日本における年間8万人超の行方不明者、1000件近い未解決事件、さらに認知すらされないそれらの大多数は魔術師による犯行だとされているのだ』
『魔術を知らない者たちの法制で裁くことができない彼らを』
『魔術の秘匿という魔術界最大の禁忌を犯した彼らを』
『必殺という形で刑を執行する者たちがいる』

ロゼ「まぁ、そうなったらまた元の道に戻してあげるだけさ。」
泡「おうよ。それが俺たちの仕事だからな。」

『これは境界を守る者たちの物語。』

・会話部分はイメージを掴むために盛りましたが、キャラの内面やドラマに関してはプロト的な形です。
・優里→恭子に強めの依存「代わりに私が死ねばよかった」→呆れる泡。ラストで記憶を消す際に泡の案で「恭子が何者かに殺された」記憶のみを残す。→優里、このままだと自殺していたが、犯人に復讐をすることを糧に生きられると泡自身に重ねて終わる。「ポジティブな考え方じゃねぇけど死ぬよりマシだろ。」と嘯く泡。と言うドラマを考えていたのですが、ちょっと分量的に重すぎるかと思い省きました。
・とにかく王道(悪く言えばベタ)、主人公を見せると言う形に落とし込みました。

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