その表情から溢れるもの ベイスターズの4番・牧秀悟が持つ本当の魅力
『ベテランルーキー』
一見矛盾しているその言葉は、横浜DeNAベイスターズの牧秀悟が初めてのオフシーズンを迎えた際に贈られた賛辞だ。
新人らしからぬ堂々とした姿勢、そしてルーキーイヤーに成し遂げた記録の偉大さを表している。
そんな我らが誇る牧秀悟が持つ本当の魅力は、記録や数字では表せない所にもある…
…はずなのだが、どうにもうまく言い表せない。
何度も足を運んだはずの横浜スタジアムやテレビの試合中継で、一体今まで私は何を見ていたんだろう。
そこでふと、とある方の存在を思い出す。
惹かれて、描き続けて、気付いた
イラストレーターのほしさん。
球団公式ファンクラブ紹介漫画『ファンクラブのこと教えて!今永先生』を描いた方だ。
ほしさんはシーズン中、『今日の試合』と題してベイスターズが勝った試合の見どころを一枚のイラストにぎゅっと集めて描き、Twitterにアップしている。
2015年から始めた『今日の試合』だが、今やその更新を楽しみにしているTwitterのフォロワー数は7000人以上。
かくいう私もその更新を楽しみに待つ一人なのだが、2021年のシーズンインに伴ってほしさんのアップするイラストの熱量がとても上がったように感じた。
というのも、今まで描き続けていた『今日の試合』だけでなく新たにもうひとつ別視点の更新が増えたのだ。
それは、牧秀悟に関するイラスト。
彼の記録が増えるたびにイラストの数も増えていく。
安打数、打率、打点、ホームランの本数…。
前代未聞の成績を打ち立て続ける牧と、その姿を描き続けるほしさん。
それだけではない。
今年の1月8日から1月16日にかけて、牧の出身地である長野県中野市の信州中野商工会議所会館にて開催された『横浜DeNAベイスターズ 牧秀悟選手 2021シーズン回顧写真展』、なんとそちらでほしさんの作品が展示されたという。
端的に言えば、牧に対して何か思い入れがありそうだ。
ほしさんならばきっと、彼が持つ本当の魅力を知っているに違いない!
早速お時間を頂き、横浜市内某所でほしさんにお話を伺うことにした。
——牧選手の魅力って、一体何でしょう。
「個人の性格だとか、人としての部分は正直分からないです。ただ、野球選手としての振る舞い、プレーの最中やベンチに居る時の表情。そこに魅力を感じるのかな、と」
——振る舞いや表情、というと。
「牧選手がベイスターズに来て、試合中の姿をずっと見ていて気付いたんです。彼は勝利至上主義なんだって。まず何よりも勝つ事が大切。何年も野球ファンをやってきたくせに、そこを本気で分かっていなかった」
ほしさんの言葉を聞いた瞬間、何も言えなくなってしまった。
ただ深く、頷くことしかできなかった。
“通算借金 997”の重み
4209勝、5206敗、315分。
これが横浜DeNAベイスターズ、現在の通算成績。
負け越した試合数、つまり借金は997。(2022年7月3日現在)
愛する球団がこれだけ勝利から遠ざかると、ファンはどうなるのか。
ほしさんは少しだけ恥ずかしそうに、自分の経験を語る。
「これ以上つらくならないように、負けの中から何かを見出そうとするんです」
確かに、身に覚えがある。
大好きなチームが負けるのは悲しい。
応援している選手が打てない、打たれるのは苦しい。
だからせめて、一つでも今日の良かったことを見つけたい。
そうだ!3回表、あの選手のダイビングキャッチが良かった!
それに5回以降は失点しなかったし…
と、こんな感じでどうにかして敗戦のショックを和らげようとする。
そして最後は“これだけ頑張ってもダメだったんだから、仕方ないよね”と締めくくる。
そうやって誤魔化さないと、ひとつひとつの負けの重みで心が潰れてしまうから。
それほどまでに997敗は、重かった。
その表情から溢れるもの
ほしさんはこう語る。
「よくあるのは、例えベイスターズが負けたとしてもファンとしては『牧がホームラン打ったのが見られたからいいよね』なんですけど、牧選手にとってはそうじゃない。それじゃダメなんだって、彼の表情が教えてくれた。少なくともこちらは勝手にそう感じたんです」
2021年、横浜DeNAベイスターズはシーズン序盤の4月に10連敗を喫した。
その間も牧はずっと声を出し続け、負けという結果に悔しさを一切隠さなかった。
先輩全員が引き上げた試合後のベンチに一人座ったまま、目を閉じてしばらく天を仰いでいたこともあった。
「負けた時、彼が本気で悔しがる表情を見て思ったんです。あなたが勝たせたいチームが勝っていないなら、今までやってきた私たちの考え方は間違っていた、なんて失礼な事をしてきたんだろう…って」
牧は勝ちに対する貪欲さを隠さない。
私は、果たしてそうだろうか。
少しでも劣勢になると、彼よりも早く諦めていないだろうか。
「試合を通してずっと彼を追っていると分かるんです。自分がホームランを打った時よりも、先輩が勝ち越し打を放った時の方が何倍も嬉しそうで。誰よりもチームの勝ちを喜んで、誰よりも負けを悔しがっている」
ベンチの出入り口脇で前のめりになって先輩を応援し続ける牧の姿は、もうすっかり見慣れた。
自分が直前の打席で凡退しても、すぐに定位置に戻り明るい表情で声を張り上げる。
もちろんチームに貢献したいからこそ、本当は自分自身が一本でも多く打ちたいだろう。
それでも例え自分が無安打に終わった試合だったとしても、牧の笑顔が一際輝くのはベイスターズが勝った時。
「その表情をもっと見たい、もっと描きたいから、私たちも本気で応援して勝たせてあげたい」
先輩が放つタイムリーヒットに飛び跳ねて大喜びする姿、ヒットを打ち塁上でガッツポーズする姿、打席で結果が出ず歯痒い表情でバッターボックスを後にする姿。
一瞬一瞬、その眼の奥で強く光っているのは、勝利への執念だった。
牧秀悟が持つ本当の魅力、それは偉大な記録でもバッターとしての才能でもなく、勝利を求める心。
私は横浜スタジアムのスタンド席から、テレビ画面のこちら側から、牧の強い気持ちに恥じないように応えなくてはいけない。
昨日までの997敗に押し潰されず、今日の1勝を何が何でも掴み取る。
牧が諦めていないのに、私が諦める訳にはいかない。
勝負が決まるその時まで。
9回裏、スリーアウトまで。
絶対勝つぞ、ベイスターズ。
【参考】
ベテランルーキー | 2 牧秀悟 新人特別賞 受賞
https://youtu.be/jXZfJHQzvz8
ファンクラブのこと 教えて!今永先生
https://www.baystars.co.jp/fanclub/pdf/fc2022_01.pdf
牧選手写真展で展示されていたイラストの作者は?
https://local-news.jp/?p=14697
横浜DeNAベイスターズ 年度別成績
https://npb.jp/bis/teams/yearly_db.html
のしかかる連敗脱出への重圧…ベンチで天を仰いだDeNA・牧
https://www.daily.co.jp/opinion-d/camera/2021/04/18/0014253153.shtml