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高知とおふとんに教わる、暮らしの楽しみ

※この記事は、ふとん丸洗いの「FRESCO」が企画するリレーエッセイです。ストーリーサイトのモデルをした縁で、エッセイ執筆の依頼をいただきました。

我が家には5枚のおふとんがある。ネットで買った夏用の薄いものが2枚、羽毛のおふとんが2枚、来客用が1枚。羽毛のおふとんは一人暮らしをしているときにIKEAで買った。選びきれないほどたくさんの種類がある中で、二番目に温かいものにした。どうして二番だったのかは覚えていないが、たぶん値段が高いとかそんな理由だと思う。ちょっと頼りないくらいに軽くて、シャリッとした生地感が気持ちいい。ベッドに寝転んでおふとんをかけると、羽毛のすきまに空気が入りこんで、全体が一瞬ふわりと浮いてから、ゆっくりと降りてくる。

私はいつも「天空の城ラピュタ」で空から落ちてくるシータを想像する。シータはドサッと地上(正確にはパズーの腕の中)に到着するけど、おふとんはふわふわのまま、とても慎重に着地する。そこにだんだん自分の体温が伝わって、柔らかなぬくもりが広がる。

世の中には、もっと高級なおふとんも、質のよいおふとんもあるだろうけど、私はこのIKEAのおふとんを最高に気に入っている。子どもが生まれて三人暮らしになったとき、同じおふとんのダブルサイズを買い足した。今は娘と私がダブルベッドで、夫はシングルベッドで眠っている(たまに夫と娘がダブルベッドで寝ていたり、私と娘がシングルベッドで寝ていることもある)。おふとんは、一人暮らししていた家から、家族ができて引っ越した大阪市内のマンション、そして移住先の高知県へと一緒に移り住んだ。

高知にきたときは2024年7月だった。IKEAのおふとんは押入れにしまって、夏のおふとんを出した。どうせ寝ている間に娘が蹴っ飛ばしてしまうのだけど、眠るときはおふとんをかけたい。

引っ越してきて、最初の夏。家から車で20分ほどのところに、お気に入りの川を見つけた。大きな岩にかこまれた静かな場所で、まっすぐに届く太陽の光が、木々の緑を美しく輝かせ、川の底までを照らし、いろんな色や形のある石を見せてくれた。娘は大きな水中メガネで、いつまでも水の中を眺めた。川にはたくさんの遊びがあった。網で魚をつかまえたり、カニを探したり、鮎釣りをしていたおじさんと話しこんで、子供用のバケツに鮎をもらったこともあるし、娘にとっての記念すべき人生初カップラーメンは、川辺でお湯を沸かしてみんなで食べた。もっと遊びたいのにあっという間に時間が過ぎてしまうので、休みのたびに川へ行った。

たまに海にも行った。海のない奈良で育った私は、海での過ごし方を知らなかったが、貝殻を集めるだけで楽しかった。初めて見た「よさこい祭り」は、迫力のある演出と、美しい衣装、笑顔を絶やさずに踊り続ける踊り子さんたちのエネルギーに感動しっぱなしだった。とにかく暑くて、これは大変だろうなと思いながら、ビールをがぶがぶ飲んだ。もうすぐお祭りが終わろうとしているとき。大学生チームの踊り子さんが、疲れと、楽しさと、やりきった達成感と、終わってしまう寂しさが混じり合った表情を浮かべながら、それでも全力で踊っているのを見て、ただビールを飲んでいた私が泣いてしまった。

夏の高知があまりにも楽しいので、冬がくるのが信じられなかった。いや、信じたくなかった。冬の高知でいったい何をすればいいのかと、地元の人に聞いてまわったくらいだ。そもそも冬は苦手だ。寒いのは嫌いだし、厚着をすると肩がこる。曇りの日が多かったり、晴れているのに青空が白っぽいところも、なんとなく寂しくて憂鬱になる。

よく「高知は冬でも暖かいですか」と聞かれる。そうだといいなと少し期待もしていたけれど、やってきた冬は、しっかり寒かった。でも、明るかった。高知は冬でも燦々と日差しが降り注ぐ。空気は冷たくても、まぶしいくらいに明るいのだ。高知で暮らす友人に「高知の冬はサングラスがほしいね〜」と話すと「大阪はいらんかったが!?」とびっくりしていた(そのあと車に乗るとき、友人は夫婦揃ってサングラスをかけた)。恐れていた高知の冬は、南国にたまたま冬が迷い込んでしまっただけのような、陽気な季節だった。

