【研修医向け】神経診察:3 step diagnosis
こんにちは、ばくふうんです。
今回は脳神経内科をローテートする研修医の先生がぶつかりがちな問題
「神経診察って難しくない?」という話です。
まあ実際難しいですし、診察技法については経験を積む他ないので、指導医によく教わってくださいとしか言えないのですが、どうにか神経所見を取り終えることができたとして、次に待っているのは「では鑑別診断は?」という質問です。
神経学は古来より診察所見に非常に重きを置いてきた学問であり、”3 step diagnosis”という考え方があります。具体的には「解剖学的診断」「病因診断」を踏まえた「暫定診断」という考え方になります。ひとつずつ確認していきましょう。
①解剖学的診断(anatomical diagnosis)
得られた神経所見から、神経経路のどの部位に障害があるのかを推測します。
例として、
◯高次脳機能:異常なし
◯脳神経系:舌萎縮・舌線維束性収縮あり
◯運動系:両側母指球・前腕の筋萎縮あり、両上肢遠位筋の筋力低下
◯反射:四肢で深部腱反射亢進、両側Babinski反射陽性
◯感覚系:異常なし
◯協調運動:異常なし
◯姿勢・歩行:異常なし
◯自律神経系:異常なし
という所見が得られた場合、
・舌萎縮、舌線維束性収縮、両上肢の筋萎縮 →下位運動ニューロン障害
・深部腱反射亢進、Babinski反射陽性 →上位運動ニューロン障害
となるため、解剖学的診断としては上位+下位運動ニューロンとなります。
②病因診断(etiological diagnosis)
こちらは病歴から考え、どのような病態が考えられるかを推測します。
具体的には、
・突然発症 →血管障害
・急性(日単位) →感染性、炎症性
・亜急性(週単位) →代謝性、腫瘍性
・慢性(年単位) →変性
・寛解・増悪 →自己免疫性
といった具合です。
③暫定診断(tentative diagnosis)
解剖学的診断、病因診断を踏まえ、どの疾患が最も当てはまるかを考えます。
例えば、①の症例が年単位で進行していた場合、病因としては変性疾患を疑うので、
①解剖学的診断:上位+下位運動ニューロン
②病因診断:変性
③暫定診断:筋萎縮性側索硬化症(ALS)
というような手順です。もちろん、すべての患者で綺麗に答えが導けるわけではないので、他に考えられる可能性を鑑別診断として列挙していきます(上の例で言うと頸椎症性脊髄症、球脊髄性筋萎縮症、亜急性連合性脊髄変性症など)。
この考え方を意識しておくと、やみくもに鑑別診断を列挙するよりも思考がまとまりやすいかと思います。
「急性発症の四肢筋力低下だからギラン・バレー症候群や周期性四肢麻痺か?」
「突然発症の完全対麻痺だから脊髄梗塞の可能性が高いのでは?」
という感じです。
研修医の先生がどの検査をやるかまで考えることは少ないかもしれませんが、どの疾患を疑うか、どの疾患を除外しなければならないのかによって必要な検査も変わってくるので、専攻医以上では必須のスキルとなります。
初期研修のローテーション中にマスターするのは難しいと思いますが、神経診察の真髄の一端に触れていただき、ほんの少しでも面白さを感じていただけると嬉しいですね。