生きるヨロコビとかなしみ「ポトフ 美食家と料理人」「PERFECT DAYS」「FIRST COW」*2023年12月に観た映画
2023年最後の月
観たい映画がいっぱいで困りました
今月は以下の11本でした
ポッド・ジェネレーション(米)
BAD LANDS(日)
ブラック・レイン(米)
ほかげ(日)
ポトフ 美食家と料理人(仏)
ザ・キラー(米)
FIRST COW(米)
ヤマドンガ(印)
プシュパ覚醒(印)
PERFECT DAYS(日・独)
サイラー ナラシムハー・レッディ 偉大なる反逆者(印)
ポッド・ジェネレーション
AIの声で「おはよう」と言われたり
彼らが朝ごはんを準備してくれたり、着る服まで選ぶような
近未来…ワタシは勘弁してほしいな
何でもハイテクノロジーがやってくれる世界に順応している妻
植物を愛して自然を大切にしている夫
・・・でも深く愛し合ってる
カップルや夫婦は他人からはわからないモノがある
そやから、特別な人なんやろけどね
確かに妊娠・出産、その後に控える子育ては
女性に精神的にも肉体的にも時間的にも負担が大きい
だからって・・・
気味の悪い目玉にカウンセリングを受けたり
仕事中に「能率が何%落ちてる」とか
「苛立っていますね」とか言われるのんワタシはごめんや
ただ、最初はポッドを嫌がっていた夫が
ポッドを抱っこしておんぶして
読み聞かせをして一緒に昼寝して・・・と
愛情を深めてゆくプロセスは悪くない
企業が管理して何やら企んでいるポッドでの妊娠出産
まるで”コントロール”…人間を扱ってるとは思えへん
そのおかしさや裏を嗅ぎ取った二人のその後が痛快
素敵な離島で子どもが生まれるまでを
夫婦ふたりでゆったり過ごし
特殊な出産ながら、感動するふたりを見ていたら
ハイテクの必要なところとそうでないところは歴然としている
妊娠の奇跡(なんと受精の瞬間を見せる)
妊婦さんは大事にされるべきである理由
子どもを授かるとは神さまの領域
BAD LANDS
安藤サクラと聞けば観たくない?
宇崎竜童、天童よしみ、そしてワタシ的に最近大注目の江口のりこ
と来れば、観たくてうずうず
オレオレ詐欺ってなんと手の込んだ劇場型の犯罪なんやろ
生々しい実態とその鍵を握るネリの良くも悪くもある賢さ
コッテコテの大阪弁、西成と思われる地域
半端ないリアル感
ネリ達、警察、怪しげなビジネスの男と
3つの世界が複雑に交差しながら話が進んでゆく
そやけど、気持ちが悪い人がいっぱい出てきた
怪しげなビジネスの男とその第一秘書みたいな女性
キモいけど実際存在してそう
賭場のボス?の女性のビジュアルー金髪ボブを撫でつけ
目の縁を大きく黒で塗る変な化粧
そのお付きの男のホラーなまでの話し方
曼荼羅の落差の激しい精神状態
いやー、いっときも気を抜かれへん展開
ネリはもう”あかん”のんちゃうかと思ったで
でも彼女は最後まで計算づくで駆け抜けて身軽になる
エンドロールで
なんと以前読んでいた黒川博行氏の「勁草」が原作と知る
ご本人も何処かで出演していた模様
個性的で地味やけど上手い俳優さんがいっぱい出てはった
公式サイトよ、こーいう俳優さんを全て紹介しようぜ
BAD LANDS 公式サイト
ブラック・レイン
午前十時の映画祭でずっと気になってた作品
「テルマ&ルイーズ」「エイリアン」などのリドリー・スコット監督作
大阪を舞台にして日本の俳優も多数出演
何より松田優作や高倉健!
なぜこのタイトルか?
