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【研修医・専攻医向け】パーキンソン病治療薬の使い分け①<ドパミン系薬剤>

はじめに

こんにちは、ばくふうんです。
今回は初期研修医や専攻医(後期研修医)向けの内容となっております。
どこの病院でも必ずといって良いほどパーキンソン病の精査入院や薬剤調整入院を経験することになると思います。罹病期間が長い方ほど、内服薬が多岐にわたり、どのような効果を狙って処方されているのか、わけが分からなくなることも多いでしょう。
というわけで、今回はパーキンソン病治療薬の特性と使い所について概要を掴んでいただければと思います。かなり長くなるので、全3回の予定です。

ドパミン系

①L-dopa:ネオドパストン®、メネシット®、ドパコール®、マドパー®など

<強み>
運動症状改善に最優
・幻覚の副作用が少ない
<弱み>
・wearing off
・dyskinesia
・副作用:消化器症状

パーキンソン病治療の根幹はやはりL-dopaです。
L-dopa単剤だと、末梢組織にも存在するドパミン脱炭素酵素によってドパミンに変換されてしまい、実際に脳内へ移行できるL-dopaは数%のみとなってしまいます。
L-dopa・DCI配合剤であれば、L-dopaの中枢移行が改善され、また消化器系副作用が減少するため、基本的にこちらの製剤を使用します。
L-dopa・DCI配合剤には、L-dopa・カルビドパ合剤(ネオドパストン®、メネシット®、ドパコール®)と、L-dopa・ベンセラジド合剤(マドパー®、ネオドパゾール®、イーシー・ドパール®)があります。両者の比較としては、
(1)L-dopa・ベンセラジド合剤の方が副作用が出現しにくい
(2)血中濃度の変動はL-dopa・カルビドパ合剤の方が緩やか
(3)添付文書上の最高1日投与量はL-dopa・カルビドパ合剤は1500 mg/日、L-dopa・ベンセラジド合剤は800 mg/日
となっており、使い分けの例としては以下の通りです。

  • L-dopa・カルビドパ合剤は進行期で血中濃度の変動を抑える必要がある症例に、L-dopa・ベンセラジド合剤は嘔気が出やすい症例に

  • ドパコール®は50 mg製剤があるので、1回量の細かい調整をしたいときに便利

なお、L-dopa製剤の吸収に影響する因子として、

  • 酸性条件で溶解しやすい →PPI併用によって吸収が低下する

  • 空腸上部が主な吸収部位である →胃の排泄時間(消化管蠕動の低下)が影響する

  • 大型中性アミノ酸トランスポーターを介して吸収される →食事由来のアミノ酸濃度と競合する

などがあります。

また、L-dopaはパーキンソン病治療薬の中で唯一注射製剤(ドパストン®)が存在します。
オフが強すぎて内服できない、周術期で内服不可の時間があるなどの理由で経口内服が困難な場合、内服薬を点滴で置換する場合があります。
目安としては、L-dopa/DCI配合剤100 mgにつき、ドパストン®50〜100 mgで換算します。
(例)ドパコール®100 mg 3錠分3で服用している場合
 →「ドパストン®50 mg+生食100 mL」を1時間かけて1日3回
この後登場するドパミンアゴニストやMAO-B阻害薬を単剤or併用の場合は、ドパストンで代替したり、ドパミンアゴニストであれば貼付剤に変更したりします。

②ドパミンアゴニスト(DA):レキップ®、ミラペックス®、ニュープロパッチ®など

【総論】
<強み>
将来的な運動合併症の予防・軽減に有効
・非麦角系DA:重篤な副作用が少ない、徐放剤や貼付剤が開発されている
<弱み>
・麦角系:長期・大量使用で弁膜症、肺線維症などのリスク
・非麦角系:日中の傾眠、突発性睡眠
・麦角系・非麦角系共通:幻視、衝動制御障害

麦角系DA(ブロモクリプチン、カベルゴリンなど)はセロトニン受容体5-HT2B刺激作用があるので、副作用として弁膜症や肺線維症があり、現在は第一選択にはなりません。
現在は非麦角系(プラミペキソール、ロピニロール、ロチゴチン)が圧倒的に主流ですが、突発性睡眠・傾眠が起こり得るため、自動車の運転や機械操作、高所作業などの危険作業に従事しないよう説明を徹底する必要があります。また、薬剤性の姿勢異常(ジストニア)、末梢性浮腫も起こりやすいです。

