『憧れのお姉さんは麻雀がお好き』第3話
『なんかもう打てる気でいた』
通学路を歩く和道と友人3人。
友人1「そんな理由で麻雀勉強し出したの?」
和道「そんな理由ってなんだこのやろ」
和道「俺にとっては人生の命題なんだよ!!」
拳を握る和道とため息をつく友人たち。
友人2「つーかお前イカも練習しろよ」
友人3「そうだよヘッタクソなんだから!」
和道「誰がヘタクソだ!!わかってるよちまちまやってるよ!」
友人2「ちまちまだと!?ガッツリやれや!」
友人1「まぁまぁ。それで、ルールは覚えたの?」
2、3をなだめながら1が尋ねる。
和道「まだ初歩だけど順調だぜ!」
自信満々で言った後に昨日の菜々子との麻雀講座を思い出す和道。
徐々に首を捻る。
和道「あれ…まだ牌の種類覚えただけだわ…」
友人1「それはルールですらないのでは…?」
和道「いいんだよ!!俺の麻雀道はここからなんだよ!!」
ぎゃいぎゃい騒ぎながら通学路を走り出す4人。
その様子を聞いていた気の弱そうな少年。
少年「…麻雀?」
学校。
体育の授業。サッカーボールを蹴る和道。それを先ほどの気弱そうな少年が見ている。
給食。チラチラと和道を見ている気弱そうな少年。
昼休み。教室で談笑する和道。入り口の扉の陰から少年が見ている。
和道(…なんかめちゃくちゃ見られてるな!!)
放課後教室を出る和道。相変わらず、背後に立っている気弱そうな少年。
校門を曲がったタイミングで和道の目がきらりと光り、鋭いステップで切り返す。
少年は突然の動きに反応できず、おろおろと慌てふためく。
和道は少年の目の前に立つ。
和道「なんか用か?順。」
順と呼ばれた少年はおろおろと周囲を見ている。
和道(えーと…なんか怯えられてる…?)
和道(…どうしよ。こいつゲームも持ってないみたいでほとんど遊んだことねぇし、昼休みもずっと本読んでるからあんま喋ったことねぇんだよなぁ)
和道「なんか今日俺のこと見てなかったか?」
順「!」
順「…ごめんなさい」
順がオドオドと謝る。
和道「いや別に怒ってねぇって。なんか用があるのかなって。」
順「……」
順は言葉を選んでいる。
和道(…なんかいじめてるみたいな絵面になってねぇかこれ)
順「和道くん…」
順が意を決して言葉を発した時。
燈「和くーん!」
和道の背後から燈の大きな声が聞こえ、勢いよく振り返る。
和道「燈ねぇ!!!!」
声量に驚く順。そこには白い中型犬を連れた燈が立っていた。ヒラヒラと手を振っている。
和道「悪い!順!!どうしても外せない用事ができたから!なんかあるなら明日で頼むわ!!じゃな!!」
順「あ…」
何か言う前に和道は燈の前に駆けていく。
燈「友達いいの?」
順「大丈夫!!」
取り残される順。
帰路を行く和道と燈。舌を出しながら悟ったような顔で歩く犬。
燈「和くん学校お疲れー。どうだった」
和道「別にいつもと普通だよ。燈ねぇはポン太(犬)の散歩?」
燈「うん。ずっと家でダラダラしてたらお母さんに叩き出されちゃった。」
へへへ~と笑う燈。
和道(かわいい…)
燈「そういえば和くん。昨日蓮子が和くんち遊びに行ってたよね?2人で何やってたの?」
ドキッとする和道。
和道(…まずい。麻雀のこと教えてもらってることはまだバレる訳にはいかない…!)
和道「え~…なんのこと??」
燈「誤魔化すんだ~和くんえっち~」
和道「違っ…!!なんもしてないよ!!」
動揺する和道と笑う燈。
燈「うそうそ。仲良しなのはいいことだよ」
和道「別にそんなんじゃないって!!ちょっとマー…」
ストップする和道
燈「?」
和道「…勉強習ってただけだよ。テスト近いし」
燈「へー偉いねぇ。なんの勉強してたの?」
和道「…外国語?」
燈「あー…最近は小学校から英語があるんだっけ?大変だねぇ。」
和道「ホントだよな~…」
燈「あ!」
燈が思い出したように言う。
燈「そういえば和くん、あれからどうよ?麻雀覚えた?」
ドキッとする燈
和道「いやいや何いってんの燈ねぇ。元々麻雀くらいできるし…!一昨日は…そう久しぶりだったからあんまり覚えてなかっただけでさ!ほんとはジジイなんかばかすか倒せるくらい強いんだぜ!」
ニマニマ笑う燈。
燈「へぇ~じゃあまた今度やろうね?」
和道「…もちろん!ちょっといま勘を取り戻してるから待っててね!!夏休み中には行けると思うから!!」
燈「オッケー楽しみにしてる」
和道、燈に聞こうと思っていたことを思い出す。
和道「そういえば燈ねぇどうして麻雀できるようになったの?」
燈「え!!?」
あからさまに動揺する燈。
和道「?」
燈「…内緒かな~」
和道「??」
和道の部屋。和道と蓮子。
和道「ってことがあったんだけどよ?」
蓮子「へぇー…」
和道「蓮子なんか聞いてねぇか?」
蓮子「あーうん。わたしも昨日聞いてみたんだけどはぐらかされたんだよねぇ」
