瞼の裏の夢/スペシャルサンクス①
スペシャルサンクス(Special Thanks)は、「特別な感謝」を意味する。映画やドラマなどのクレジット・エンドロールで、職名のないスタッフや作者に影響を与えた人などの名前を「スペシャルサンクス」として記載することがある。
―Wikipedia
クラスメイトA
あいつの夢は科学者だった。
俺はエネルギー問題を解決して死ぬんだ、と。大袈裟な事を、いかにも大袈裟な手振りを添えて話していた。
知的探究心に溢れた人で、饒舌で、ずる賢くて、でも全ての物事に真剣に取り組んでいた。それは生真面目とも言えるほどで、度々感情的になることもあった。全てに本気だった。そんな姿勢が人から愛されていた。あいつの周りでは、笑いが絶えなかった。
あいつは指標だった。私が目指す人間像で、それはあまりにも無謀だった。
クラスメイトB
あいつの夢は犬と暮らすことだった。
俺は犬さえ飼うことができればそれでいい、というのが常だった。
とにかく万能な男だった。勉強だって、人間関係だって、芸術だって、なんでも平均以上に、いや、平均より飛び抜けてこなした。その裏付けには数え切れない努力がある筈なのに、あいつはスカして全てに適当なフリをしていた。あの人を尊敬していない人間なんて、多分誰も居なかった。
少なくとも、私は心から尊敬していた。とにかく羨ましかった。届きそうになかった。だから、自分から遠ざけようとした。
クラスメイトC
あいつの夢はモテることだった。
色欲に塗れた男で、授業中はずっと女の脚を舐めまわすように見ていた。
全ての人に分け隔てなく優しいあの姿は、まさに太陽のようだった。それが欲望から来るものであっても、間違いのない利他であった。
酷い時期もあったけれど、過去の過ちを飲み込み、決別するどころか、共生する強さを持っていた。あの人はそこに必要不可欠だった。
真っ直ぐな欲の美しさを教えてくれた人だった。無論、本人はそんなことを思ってすらいなかった。常に私の上にいる人だった。
クラスメイト、あるいは関係者各位
彼らは未だ進行し続ける一本の直線の先に夢を見ていた。
私は、多くの人が言う後ろ側に夢を見ていたようで、瞼の裏の夢を見ていたようで。
後退なんかしていない。していないはずなのに。私は電車から見える景色のように、ただそこにぽつんと置いてある空虚のように、その場に留まっては、もうそこにはとっくに誰も居なくなっていることに気付く。その繰り返し。
不意に肩をぽんと叩かれる。
そろそろ振り返って前を向いてみたらどうだ。
足元を蝸牛が通り過ぎる。