陽光に照らされて
窓を開けて、エアコンの温度を少し上げる。
2階の窓から、ちょうどその先端が視界に入ってくる隣家の木は、鮮やかな緑色から黄色みがかった緑色へと変わってきた。そこに朝の陽光が注ぐと、景色全体がもう夕方であると錯覚するような、幻想的な色彩を帯びる。
身体感覚とのズレに、ふと時計を確認する。
階段を1段1段拭く。白い階段は汚れていると気付きやすいから、しょっちゅう階段を拭いている。
デザイン重視でちょっと変わった構造のマンション。二階の窓から降り注ぐ自然な光の明るさは、住みにくいかな、という心配をかき消した。背中を押してくれるような、そんな明るさに魅了された。
この部屋に住んで2年半、生活が変わり、仕事のスタイルも変わり、色々な物事の捉え方が変化していった。何でもかんでも引き受けず、代替案を模索しながら「これはやらない」というものを慎重に増やしてきたこと、そしてこれまで一番放置していた日常の時間を大切にするようになったこと。
謎の罪悪感と格闘する瞬間もあるけれど、本当にそれは「謎の罪悪感」でしかない。そういうものに唆されて「心配だからやらなきゃ」と行動するのは避ける。そして、他の人が活躍できる場を増やす。
その在り方が幸せな循環を生むということが、やっと実感を伴って分かるようになった。
こういう流れというのか、思考の転換を生んでくれた要因の1つに、この部屋の影響が少なからずある、と密かに思っている。人間が環境に左右される生き物である、という当たり前のことを、改めて確認する日々だ。
私自身も誰かのために行動できる人になれるように努力していきたいです。
最後にそう書かれたカード。何度も目を通しながら、また1つ、終わったんだな、と思う。それは、ただただ「希望の学校に合格できて良かったね、おめでとう」という喜びとは、また別の次元の嬉しさであり、感慨だった。
毎年「おめでとう」の場面は多々あるが、ここ数年はその喜びの場面にさえ、どこか「慣れ」を感じていた部分があった。少し冷静な自分を発見して、自分のモチベーションを向ける先がよく分からなくなっていた時期もあった。
モヤモヤを放置しないで、周囲の人達に助けを借りる。自分が一番集中したいことに集中できる環境を作る。そこで生まれたもので還元していく。自分を支えてきた中心軸が新しい形で伝わっていく実感、手応えもその1つなんだと思う。
一段一段、磨かれて、光を反射する。
きっとまたすぐに汚れて、そうしたら拭いて。行為の繰り返しから生まれるリズム。
そういうものを味わえる感覚を、日々、大切に、大切にしていきたい。