『ミスティックキラードール』第3話
大雨が降る葬儀場の外
制服を着た少女が天を仰ぎ泣いている
『魔術』
『魔力という未知の力を用いて、超常に近い現象を起こす技術』
『社会から隔離・隠蔽されながらも』
『現代にも脈々と受け継がれていた』
『それらを用いた文明社会には裁けぬ罪を』
『必殺の刑を以って裁く者たちがいる。』
『これは魔術師専門の殺し屋の物語』
タイトル『ミスティック・キラー・ドールズ』
泡「ねえちゃん。ちょっといいかい」
そこにはフードを被り邪悪な笑みを浮かべる泡と
黒い大きな傘をさし片手に大きな革製の鞄を持った優しい笑顔のロゼが立っていた
屋内。葬儀場。3つの棺桶が並んでいる
場違いに浮いている泡とロゼ
ロゼ「間違いないね」
棺桶に手をかざすロゼが言う
ロゼ「僕は君の家族を殺した者を知っている」
俯いていた少女が一瞬縋るような顔でロゼを見たあと再び下を向く
少女「私の家族は自殺したんですよ…?」
泡「らしいな。で、アンタはそれ信じてんのかい?」
親戚のおばさん「ちょっと誰あなた達!!?状況わかってんの?」
様子を見ていた親戚のおばさんが口を挟む
泡「俺たちが誰かなんてどうだっていいだろ」
ロゼ「泡」
ロゼの声に泡が不機嫌そうに黙る
親戚「どうせあなたたちも詐欺師の類でしょ!?行きましょ光ちゃん!」
おばさんは少女(光)の背中を押しながらロゼたちから引き離そうとする
ロゼ「お嬢さん。突然何を言っているかわからないかもしれないが、僕たちは君の家族を殺した犯人を追っている者だ。良ければ話を聞かせてほしい」
その背中に語りかけるロゼ
光がチラリと振り返る
泡「こっちはどうだっていいんだぜ。アンタが協力してくれんなら手っ取り早く情報が集まるが、協力しないってんなら勝手にやるだけだ。手間がかかるかどうかってだけ。だからこれは、アンタの気持ち次第だぜ。」
泡が挑発するように言う
おばさん憤慨した表情
外
締め出された2人
ロゼ「君が余計なこと言うからだぞ」
泡「おっさんの風体が胡散臭すぎるせいじゃねぇの?」
ロゼ「仕方がない。痕跡をたどるとしようか」
光「あの…」
歩き出すと同時に背後から声がかかる
振り返る2人
光「知りたいです…」
光「私の家族が本当に殺されたのなら…その犯人を、どうして殺されたのかを知りたいです…」
泡、くっくっくと低い笑い声をあげる
泡「よく言ったねえちゃん!じゃあさくさく行こう!早速なんだが…」
突然の明るい声に驚く光
光宅
リビングのソファにどかっと座る泡
泡「ねえちゃん、なんか菓子とかねぇ?腹減っちゃった!ロゼ、茶淹れろよ!」
ロゼ「はいはい、人の家だからもう少し遠慮しようね」
光「???」(自然に家にいれてしまった。)
光「えと…お茶、ですね?紅茶で大丈夫です…?」
わたわたとキッチンの戸棚を開ける
ロゼがその手から紅茶のティーパックを取る
ロゼ「僕がやりましょう」
ロゼ「君はシャワーでも浴びてきなさい。そのままでは風邪をひくよ」
雨に濡れたまま、簡単に拭いただけだった髪を見ながら、ロゼが微笑む
光「……はい」
泡「おっさん、その言い方キモーい」
ロゼ「ええ!?ごめんね!?」
テーブルに優しく置かれるあったかい紅茶
どこで見つけたのか、スナック菓子を食べる泡
光「ありがとうございます…」
一口啜って息を吐く
久しぶりに温かいものを口に入れた気がして胸の奥が温まるのを感じる
光「あの…改めて家族のことお聞きしてもいいですか」
ロゼ「うん。この家に入って確信したよ」
息を呑み真剣な表情になる光
光「誰なんですかそれって…!」
泡「魔術師」
真剣な表情のまま光が固まる
部屋には泡が菓子を食う音だけが響く
光「……はい?」
泡「聞こえなかったのか魔術師だよ魔術師」
光「あの…えっと、お帰りください…?」
ロゼ「泡。君はいつも説明が足りない」
ロゼがこほんと咳払いをする
ロゼ「いいかい?この日本では年間8万人超の行方不明者、1000件近い未解決事件が起こってる。認知すらされないものを入れるともっと多い。それらのほとんどは魔術師による犯行だとされている。非魔術師たちはそれを認知できないから法律では裁けないし犯人も捕まえられない」
泡「だからそいつらをぶっ殺すのが俺たちの仕事ってわけだ」
泡が言葉を引き継ぐ
光「あの…」
おずおずと話す光
