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ニューヨーク、ホームレスに一本取られた話

前々回のコラムにも書いたのですが、私は90年代後半に、ニューヨークの大学に通っていました。

そのコラムはこちら

大学が終わると、ロウアーマンハッタンから地下鉄で15分ほどアップタウン方面へ。ウェスト79丁目の駅で降りて、77丁目の自宅まで歩くのが毎日の習慣でした。

その日はラッシュアワーと重なり、人の波に流されるようにして改札へ。

すると、改札の外側で、黒人の男性が座っていて、雑踏に向かって何かを大声で叫んでいました。

ニューヨーカーたちは慣れた様子で、その男性には見向きもせず、黙々と改札を出て階段を登っていきます。どうやら、ホームレスの男性のようです。

私がちょうど改札を出た時、そのホームレスの男性が背後から、

Ms! Ms!(ちょっと!そこの人!おい!)」とガラガラ声で呼んでいるのです。

「え?私?」と思って私が振り向くと、

Look!!! Look!!!(そこ、そこだよ!そこ!)」と私の足元を指差しています。

私は何か落としたかな?と思って、自分の足元を見る。すると、何も落ちていない。

え?何?と思って、またそのホームレスの男性を見る。

すると、そのホームレスの男性は、「アーッハッハッハ!アーッハッハッハ!」と手を叩いて笑っているではありませんか!

え!まさか!これって...

小さなころよくやった、バカが見る〜!?(の、ニューヨーク版?!)じゃない?

<バカが見る〜!を知らない方のために>

「バカが見る〜!」とは。「あ!」と指差して、相手がその先を見たら、「バカが見る〜!」と言って相手をからかう、多分、昭和時代の子供の遊び。今はそんな遊びは存在しないのかも?しれません。

私はこれをやられた時、振り向いてしまったことに恥ずかしくなると同時に、ちょっと面白くて笑ってしまったのです。きっと彼は、洗練されたニューヨーカーから見たら頭のおかしいホームレス、だったのかもしれない。

でも、彼にも子供時代があり、きっと、友達とバカが見る〜!をやっていたのかも。そして、ホームレスになっても、ひたすらそれを忙しいニューヨーカー相手にやっていて、まだニューヨーカーになり切れていない日本人の私が、まんまと引っかかったわけです。

そう思ったら、怒るどころか、だまされやすい、日本にいる感覚のまま、ぼーっと歩いていた自分に気づかされました。


ニューヨークのホームレスにはすごい人がいる

毎日ニューヨークの地下鉄を利用していると、日本にはいないタイプのユニークなホームレスの人がたくさんいる事を知ります。紙コップを持って小銭をください、とただ歩いている人もいますが、中には、すごいパフォーマーがいたりするのです。

3人組のアカペラで、プロ顔負けの素晴らしいハーモニーで車両内を歩くホームレス。「歌がうまいと思ったらお金を入れてくれ!」と割と強引に紙袋を回してくる。

今の政治に対して、「こんなところが問題なんだ!」と説得力のあるスピーチをしながら、サポートしてくれ、とコップを持ってくる人。かなり上手いジャズのシンガーや、バイオリンを弾いている人もいました。

この人たちは、日本に連れていったらスターになるんじゃないのか?そう思うほどのパフォーマーだったし、その人たちがなぜホームレスになったのか、とても気になりました。こんなに才能があるのにホームレスだなんて、何かとても理不尽に感じました。

何があっても動じない

映画のような事件が起きるのもニューヨークで、その後もいろいろな事件が起こりました。(その話はまた別の回にするとして)おかげで、多少の事では驚かず、淡々と毎日をこなせる大学生になりました。

24年経った今、ニューヨークの地下鉄はどんな風になっているのでしょう。私はいつまでたっても、79丁目駅のホームレスの彼を、忘れることができません。


マイコ






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