高知で陽気なのは気候だけではない。よくしゃべり、よく笑う地元の人たちもまた、冬を明るく灯してくれる頼もしい存在だ。その朗らかな県民性は、やたらと多いお祭りにあらわれている。よさこい祭りをふくめ、高知には陽気な(おかしな)お祭りがたくさんある。陽気な人が多いから、陽気な祭りがうまれるのか、陽気な祭りに出かけるから、陽気な人がふえるのか。

高知の人が皆こみ上げてくる笑いをおさえるようにニヤニヤしながら教えてくれるから、聞いているこちらも愉快な気持ちになるお祭りがある。香南市赤岡の「どろめ祭り」だ。どろめとは、地引き網でとれた生しらすのこと。これを肴に、男性は一升、女性は五合の日本酒を一気に飲み干し、その早さと飲みっぷりを競う。初めて聞いたときは「大丈夫なのか」と思ってしまったが、市の観光協会のホームページにも載っている、れっきとした公式のお祭りなのだ。次回はぜひ遊びに行きたい(参加するかは保留)。

昨年12月には、赤岡の「冬の夏祭り」に家族で出かけた。祭り会場の入り口には、手づくり(!)のはりまや橋。はりまや橋とは、高知の観光名所である赤い橋。よさこい節にも登場するし、ガイドブックには必ず掲載されるが、居酒屋の入り口にありそうなサイズ感なので、目指して行ってもうっかり通り過ぎてしまう。メイン会場である商店街に入っていくと、和出汁に中華麺が入った高知名物「中日そば」をはじめ、おでんや焼き鳥などがほわほわと湯気を立てて並んでいて、人出も多く活気があった。高知の人はおいしいものが大好きなので、お祭りフードもぬかりなくおいしい。娘はお花の形をしたわたあめを食べてご満悦で、夫と私も豚汁やタイカレー(アジア料理の出店があったのだ!)を食べた。

そんな冬の夏祭りの名物は、賑やかな通りの中でひときわ輝く「こたつ」である。なんと青空の下、道路の真ん中にこたつがいくつも置かれていて、だれでも自由にくつろげるのだ(都会だと別料金を取られそう)。お年寄りから家族連れ、中高生の子たちまで、みんな思い思いにこたつに足をつっこんで、買ってきたものを食べたり、寝転がったり。人んちのお茶の間を並べたような光景は、ほっこりというより、おもしろい。ほかにも突然、路上で綱引きがはじまったかと思えば、買い物をすると投票券がもらえる仮装コンテストがあったり、餅まきと称して民家の2階から餅が降ってきたりした。どれも大盛りあがりで、あちこちから明るい笑い声が聞こえた。ちなみに大勢の人が集まっているのに、治安がすこぶるいい(ヤンキーがいない)。小さい子どもも安心だ。

どろめ祭りも、冬の夏祭りも、こんなおかしいことを誰が考えるのかと考えていると、高知のことがより愛おしくなる。高知の人たちは、暮らしに楽しみを見つけることがとても上手だ。自分たちの街を「田舎だから何もない」「つまらない」などとは言わない。楽しいことがなければ作る。そこへ飛び込んでいって、全力で楽しむ。そんな高知での刺激的な日々は「自分に足りないもの、大切なものは何だろう」と考えるきっかけをくれる。

私は冬が苦手だ。でも、ただ春を待つだけの冬なんて、つまらない。押し入れからIKEAのおふとんを出したとき、なんだかいつもよりふかふかな気がした。昨年おふとんを丸洗いする「FRESCO」のモデルをしたご縁で、IKEAのおふとんを2枚とも綺麗にしてもらったんだった(今まで干していただけだと思うとぞっとする)。ふかふかのおふとんで眠るのは、冬が深まるほどに心地よくなる。すきまができないように、おふとんのはしっこを身体の下にもぐりこませて、冬の楽しみについて考える。夏がきたら、またおふとんを洗ってもらおう。

#広告 #高知移住 #高知の暮らし

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