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新曲「It's only lonely crazy days」楽曲レビュー(その2) 〜「一切合切 It's alright」を語り尽くす〜

前書き

この記事は新曲「It's only lonely crazy days」の楽曲レビューのその2になる。単独でも読めるが、その1から続けて読んでいただけると嬉しい。

その1では楽曲全体の感想を述べたが、この記事では思い切って「一切合切 It's alright」のワンフレーズだけに絞って語り散らしてみたい。

全肯定のメッセージ

まずは、分かりやすいところから入ろう。
「一切合切 It's alright」は、素直に言葉の意味を読むと、全肯定のメッセージである。

全肯定してくれる力強さ。これを求めてエレカシを聞いている人も多いのではないだろうか。あの説得力のある歌声とサウンド(ここにメンバーの佇まいを付け加えてもいいかもしれない)で全肯定されると、なんでもやれるような気になってしまうのだ。

しかしサウンドはポジティブ全開かというとそうでもなく、むしろどこか憂鬱さのような悲哀を残しているようにすら思える。このアンバランスな部分に現実を生きている生身の人間味を感じるからこそ、聞き手を力づけてくれるのが、エレカシの最大の魅力だと思う。

なお、感覚的なものだが、近年の宮本先生は特に躊躇なく全肯定してくれるようになった気がする。「passion」の「全ては alright」でも、「Do you remember ?」の「俺の全てでこの世を愛していこう」でもいいが、とにかく全肯定なのだ。誰だって否定されるよりは肯定されたい。せめて音楽を聞いているときくらいは。

リズム感の良さ

そして、このフレーズは単語のリズム感もすごく良い。促音(小さい「つ」のこと)の使い方が絶妙なのである。

分かりやすく書いてみると、こういうことだ。

いっさい(促音)、
がっさい(促音)、
いっつ(促音)、
おーらいと(伸ばし音)

なんとも癖になる、小気味よいフレーズではないだろうか。

単語の選び方に滲み出る感性

次に単語の選び方という観点で見てみたい。

「一切合切」という単語を使う時点でもう「らしい」のだが、さらには「一切合切」というやや古い言葉に英語の「It's alright」を組み合わせるこのフレーズは、あまりに宮本先生「らしい」。
何かの陰謀を疑ってしまうくらい、先生らしくて、良い。

先生の言葉の選び方が独特なのはいつものことで、それが魅力の一つでもある。例えば「穴があったら入いりたい」で「御同輩」と歌うのに驚いた人もいるのではないだろうか。「御同輩」と歌うロック歌手、なかなかいない。

ちなみに、私はソロで「shining」が発表されたときその単語選びのセンスに驚嘆したのだが、この「一切合切 It's alright」にはそれに近い感覚を覚えた。

簡単に解説すると、「shining」は、1曲の中に「今宵もさやけし(古語)」、「shining(英語)」「アモーレ(イタリア語)」が入っているという、とんでもない曲なのである。しかもこの曲は時代劇「桶狭間 OKEHAZAMA〜織田信長 覇王の誕生〜」の主題歌として書き下ろした曲であるらしい。時代劇の主題歌に「アモーレ」を入れるのは、只者ではない。

発音の美点を生かす音選び

ここからは、やや専門的な話になるかもしれない。「一切合切 It's alright」のフレーズが、歌手・宮本浩次の発声の美点を生かす音で構成されているという話をしたい。先に断っておくと、音楽の専門家が聞いたときにどう思うかはしらない。単に私の好みの話をする。

先生の発音の特徴的な点はいくつかあるが、ひとつ言えるのが「ai」の発音の良さである。先生の発音する「ai」には、額を中心に前に飛ばした音がヨーヨーみたく円を描いて素早く戻ってくるような、独特の良さがあるのだ(もっと良い例えはないのかと思うが、語彙が貧弱で悔しい)。

そして、このフレーズは、その強みを存分に生かせるものになっている。これは、先生の「ai」が好きな人間としては、ものすごくポイントが高い。なにせ「一切合切 It's alright」の部分だけで、3回の「ai」が入るのだ(ぜひ数えてみてほしい)。

意図的か、本能によるものなのかは不明だが、宮本先生は、曲作りで計算なんかできないと主張しておられる割に、いつも自分の歌い方の強みを生かす歌詞を書くお人なのである。

例を挙げてみたい。例えば、鼻濁音(鼻に抜けるような音。マ行、ナ行、ガ行など)の良さも宮本先生の特徴の一つなのだが、「歴史」はその強みが最大限に発揮されている曲である。
歌詞にある「森鴎外が俄然輝きを増す」の部分だけで、驚くべきことに「が」が4回も出てくるのだ。「俄然輝き」の部分は「が」と「が」に挟まれた「ん」もあるという、鼻濁音まみれの、何だか知らないが最高の作りなのである。

そして、お気づきかもしれないが、今回注目している「一切合切 It's alright」のフレーズにも、「が」の音が含まれる。これがまた良いのである。

おわりに

その1から続けて、ここまで全て読んでくれた人がもしいたのなら、まずはお礼を言いたい。読んでくれてありがとうございます。

「一切合切 It's alright」のワンフレーズに絞っても、これだけ語れるだけの良さがある新曲「Its' only lonely crazy days」は、本当に素晴らしい。まだ聞いていない人は、ぜひ聞いてほしい。

すでに聞いている人で、私の note を面白いと思ってくれた人は、ここで語り散らしたような点を意識しつつ、もう一度じっくり聞いてもらえると嬉しい。単純な「かっこいい!」「良い曲!」「最高!」を超えた、この曲の良さが分かると思う。

追記:続編

さらに続編を書きました。


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