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2020/09/13 『追放された落ちこぼれ、辺境で生き抜いてSランク退魔師に成り上がる 1』を読んで ~HJ文庫公式レビュアープログラム~

HJ文庫の公式レビュアープログラムに応募した。

応募は無事に通過することができ、今月から4ヶ月の間、月に2冊HJ文庫のラノベ新刊を送ってもらいレビューという形で感想を書くことになった。

プログラム2冊目として『追放された落ちこぼれ、辺境で生き抜いてSランク退魔師に成り上がる 1』を読んだ。タイトルが長い。


レビューを書き始める前に注意事項を挙げる。
私はネタバレは最小限に抑えたつもりだが、どこまでをネタバレとするかは人によって違うため読み手によってはネタバレだと思ってしまうところがあるかもしれない。
まだ本書を読んでいない方は、これについて理解してもらったうえで以降のレビューを読んでほしい。


◆以下レビュー◆


とても素直な物語だった。

私は専ら現代日本をベースとした物語を中心に読んでいるので、そもそもファンタジーが題材というだけで少し新鮮な気持ちさえあった。
が、新鮮であるがゆえに、変に奇を衒ったような物語だったら少し嫌だなとか思っていた。

これは勝手な偏見でしかないのだが、この手のファンタジーライトノベルは市場に溢れすぎていて、ほとんど同じような展開をする物語ばかりだったり、逆にそれを毛嫌いしすぎるせいであまりにも突拍子もないようなオリジナリティの付与をしている作品が多いんだろうなと思っていた。さらに言えば本作もそのどちらかの類なのかなとか思っていた。追放もの+ファンタジー学園ものっぽいし。

ただ、実際に読んでみると、一重にそんな単純な話ではないなと思った。

物語の展開の仕方はとても王道で、たしかに悪く言ってしまえばありきたりなのかもしれない。
しかし、オリジナリティのフレーバーはしっかりと随所に散りばめられていて、王道ファンタジーという物語なりの自覚と戦略が感じられた。丁寧な分析がなされている物語は好みである。
かといってしつこいほど差別化を押してくるわけでもなく、世界観の情報量はとても適切でテンポも良く、全体を通して非常に読みやすかった。
説明を挟むタイミングもやはり適切で、きっと読者はかなりスムーズに世界観の解釈をすることができるだろう。


あらすじはタイトルを見れば一目瞭然だ。

主人公は、それまで仲間だと思っていた人間にある日突然見捨てられ、人々が生きていくことが困難とされる土地に生身で放り出されてしまう。
彼はその環境をどうにか生き延びたのち、人々が住まう土地に帰ってくることに成功する。
そしてそのサバイバル生活で無理やり鍛え上げられた能力を駆使して活躍する物語だ。

ライオンキングや、あとはサバイバルの部分にだけ着目するとディスカバリーチャンネルの企画を思い出したりした。
主人公はまだ幼いながらもかなり過酷な期間を過ごすことになる。大変な人生だ。


では本題、の前に書き記すが、主人公以外のキャラクターについては正直まだイマイチよくわからない。これは2巻以降に期待したいところである。
そのため当レビューについては、基本的にこの1巻では主人公のバックボーンが強く押し出されていることから、主に主人公のキャラクターを踏まえたうえで物語を俯瞰する形をとった。


主人公は、クールな性格だなと思った。基本的にフラットな対応をする。
これは結局仲間だと思っていた人に裏切られた経験からくるものだ。過度な解釈をしてしまうと、人のことを諦めているようにも見えた。

この物語は全編を通して、人に対する不信感がベースとして存在し、それでもなお人のことを守りたいと考えてしまう主人公の多少いびつにすら感じる善性がよく描かれている。
このいびつな善性については結局彼の身内によるものがとても大きく、もはや呪われていると言っても過言ではない。