【各論】
(1)プラミペキソール(ビ・シフロール®、ミラペックス®)
・抗不安作用、抗うつ作用が期待できる
・振戦に対して比較的効果が高いとされる
・衝動制御障害のリスクが高い
・大部分は腎排泄 →腎機能低下例では精神症状を誘発することがある
・日中過眠・突発性睡眠は他のDAよりも多い

(2)ロピニロール(レキップ®、レキップCR®、ハルロピ®テープ)
・肝代謝であり、腎機能低下例や高齢者にも使用しやすい
・プラミペキソールと比較して、起立性低血圧の頻度は多く、幻覚は少ない
・貼付剤が使用可能であり、吸収不良が疑われる場合は切り替えも可能(内服2 mg→貼付8 mg相当)

(3)ロチゴチン(ニュープロ®パッチ)
・主に肝代謝
・睡眠障害・排尿障害の改善効果が期待されている
・プラミペキソールやロピニロールと比較し、衝動制御障害の頻度は低い
・早期の運動症状(オフ)対策に有用とされる
・貼付部の皮膚症状(痒み、発赤、水疱形成など)により、継続困難になることがある

なお、ニュープロパッチにはアルミニウムが含有されており、MRI撮像時には剥がさなければなりません。ハルロピテープには金属含有はなく、MRI撮像は問題なく行えます。

③MAO-B阻害薬:エフピー®、アジレクト®、エクフィナ®

【総論】
<強み>
・運動症状改善、オフ症状の改善、L-dopa節減効果
<弱み>
・幻覚、せん妄、dyskinesiaの増悪
・半減期14日のため、中止後、回復までに数日要することも
・抗うつ薬との併用でセロトニン症候群のリスク

【各論】
(1)セレギリン(エフピー®)
・MAO-Bを非可逆的に阻害
・アンフェタミン骨格を持つため、覚醒剤減量としての管理が必要(保管方法や破棄の手続きが非常にに面倒)
・不眠の原因になることも
・早期患者への単剤使用可
・5 mg以上使用する場合は分2(朝・昼)で服用(上限10 mg/日)
・副作用:幻覚の頻度がやや高い

(2)ラサギリン(アジレクト®)
・MAO-Bを非可逆的に阻害
・アンフェタミン骨格を持たない=管理しやすい
・用量設定は単剤投与でも併用投与でも0.5〜1 mg/日、1日1回で良い
・肝臓でCYP1A2による代謝を受けるため、シプロキサンなどCYP1A2阻害薬やフェニトインなどCYP1A2誘導役との併用には十分注意が必要
・肝障害(C-P分類A)がある患者は慎重投与(低用量で投与)

(3)サフィナミド(エクフィナ®)
・MAO-Bを可逆的に阻害
・アンフェタミン骨格を持たない
・現在のところ、L-dopa製剤との併用のみ(単剤適応なし)
・50〜100 mg/日、1日1回で良い
・肝機能障害がある場合、C-P分類Bでは1日50 mgまで、C-P分類Cで禁忌
・網膜関連疾患がある場合、ラットでの試験でもうまく変性がみられたため、使用を避けるか定期的に眼科評価

※MAO-B阻害薬併用禁忌薬:使用したければ14日以上前から休薬が必要
(1)セロトニン再取り込みを阻害する薬 →セロトニン症候群のリスク
   ・SSRI(パキシル®、ジェイゾロフト®)
   ・SNRI(サインバルタ®)など
   ・ノルアドレナリン・セロトニン作動性抗うつ薬(レメロン®)
など
   ・オピオイド鎮痛薬(トラマドール®など)
(2)機序不明だが高血圧、湿疹、不全収縮、発汗、痙攣などを誘発するリスク
   ・三環系抗うつ薬(トリプタノール®など)
   ・四環系抗うつ薬(テトラミド®など)

④COMT阻害薬:エンタカポン(コムタン®)、オピカポン(オンジェンティス®)

<強み>
・L-dopaの末梢での分解を阻害→中枢への移行↑
L-dopaの血中半減期の延長
<弱み>
・エンタカポンは連用で午後にかけてL-dopa血中濃度ピーク高値→L-dopa副作用の増悪
・単独の治療効果はない

単独による治療効果はないため、必ずL-dopaとの併用で使用します。
L-dopa/DCIとの合剤であるスタレボ®として服用することも可能です。
オンジェンティス®は1日1回の服用で良いですが、食事およびL-dopa服用のタイミングよりも1時間以上空けなければならないという条件が伴います(眠前内服で処方することが多いです)。

おわりに

以上、まずはドパミン系薬剤についてまとめました。
具体的な使い所については、③<薬剤選択>でお示しします。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

非ドパミン系薬剤の解説はこちら↓

実際の薬剤選択の指針についてはこちら↓


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