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マネキンはすごい

淡いカラーの服はだいたい好きだけれど、たまにあざやかな色のものが無性に欲しくなるときがある。青や赤、ふかみどりとか。

最近ちょうど「赤」の時期に入った。すいすい~っと服屋さんを抜けるとき、赤がないかどうかちらちらと確認してしまう。
店員さんと話すのをなるべく避けたいほうなので、じっくりと見るというよりはふぁさふぁさっと手をすべらせてから去る。ちゃっかり値札はチェックする、ヤな客である。

ある駅のショッピングモールで赤系を探していると、ビビビッ!とひとめぼれした服があった。ノースリーブのサマーニットで、白いスカートと合わせたマネキンの姿。か、かっこよい……!!!
お値段もそんなに高くないし、買っちゃう?買っちゃう?と自問しつつ、店員さんに目をつけられないように(言い方)一旦その場は去る。どうしよう。欲しい。欲しいが……!

ビッグ・ラブ・カルディを除き、必需品以外の買い物になかなか踏み出せない。友人や家族からちょんとつつかれれば、ぴょいっと買っちゃう単純脳なのだけど、このときはひとりだったのだ。しかも、ちょうどお茶したあとで、既にその日は微々たる出費をしていた。
じゃあ別日だったらいいのかとつっこまれそうだが、気持ち的になんとなく、こう、予定のなかった出費を同じ日にやっちゃうのがちょっと後ろめたかったり……。旅行などの特別なイベントだとまったくそんなことは気にしないので、心づもりの問題なのである。めんどくさいなあ!

出会ったんだから買っちゃえ~という若い声と、同じブランドは他のところにもあるし、別に今日じゃなくてもねえ、という落ち着いた声の脳内バトル。結局、年の功ということで後者の声についていくことにして、その日は帰ったのだった。

さてここから。数日経ってもどうしてもあのトップスが頭から離れない。あのマネキンのように着こなしたい!という野望にとりつかれ、赤ノースリ探しがスタート。同じブランドの店舗にたどり着いたと思ったら置いていなくて、その近くの別の店舗はドンキに生まれ変わっていて(なんで)、もしやもう売られていない……!?と焦る。八月中はせめて売っていてくれ。

帰省してからも探し回ったが、お目当てはなし。もはや意地。妥協して買いたくはないので、できるだけ同じデザインのものをと巡ったのだけれど、意外にもない……というか、真っ赤な服自体があまりない……。しかも知らないうちに秋服メインのマネキンにかわってるし。暑いど!?まだまだ暑いど!?

そうして一ヶ月経とうとしていたのだが、ついに、実際に出会った店舗に行くチャンスがやってきた。当たり前だが、マネキンはもう違う服を着せられている。ないかも……ないかも……と奥へ入っていくと、たぶんこれだと思うものを発見した。ノースリーブだし、生地もあの感じだし、きれいな赤だし。
曖昧な確信しかもてなかったのは、ハンガーに吊るされたそれに対して、感動とか、欲しいという衝動がよみがえってこなかったからだ。
すらっとしたマネキンがおしゃれに着こなしているからこそビビッときたのであって、いざ服だけをハンガーで見るとこんなに違うのか。ちょっとシワも寄ってるし……。あれえ……。

あれだけ欲しかったはずなのに、なんだか冷めてしまった。出会った瞬間に買っておくべきだったのかもしれない。自分の気持ちにびっくりしつつも、せっかく買い物の気分で来たのだから、と違うお店でひとめぼれしたワンピースを買ってしまった。これも赤です。赤欲、満ち足りにけり。

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