ワタシとしては原子爆弾をイメージするのやけど
アメリカと日本の戦後から変化したもの、を指しているよう
大阪が舞台の割に、高倉健やボス役の神山繁が標準語
松田優作のキャラと違和感バリバリの彼の手下
大阪の繁華街が全くの無人状態
など、突っ込みどころあれど
狂気的な役をやらせればピカイチの松田優作は誰にも負けてないし
高倉健はアンディ・ガルシアと歌まで歌ってるし(洋楽)
ガッツ石松や安岡力也、島木譲二などちょっと笑ってしまう方々も登場
スタントを使ってるにせよ
命がけのバイクレースや追走劇、製鉄所を舞台にした銃撃戦など
なるほど伝説になる映画よねー
マイケル・ダグラスって、案外凄い俳優さんなのかも
とも思わされた
アンディ・ガルシアは若くて、ワタシ的にはもっと年を重ねてからの方が
彼の魅力は光ってる気がする
この映画の時点で、松田優作のガンはかなり進行していたらしい
確かに彼のスレンダーぶりはちょっと・・・
役的には、もうちょっとマッチョさが必要だったのでは?
とは思うがオーラがすごい
劇場から出る時、並びで観ていらしたお姉さまが
「高倉健、生きてはるか?」とお聞きになった
亡くなってはりますね、松田優作さんもね
あ、もうひとつ特筆
菅井役の若山富三郎さんのパーフェクトな大阪弁と存在感
ボス役の凄み、誰にも敵いません
ブラック・レイン Wikipedia
ほかげ
目が、出演者全員の目が残像として残った
無垢なようでしたたかな面も持つ少年が
瞬きもせず見つめる先・・・
”ほかげ”って、きっと”火影”
壮絶な東京大空襲から焼け残りを集めた?掘建て小屋
出てくる人みんな傷ついていて、どこか狂気を秘める
生き残ったけれど
喪失感や罪悪感、かなしみや孤独に苦しむ人が溢れる一方で
「なかった事」「仕方がなかった」と割り切って生きられる人がいたんやな
塚本監督は「野火」「斬、」と戦争や争いの虚しさや
憎しみや狂気に翻弄される人間を描いてきはったけど
これも戦争の真実の断片
水谷豊氏と伊藤蘭氏のお嬢さん趣里さんも
「流浪の月」や「零落」でほぉーっと観てきた俳優さんやけど
今や朝ドラのヒロイン こんな役にも飛び込んでるんや
森山未来くん 彼でしかできないような役ばかり
今回もそう
複雑でいて自分の心に嘘がつけない男の役
どこか狂気を匂わせて、でも何やら神秘を漂わせる
最後の銃声、少年が一瞬で察したようにワタシも察した
彼女の選んだ道、きっとワタシが彼女でも
そうしたんちゃうかと思う
あの戦争をあの戦後の混乱を生き抜いた人たちに
今を生きるワタシらはちゃんとリスペクトを払えている?
あの経験を継承できてる?
ポトフ 美食家と料理人
冒頭からセリフは少なく調理シーンが続く
食材の新鮮さや質の良さ、野菜を切る音、外の鳥や生き物の声や音
湯気や炎、ウージェニーの頬が赤く染まってゆく
「美味しい」を感じさせる表情や仕草、言葉
「見せよう」としているのではなく自然に出てきたって感じが
こちらにもしあわせをもたらす
アシストする女の子たちに匂いや味を確かめさせ的確に教え
お客と同じ料理を食べさせる
複雑に美味しさを作り出すハーブや食材を言い当てる少女
料理は芸術ですね!