光「目的はお金ですか?だったら意味ないです。家族が死んでから3日。いろんな人がきました。あなたたちみたいに犯人を探してくれるっていう自称探偵。家族の魂を救うっていう宗教の人たち。その人たちから私を守るっていう自称弁護士。一家心中ってテレビとかネットでたくさん流れたせいですかね」
光「私わけわかんなくて…気がついたら家族の遺産はほとんど取られちゃってました。」
悲しげに笑う光
泡がカラカラと笑う
泡「まぁ胡散臭くはあるわな」
泡「だが安心しな?俺たちは金なんかとらねぇよ」
光「みんなそう言ってきました」
譲らないという様子で見つめ合う2人
ロゼ「お嬢さん。紅茶のおかわりはいるかい?」
光「?…はい」
ロゼが空いたティーカップを手に取る
ロゼ「水(ヴィーシュ)」
ロゼが呪文を唱えながら指を振る
すると指先に水が集まり、ふよふよと浮く
ロゼ「沸(ボーラ)」
次の呪文を唱えると水がゴボゴボと泡立ち始める
さらに指を振ると、ティーポットの中に水が飛び込みクルクルと回転する
ロゼ「浮(フロート)」
ロゼがさらに指を振るとティーポットが浮き上がり、光の前に移動すると傾き空いたカップに紅茶を注ぐ
泡「タネも仕掛けもありませんってか?」
泡の声で我に帰った光
ロゼ「論より証拠かなと思ってね。これで信用してくれとは言わないが」
光が息を呑む
ロゼ「まぁ信じられないのなら無理に飲み込む必要はないよ」
ロゼ「僕たちは魔術師と非魔術師の境界を守る存在。秘匿守護隊(オブスキュラス)と言う組織のものだ」
光「あの…もし…もしですよ?犯人が魔術師だとして…どうして家族は魔術師に殺されたんですか?」
泡「…イカれてんだよあいつら」
憎々しそうな泡
ロゼ「まぁ動機なんて本人に聞くしかない。早速始めよう。お嬢さん。ご家族の死因と死んだ場所を教えてくれるかい?」
光「あ、はい…」
何か言おうとしたが諦めたように立ち上がる光
光「…みんなが死んだのは3日前です。私は部活の合宿で家を空けていて…帰ってきたら」
回想
帰宅した光がリビングの扉を開く
家具は壊れ、散乱し、壁や床には大量の傷がある
その中央で光の父、母、姉が倒れているその体も傷だらけで見るも無惨な姿。
絶叫する光
光「死因は錯乱による切り傷や打撲。部屋の中には3人以外の痕跡はなくて…自殺っていう扱いになりました」
泡が乱暴に立ち上がる
泡「痕跡はありそうか?」
ロゼがリビングの床に触れる
ロゼ「探索阻害と隠匿の魔術が何重かかかっているけどこの程度解析は1時間もかからない」
泡「じゃあその間俺も家ん中を探っとく。なんか解ったら呼べ」
乱暴に部屋を出る泡
ロゼ大きくため息をつく
ロゼ「了解」
ロゼが鞄を開き、小瓶や古い本を取り出す
光「あの…」
光が不安そうにロゼを見る
ロゼ「ごめんね。」
ロゼが小瓶の液体を混ぜたり振ったり、それを床に撒いたりしながら謝る
光「私、何か」
ロゼ「君が気にすることじゃない。ただ君の状況が自身に似ていて思い出しただけだ」
ロゼ「彼も家族を魔術師に殺されている。彼が9歳の頃だ。そして犯人はまだ見つかっていない」
光「それじゃあ…」
ロゼ「うん。彼は自身の家族を殺した魔術師を殺すために復讐者になったんだ」
ロゼ「さて、始めるよ。お嬢さん、少し部屋を出ていてくれるかい?」
ロゼ「解析魔術、展開」
ロゼが言うと床に光る魔法陣が浮き上がる
ロゼが光の知らない言語でぶつぶつと呪文を唱え出す
光、その様子を見届けながら部屋を出る
光はどうするか迷った挙句、自身の部屋に入る
するとそこにはベットの下を覗き見る泡の姿があった
光「何やってるの…!!?」
泡「何って痕跡探してんだよ」
光「そんなとこ何もないでしょ!!?ここ私の部屋なんだけど!!」
泡「おっとそうかよ」
泡が改めて部屋をキョロキョロ見回す
そして何か見つけたような仕草で勉強机の前に歩く
机の横に壁に貼られているコルクボードから家族が写った写真を手に取る
光「泡くんの家族も殺されたんだね」
泡「あのおっさん勝手に喋りやがったな」
光「ごめん」
泡「気にすんな」
光「あのさ」
泡「あん?」
光「もしさ。ホントにみんなを殺した犯人がいるとして、その人はどうなるの?」
泡「殺すぜ?」
泡「魔術師どもの法なんだと。ホントイカれてるよな」
光「魔術師ども…?」
泡「あ?ああ、俺は魔術師ではねぇからよ」
光「そうなの…?」
泡「おう、ただの一般人。あ、心配すんなよちゃんと鍛えてっから。力以外にも色々な」
光(色々…?)
