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ベビメタ愛を語る②[10 BABYMETAL BUDOUKAN]

好きな音楽を、生演奏で聴けるって最高。

そう思った至福の時でした。

2月17日水曜日。コロナ禍で行われるライブコンサート。席は1つおきに設定され、緊急事態宣言を踏まえて会場の人数は恐らく5000人以下に設定されていることでしょう。声を出しながら見るのが当たり前の音楽ライブにおいて、声を出せない、人と接触できないと言うことは、反応が示せないと言うこととほぼ同じ。新しい鑑賞方法で見るライブ。そうなった世界に私は飛び込んでみたのでした。

「周辺の人と間隔を取ること」これが再三呼びかけられ、人混みにならないように工夫されている世の中は、人混みが苦手な私にとって大変過ごしやすい。

今回のライブは、席によって入場時間が別に決められ、私は1番目に入場するグループとなりました。チケット提示、特製マスク配布、手荷物検査、手指消毒の後に、いざ武道館の中へ。余談ですが、武道館周辺には戦前の練兵場の跡だの、弾薬庫の跡だの、近代史の史跡がたくさん。もちろん、武道館の設立由来も青少年の何とかを促進するために設置されたと、赤い字で石碑に書いてありました。忘れかけていましたが、私たちは明治、大正、昭和を乗り越えて今を生きる存在としてライブを楽しみに来ているのです。No More War, Forever. 武道館に来ることによって、自分も歴史の一部なんだなと感じることができます。

会場はアリーナが全て舞台空間として通路などが設置され、1階席と2階席に分かれていました。私はなんと最上の席。ステージからは最も遠いですが、後ろの人を気にせずに鑑賞でき、会場全体が見渡せるという利点もあります。1階席まで降りてステージを見てみたところ、手を伸ばせば届きそうな距離にあって、すごくうらやましく感じましたが、もちろんチケットの値段はかなり張ります。最上の席、V列からは双眼鏡がなくても演者の笑顔がわかる、と言ったところで、双眼鏡を覗かないと表情の機微はわからない、という遠さです。決して、演者は小さくなく、東京文化会館に例えるならばA席くらいの距離です。思ったより遠くなくて良かったです。

開演前の会場内は赤い照明で照らされ、スモッグが焚かれています。何か地下神殿のような雰囲気です。会場SEとして洋楽のヘビーメタルが流れていました。ここで私は「Contemporary 同時代性の、」という言葉の意味が初めてわかりました。この言葉には比較の視点が含まれている。他のミュージシャンの曲を流すことによって、自分たちのバンドの位置を定義付けしていると言えます。私はBABYMETALからメタルを聴き始めた者なので、本当に、1曲目のEnter Sandmanしか知りませんでした。ここから1時間半、同時代のメタルを聴き続けますが、だんだんヒップホップのように聴こえてきて、歩きながらランニングマン(ヒップホップのステップの名前)を踏んでいました。

ライブは「骨」と呼ばれる黒地に骨の衣装を着た人がスクリーンでお話をすることから始まります。コロナ禍の現在はDYSTOPHIAと表現され、観客は声を奪われた人々。全ての指示はキツネ様のお告げによるもの。The Oneとなるべく観客は一体になる。言葉選びが秀逸で面白いです。「骨」は「北の方から何かが聞こえる・・・南のほうから何かが聞こえる・・・」と言って観客に手拍子をさせ、「次は東から西へ波を作ろう」と言って、ウェーブを起こさせました。観客も一緒に巻き込んでライブを作る、なかなか面白い方法だと思いました。

赤色の地下神殿から暗闇となり、一曲目は青色の照明が下から上に照らされて樹林のようになります。生火を持った仮面の人々が四方から出てきて、しゃなりしゃなりと歩く。そして、スッポン、じゃなくてエレベーターで下から挙がってきた、☆を持つ3人の人。最初は誰が誰だか、ですが、彼女たちもしゃなりしゃなりと歩いて位置につきます。この光景にはとても感動し、荘厳な雰囲気に圧倒されて感極まりました。