ドダンとウージェニーのふたりのシーンがとてもきれいだった
夜、沼?池?のそばで明かりもつけず
ふたりでお喋りするシーンなど絵画ようやった
ベタベタしないけど、愛し合ってるのがわかる
エンドロールのピアノが何か普通でない
誰の演奏やろ 心に残った
監督は「青いパパイヤの香り」のトラン・アン・ユン氏(ヴェトナム人)
そう、フランス映画なんやけどフランスっぽくありつつ
色彩感覚や無口な感じとかアレは監督のルーツの影響かも
帰り道、ワタシの幸せをいくつも感じて夜の街を歩いた
美しい映画を観た後は、自分の人生も美しく思えるんかな
ザ・キラー
Netflix作品(間違いないと思わざるを得ない)
キラーである主人公の一人語りで彼の哲学が延々語られる
決して証拠を残さない後始末が膨大にある
見せ方がうまくて、今から〇〇を切り刻むって直前で場面が切り替わったり
かと思うと偽造カードキーを作る機械をAmazonで注文し
受け取り偽造し侵入するまでの一連を見せたり
へぇー、なるほどなーと変な感心をしながら
いつも沈着冷静に見えて
Apple Watch?で自分の心拍数を確認しているのは笑えるんやけど
偽造パスポートがいくつもあって
毎回違う名前でチケットを取り、とにかく油断せず移動する緊張感
パリ、アメリカ、ドミニカとあっちへこっちへ
(ドミニカの美しい自然にうっとり)
しかし、この人を殺す必要ある?と思う程、躊躇なく殺し
その闇組織の表の顔が意外だったりして
組織の一員の”綿棒みたいな女”が不気味やったなー
何か示唆的な熊と猟師の話や彼女との会話が
なんや よう わからんけど重要そうやったな
表情が変わらず瞬きもしない主人公も不気味
監督は「セブン」や「ゴーン・ガール」のデヴィット・フィンチャー
FIRST COW
牛の映画はインド映画で観たことあるけど(あれは暴れ牛だった)
簡素な船に牛が1頭人間と一緒に乗ってやってくるヴィジュアルが
なんか目を持って行かれる
冒頭、犬が延々クンクンしてるのに「何かある」と思わされ
「あ!」ってところで時間軸が過去へと行く展開
クッキーがしっとりした森を歩きながらキノコを取る
大事に布に包み、匂いを嗅いだり囓ったり
乳搾りの時も友達のように牛に声をかけるのね
簡単に怒ったり暴力に出る事はない心優しきひと
キング・ルーも追われてばかりになるけど、いい奴で
途中から彼の深い声が素敵でうっとりした
あ、あ、とこちらをハラハラさせるのやけど
冒険ものでも逃亡劇でもなく
人間のおかしさ、運命の皮肉さ、それでもやっぱり
ふたりの行いなりの安らぎがもたらされた気がしたわ
あと、先住民族が結構出てくるのやけど
今まで観たどの映画とも違う彼らの姿や白人たちとの関係性
キング・ルーが急いで逃げないといけないのに
彼らとちゃんと会話して取引して対価を払ってボートに乗せてもらうシーンが、とても美しかったな
ケリー・ライカート監督は
少し前によく行くミニシアターで特集が組まれていた人で
なんとなく眠くなりそうな(笑ー失礼しました)印象 観たことなかった
A24が配給会社で
あちこちの映画祭で受賞して話題になってるよーです
ヤマドンガ
出町座の「熱風!!南インド映画の世界」特集にて
もうね、クドい!
トンカツに豚骨ラーメンにすき焼きにしゃぶしゃぶを一遍に食べたみたいな(笑)
この展開で冥界にまで行って
終わるんか?これでどう収拾つける?と心配になるくらいの
ぶっ飛びのやりたい放題(笑)
引っ掛かったのは
少女におじいさんが「君の白馬に乗った王子様は…」と
男性にしあわせにしてもらう、という前提で
いつの時代の話や?と突っ込みたくなった
ヒロインはかわいそうで健気で
恐怖やひどい仕打ちにキャーキャー言うだけで
自らの手で違う選択をするって事をせん(自分の足で立たんかい!)