蓮子(気になってなんとなく調べてみたら『女子大生が麻雀を始めるのはほとんど彼氏の影響』ってネット記事が出てきたんだけど和道には内緒にしといたほうがいいかな…)
※この物語はフィクションです。実際の人物や団体・事件などとは一切関係ありません。
和道「あとここで麻雀の勉強してることも内緒な?急にできるようになってびっくりさせたいんだよ。」
蓮子「…出来ないのバレたくないだけでしょ。意地張らない。」
和道、悔しそうな顔。
和道「ぐっ…!そうですすみません。」
蓮子「よろしい。じゃあ今日も蓮ちゃんの麻雀講座始めるよ!」
ポーズを決める蓮子。
和道「はい!蓮子先生!!」
蓮子「はい!和道くん!!」
手をあげる和道と指を指す蓮子。
和道「気づいたんだけど、まだ俺麻雀のルール何も教えてもらってないです!」
蓮子「その通り!だから今日は基本動作を覚えていくよ!!」
和道「よろしくお願いします!!」
ふー、と息を吐く2人。
蓮子「このノリ疲れるからもうやめていい?」
和道「俺もそう思う。」
蓮子「といっても昨日基本の基本はサラッと言ったでしょ?」
和道「そうだっけ?牌の名前覚えただけじゃない?」
蓮子「いやほら『1枚取って1枚捨てる』って話。」
和道少し考えて思い出したような仕草。
和道「あーしたした。」
蓮子「…あんた忘れてたでしょ。」
呆れる蓮子。
和道「唐突な中国語のインパクトがデカすぎて…」
ため息をつく蓮子。
和道「で、『1枚取って1枚捨てて』どうしたら勝ちなんだよ?でかい数字集めりゃいいの?」
蓮子「数字の大きさはあんまり関係ないかな。」
蓮子「今手牌が13枚あるでしょ?で、引いたやつで14枚になるじゃん。ここを揃えるんだよ。」
蓮子、牌を14枚取り、3、3、3、3、2に分ける。
蓮子「と言っても14枚でグループを作るんじゃなくて…こんな感じで分けて3、3、3、3、2のグループを作るの。例外もあるけど。」
和道「ふむふむ」
蓮子「3つのグループをメンツ、2つのグループをアタマって呼ぶよ。」
和道「メンツとアタマ」
蓮子「そう。で、3つグループの揃え方が大まかに2パターン。『数牌で連番』か『数牌もしくは字牌で同じ牌』だよ。」
和道「連番か同じ牌」
蓮子「連番は『順子(シュンツ)』同じは『刻子(コーツ)』ね。」
麻雀牌をいじる蓮子。
蓮子「こうとか、こうとか、こう。」
1萬、2萬、3萬 5索、5索、5索 中、中、中
と、テキパキ牌を並べる蓮子。
和道「じゃあさ。こういうのは?」
和道が牌を手に取る。
9筒、1筒、2筒
蓮子「これはダメ。あくまで連番。」
和道「なるほど」
蓮子「次はアタマね。これはもっと簡単。『同じやつ2つ』だよ。」
和道「…」
若干曇った顔の和道。
蓮子「どうしたの?」
和道「なんか余り物みたいで可哀想じゃねぇ?」
蓮子「あー…わからないでもない」
和道「3つのグループ5個にすればいいのにな」
蓮子「確かに。まぁでもこのほうが面白いからこうなってるんでしょ。きっと」
和道「そんなもんかね?」
蓮子「話戻すよ。で手牌を全部順子か刻子、あとアタマを1番最初に作れば勝ち。」
和道「おい蓮子…!」
神妙な面持ちの和道。
蓮子「な 何よ」
和道「麻雀って…もしかして簡単なのでは…?」
蓮子「あーまぁここまではね。ほんとに基本の基本だから。」
蓮子「ほとんどの人が難しいと思ってるのは大体役覚えるのと点数計算だからね。」
和道「役?点数計算?」
首をひねる和道。
蓮子「役ってのはさっきの手牌の揃え方で強くなるの。まぁその辺はおいおい教えるけど」
和道目を輝かせる。
和道「つまりコンボか…!」
蓮子「そうそうそんな感じ。一盃口(イーペーコー)とか三暗刻(サンアンコウ)とか」
和道「霹靂一閃とか蓋棺鉄囲山とか?」
蓮子「ないよ」
和道「ちぇー。ていうかやっぱり全部中国語なのな。」
蓮子「そうね。」
和道「あと点数計算…っは!!」
和道「もしかして麻雀が難しんじゃなくて、みんな外国語と算数が苦手なだけなのでは…?」
蓮子「どうしよう…否定できない…」
和道が思い出す。
和道「ん?でも一昨日ジジイが出してたやつはさっきみたいな形じゃなかったぜ?それもコンボか?」
蓮子「えー…なんだろ七対子とかかな?」
和道「いやなんかもっと強そうなやつ。速攻終わったんだよなー。十三何とかって言ってたな」
蓮子「強そう…もしかして」
蓮子が恐る恐る牌を並べる。
蓮子「これ…?」
和道「あ、そうそうこれこれ、で俺が最初に白捨てたら負けた。」
蓮子「国士無双…?しかも1枚目で!!?」
和道「すごいの?」
蓮子がスマホを操作する。
蓮子「ちょっと待って調べるから。えっと国士無双の成立確率は0.037%だって」
和道「はぁ!!?そんなすげえのかよ!!」
※正しくは十三面待ちだったので0.026%でした。
和道「なんて役出してんだ!!クソジジイ!!!」
雀荘で麻雀を打つ祖父が大きなくしゃみをする。
(第3話 了)