仮面の人が模擬の太鼓を打ち鳴らすと火花が挙がり、そして曲の最中には炎が上がり、スクリーンにはやはり炎が映し出され、青い照明は下から伸びて柱となる。白い照明は上空を渡り、まるでステージがかごに入っているかのよう(「KARATE」)中でも印象的なのは「From Dusk Till Dawn」。日本初披露だったというのもありますが、舞台演出が幻想的でした。照明は青くなり、床もスクリーンとなっている舞台は夜の地球が映し出されます。ところどころ金色に光り輝くそれはとても不思議な場所で、星の上に立つ3人と宇宙の旅に出ているかのようでした。八角形の舞台の端にはスモッグが焚かれ、雲のようでした。近未来感、宇宙感を感じました。日本盤では「シンコペーション」、US盤では「From Dusk Till Dawn」、この2曲を同時に奏で、足下には地球。彼女たちが以前に言っていた「世界征服」は演出的にも現実的にも達成されていると言えるのではないでしょうか。

足下のスクリーンでは「メギツネ」で2014年の武道館Red Nightで見たようなマークが映し出されたり、過去映像でYUIMETALの後ろ姿のようなものが映し出されたり、はたまた過去の野外音楽フェスティバルで人々が盛り上がっている様子が映し出されたり。上空のスクリーンには藤岡幹夫の魂を持つ大神が時節映ります。もうあの頃には戻れない、まだあの頃には戻れない。置いてきたものを振り返ります。

アンコールでは、SU-METALが「生きているって本当に幸せなことだと思います!」と言います(が、しかしこれは様々な聞き手によって少しずつ違う言葉として聞かれている!)。疫病にかからず、仕事にも影響がなく、生きていられる幸せ、そして、BABYMETALと同じ空間で音楽を聴くことができた幸せ。幸せを感じているのはどうやら私だけではないようで。聴き手だけでなく演者もともに幸せを感じられたらこんなに嬉しいことはありません。

私はBABYMETALがきっかけとなって、大村孝佳、Leda、藤岡幹夫、BOH、ISAO、青山英樹、前田遊野といった素晴らしい演奏家がいることを知りました。そして、彼らの作る音楽を知りました。BABYMETALに楽曲を提供し音源の演奏をした海外の超有名なヘビーメタルバンドをたくさん知って、たくさん音楽を聴きました。BABYMETALがなかったら、絶対に彼らのことを知ることはなかったんだろうなあと思うと、出会いに感謝すると同時に、何が起こるかわからないものすごく不思議な縁を感じます。最初は「幼女ビジネス」を感じさせるBABYMETALのボーカルたちをあまり受け入れられませんでしたが、神バンドの魅力に取り憑かれ、ギターの魅力に取り憑かれ、超絶技巧を愛する者はどこの世界にも存在することを知り、ここまで来たのです。今ではBABYMETALの3人の凜としたたたずまいが唯一無二の表現のように感じられ、とても美しいと思います。

BABYMETALは確実に、アイドルの世界、ヘビーメタルの世界をつなぎ、世の中の境界を乗り越えようとする存在です。そして海外でライブを行うことによって日本と海外をつなぐ存在ともなっています。これからも常に新しさを教えてくれ、今までの価値観を打破し新しい価値観を学ぶことができます。

そして舞台に立つ彼らだけではなく、音響や映像スタッフ、ローディーなど本当に多くの人々が1つの舞台を作り上げるべく動いていることも、最上階からよく見えました。私の感動は、非常に多くの人の力によってできていることをひしひしと感じました。私の仕事は縁の下の力持ちとして、様式が決まっているものを完璧に仕上げるのが当たり前の仕事。でもそれによって誰が感動するかどうかは直接は定かではなく、むしろあって当たり前の世界。反対に、音楽に関わる仕事は、人を感動させるべく場を作り上げるものだと思います。それぞれの完璧な仕事の結果、人が感動する世界です。完璧な仕事の結果、あって当たり前のものを作るか、人の感動を作るか。どちらの仕事も世の中には存在するのですね。感動はあって当たり前のものではなく、もたらされるもの。だからこそ、今のような状況では制限されてしまうのでしょうか。

チケットが高いと怖じ気づいていたものの、それ以上のものをBABYMETALのライブで学び、感じることができました。ここで味わった非日常の感動は私の中で生き続け、前を向く勇気を与えてくれています。非日常の経験を胸に、明日も私は日常を生きて行くのです。

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