主人公は戦隊モノのヒーローのように不自然に強くて
(どう見ても悪役の人が懸命に飛んだり転がったりしてくれている)
無意味に踊って衣装を変えまくって
(ダンスシーンが多すぎる💦)
・・・よくあるインド映画の設定から1ミリも変わらず
唯一、おお!と思ったのが
選挙で閻魔大王になって(すごい設定でしょ)
「宗教やカーストに縛られない新しい…」というスピーチぐらい
約3時間、2時間経過したところで帰りたくなった(笑)
エンドロールにメイキング映像があって
それが1番良かったかも(笑)
終わって帰りしな、女子同士で観に来てた人が泣いていて
「・・・なぜに泣くって自分でも思うわー」と
その一言にクスッとなって帰ったのでした
プシュパ覚醒
2日続けてインド映画 濃いよ、濃い(笑)
ミュージカルっぽいダンスと歌やなーと最初は思ったけど
後半になるにつれセクシー系になっていくのにドキドキ
1ミリも妥協しない男…これまためちゃくちゃ強い
でも殴られたり蹴られたり殺されそうになったりピンチも結構ある
そして正義の味方のようでヤクザとパートナーになるしたたかさを持つ
苗字がないというのが彼の傷でありコンプレックス
インドにも〇〇家みたいな肩書きがモノを言う価値観があるのか
それを乗り越える彼なんやけど
ブランドがどうした、やね
これまたモリモリの内容で
「え、まだ終わらんの?」と何度も思った(笑)
収拾がつくのか心配させるのがインド映画の特徴(笑)
思った通り、「パート2へ続く」と出て笑った
これは大盛りラーメン2杯って感じかな
「ヤマドンガ」よりワタシは好き
友達2人で来てた大人の女性が「プシュパ、めっちゃ面白かった」
「私、これ観たん3回目!」と大盛り上がりしてた
PERFECT DAYS
平山を見ていて「ワタシやん」と思った
竹箒の音で目覚め、植物を愛で音楽を聴き働く
ひとりの時間の連続
ちょっとした事でニヤニヤしたり
その夜の夢にその断片が現れたり
誰かもわからない人と”あるもの”で交信したり
あまり言葉を発しひんけど会釈をしたり
他人を蔑ろにしたりはしない
夢の描き方と音楽の使い方が秀逸で
淡々とした毎日に小さく起こるあれこれ
生きてゆくってこういう事よな
その彼にも過去があり
あの女性は昔の恋人かと思った
彼女とその娘を見送った平山が泣いていてびっくりした
何かがあったんやろな
過去の自分とは全く違う生活を今していて
彼はそれを幸せだと感じている
満たされている
けれど今も涙が出るような事が彼にもある
石川さゆりの歌が圧巻だった(もっと聴かせてもええんちゃうの)
その元夫との時間がまた痛みを持つ者同士の温かい交流で
珍しく平山がよく喋ってた
ひとりの年末 淋しいようで淋しいばかりではない
こんなふうに生きている人がいるんやと
それもアリやん、と思った
PERFECT DAYS 公式サイト
(映画にならなかった平山の353日ってのが、まるで映画の序曲です)
←俳優さんが結構しっかり紹介されていて、おもしろい人が出演してます!
サイラー ナラシムハー・レッディ 偉大なる反逆者
出町座の「熱風!!南インド映画の世界」企画にて
いやーーー、ワタシは今のところ3本中1番良かった
(あと1本観ます)
イギリスが蹂躙していたインドから抵抗し独立しようと先頭に立った主人公
目がきれいで何やら超越している感がある彼
そうか、100年かけて独立したのか
素直に従えば命は助かる そやけど食べて行かれへん
干ばつでやっとの収穫もイギリスに持って行かれる
(江戸時代の年貢と一緒ですなー)
領主と言えど、権限を奪われ唯のお飾りになり
どんどん理不尽さはエスカレートして
ナラシムハーの宣戦布告、この正義感が眩しい
結ばれなかった恋
でも彼の言葉に自分のできる事を模索するラクシュミ
夫の真の愛情は別の人にあると知っている妻
このあたりも切ないのやけど
彼はラクシュミに謝り、妻に誠実に生きるとこがまた泣かせる
ナラシムハーの死で「終わりでなく始まり」と導師の言葉
エンドロールは独立の歴史のリーダー達かな
似顔絵で紹介された
独立の戦闘に女性兵士もいた
リーダーにも数人だったけど女性がいた
いやー、2023年最後にふさわしい清々しい映画でした!
サイラー ナラシムハー・レッディ 偉大なる反逆者の紹介
(塚口サンサン劇場の映画紹介youtube)
日々、特別大きな事はないけど
小さなあれこれにオロオロしたり笑ったり怒ったり
あぁ、これもしあわせやからなーと思ったりして
そんな事をあらためて思う映画がいくつかあった
自分のコンディションが良くないと観ていられなかったり
受け入れられなかったりする
映画の内容が自分とリンクする時、ちょっと認識が変わったりして
やっぱり映画は偉大です
いずれも3時間と長丁場のインド映画にせっせと通い
話題の映画に何やらじわじわ来て2023年が終わりました
今年は122本の映画を観ました
自分がええなぁ、おもしろいなと思うもので人とつながり、楽しく働けたらなぁ。