凄まじい環境から帰ってきたというあまりにも得意な経験があるので、事情を知った人間は主人公の過去についてかなり積極的に聞いてくる。「またこの主人公過去の話してるじゃん……」と思ってしまうくらいには周りの人間が主人公に接触してくる。
もちろん彼は別にその過去についてはそのときとなってはほとんど何も感じていないので(そんな恨みの感情はほとんど忘れてしまうくらいには厳しい環境だった)、誰に対しても同じようなフラットな返答をしていく。明かすところは明かすし、別に聞かれていない部分は伝えない。
これこそが、彼の根底にある人に対する不信感をかなり示しているような気がして、私はとても良いなと思った。それについて彼自身はあまり気づいていなさそうなのもまた良い。

逆に、そんな彼が作中で一度だけ人に対して強く感情を露わにするシーンがあり、そのシーンは非常に印象に残っている。「主人公よく頑張ったじゃん!」みたいな気分になった。

また彼の特徴として、かなりの勉強家であることと、想像力がとても豊かであるというものがある。もしかしたら勉強によって想像力がどんどん鍛えられたのかもしれない。

見捨てられる前もずっと勉強していた。ただ、彼の勉強が無意識に実践に特化していたようで、学園のなかではあまり成果を出すことができない。また、学園内での実践訓練においても、彼は持ち前の能力が時代のニーズ的に受け入れられ難かったことからやはりこちらでもなかなか成果を出せなかった。

しかし裏切られ追放されたことで逆に今までの財産が真価を発揮する。

文献で得ていた知識は環境の分析に用いられ、受け入れられ難かった能力はフィールドワークの中で半ば無理やり使うことになる。
この能力は使用者の想像力にかなり依存するものだ。主人公は性格の都合で学園内ではこの能力を使うことはためらわれたであろう。何せ時代や空間の問題でなかなか評価されにくいものだったのだから。
だが逆に学園でない伸び伸びとした空間の中では使わざるを得ない。そうしなければ死んでしまう。
しかしここで初めて今までの勉強で獲得した豊かな想像力と自身の能力ががっちりと噛み合わさり、最終的に特異で強力な武器となっていく。「現場で上手く立ち回るタイプ」のある意味極まった形である。

彼は運もとても良かった。これのおかげで生き残ることができた節もどうしてもあるのだが、彼はそれもちゃんと理解しているのが良かった。
弱者であった経験が根底にあるがゆえの優しさを持っている。できた人間だ。

作中、主人公一人で強大な存在に立ち向かっていくシーンがあるのだが、物語として締まっていていいなと思った。最初に仲間だと思った人間から見捨てられたシーンとよく呼応し合っている。
結局は過去があって初めて成り立っている主人公なので、これを見せてくれたのが一人の読者として嬉しかった。

主人公の想像力の豊かさはまさに肝となっているかもしれない。
戦闘シーンは様々なバトルスタイルを展開し、面白い絵が頭にどんどん浮かんでくる。どれも爽快感と躍動感が感じられて良かった。



最後に、せっかく私も絵描きなので絵の話をしたいと思う。

キャラクターがみんな体型がほっそりとしていて、でもお顔は大きく、要はデフォルメが効いたデザインがなされていた。
それでいて違和感が生じたりしていることはなく、洗練されたスタイリッシュさを感じる絵になっている。手足も細長く、バトルシーンでかなり映える絵と言えるだろう。
もちろんゴツいキャラクターはちゃんとゴツく描かれているので安心できる。
女性はかなりかわいらしく、男性はかなりかっこいい。王道バトルファンタジーとしてこれ以上に相性の良い絵なくない?エイラさんが果物食べてる絵好きすぎる、LOVE……。
コミカライズ企画も進行中とのことで、絵としてきっと期待できるものになるだろう。

サバイバル生活から帰ってきたあとの主人公の顔が非常にキリリとしていて刃物みたいになっていたのが良かった。
元々女々しさのようなものからいじめられていたキャラクターであるので、サバイバル生活の中で精神が鋭く研ぎ澄まされてしまったんだろうな……ということが想像されて、つい哀れんでしまう。つくづく大変な人生だ……。


◆◆◆


プログラム1冊目のレビューは以下より



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