泡「話変わるがよ。ねえちゃん」
泡「この家に住んでたのは、ホントにあんたの家族だけかい?」
光の頭にクエスチョンが浮かぶと同時に扉が開き、ロゼが現れた。
ロゼ「解析終わったよ。信じられないことだが…」
泡「犯人はこの家にいる。だろ?」
ロゼ「さすが」
光「え…?あのどういうことですか?」
泡「魔術師ってのは自身の都合が良いところにラボを作るんだ。害虫みてぇなもんさ」
泡「工房の場所はこの家の…」
泡が下を見る
薄暗い石壁に覆われた部屋
明かりは蝋燭だけで壁からは水が垂れている
陰気そうな男が小瓶の液体を混ぜ合わせている
その背後に立つ泡、ロゼ、その後ろに光
泡「地下だろ」
泡「人んちの下にラボ作るとか。知ってる?土地の権利って地下にも及ぶらしいぜ?」
魔術師「防衛魔術が解体されていると思ったが…学團の手の者か?」
ロゼ「学團所属 秘匿守護隊だよ。ここの家族を殺したのは君であっているかな」
魔術師「いかにも」
光が後ろでわなわなと震える
光「どうして…!みんなを殺したんですか…!」
魔術師が振り返る
魔術師「驚いた。もう1人いたのか」
光「答えて下さい…!」
魔術師「…この土地が地脈の上にあり、ラボを作るのに最適だったのでな」
光「…?そんな理由で」
光の目から涙が流れる
泡「言ったろ?こいつらイカれてるってよ」
泡が太もものホルスターからナイフを抜く
泡「一応聞くが、“身体を刻んでくっつける魔術”を使うやつを知ってるか?」
魔術師「知らんな」
泡「そうか。じゃあいいや死ね」
魔術師「ふむ…戦闘か」
魔術師が振り向き手を前にする
泡の姿が消える。魔術師がそれに気がついた時にはその首筋に刃が刺さる直前だった
泡「ちげえよ。殺戮だ」
首から大量の血を流し倒れる魔術師。すでに事切れている
泡「なんだよつまんねぇ弱いにも程がある。ここどうする。ぶっ壊すか?」
ロゼ「いいや。ここからは学團に引き渡そう」
泡「了解」
泣いている光を見る泡
泡「ほら、立ちなねえちゃん。ここ出るぜ」
光「ありがとう…」
光「殺してくれてありがとう…!」
泡「おう」
自身の信念を肯定されたように感じ、心からの笑顔を浮かべる泡
家の前に立つ3人
泡「さーて俺の仕事は終わりだな。じゃあねえちゃん俺たちのことを忘れても強く生きろよ」
光「え?」
ロゼ「忘(フォグ)」
光の背後に立つロゼが光の頭に人差し指を当てながら唱える
家の前に呆然と立っている光
親戚のおばさんが駆けてくる
おばさん「光ちゃん!やっぱり所にいた!」
おばさんが光に抱きつく。
光「おばさん?どうしたんですか?」
おばさん「びっくりしたんだから!あの詐欺師どもを追いかけってちゃうんだもん!大丈夫?何もされてない?」
光「詐欺師…?」
光「なんのこと…?」
夜道を歩く泡とロゼ
泡「なーロゼ」
ロゼ「なんだい?」
泡「あのねえちゃん、両親の仇が死んだこと忘れちまったんだよな」
ロゼ「そうだね」
泡「ふーん」
ロゼ「でも」
光「あの…おばさん、お葬式とか色々ありがとうございます。これからみんなの分も生きます」
ロゼ「忘れたのは“仇の死”と言う事実だけだよ。君に救われたという“感情”だけは残しておいた。彼女がこれから生きていく上で必要かと思ってね」
泡、驚いた後ひひっと笑う
泡「優しいこった」
(#3 了)