スキル系研修では「モヤっと感」を持ち帰らせるようにしています。
University of the Peopleの講義がしばらくお休みなので、久しぶりに仕事っぽい投稿でもしてみるかと思って書いています。
僕の主な仕事を大雑把に言うと、
・子ども向けの「学び」…学習塾とか
・大人向けの「学び」…研修とかコーチングとか
・その他…会計士とかライターとか
…って感じになるのですが、今日は大人向けの学びの話です。
ナレッジ系研修とスキル系研修
大人向けの研修の内容を大まかに分類すると、この2つになると思います。
ナレッジ系は「知っておくだけで得をする」「知らないと損をする」類の研修で、例えば税制改正セミナーを始めとした制度の説明をするものが挙げられます。
対してスキル系は「身に着けてナンボ」のノウハウを提示する研修で、僕の守備範囲で言えば「プレゼンテーション」「資料作成」「Excel操作」といったところです。
もちろん、ナレッジ系にも「スキルっぽいノウハウ」は紛れ込んでくることが多いです。例えば、資金調達セミナーの中には色々な制度融資の説明がありつつ、金融機関との付き合い方といったノウハウも含まれます。逆もまた然りで、スキル系研修にも「ナレッジ風のうんちく」は含まれてくることが多い。なので両者はスパッと線引きできるものではなく、たいていの研修やらセミナーはナレッジとスキルのいずれかに主眼を置きつつ、結局両方を織り交ぜているものだということは言えると思います。
今日はその中でも「スキル系研修」でありがちな講師の進め方と、それに対するアンチテーゼを書いておきたいと思います。
最大の罪は「できる気にして帰らせる」こと
以前僕が受けた「○○力研修」は、それはそれはひどいものでした(たぶん本人にバレるので中身は書きません)。
まる1日で3万円くらいの受講料をとって、講師が***として成功をおさめたときのノウハウ(つまりサンプル数N=1)をひたすら真似させて、「これであなたも〇〇力が身につきました!」という雰囲気を作り上げる。
セミナーの最後にはひとりひとりが「このセミナーで〇〇ができるようになりました!」と宣言して、皆で拍手をするという儀式を行って、お互いのレベルアップを祝いあう。
当時まだ若かった僕はそれにまんまと騙され、ビジネス上の攻撃力があがった気持ちになって帰宅。
そしてその翌日。
僕は教わったことの1割も覚えていませんでした。
高額セミナーの類は、参加者どうしの交流が図られる工夫をしていることが多く、たいていの場合それがバリューの一つになっているのですが、そのセミナーではそんなオマケすらついていなかった。
あの自己投資はいったい何だったんだろう…と今でも悔しい思いに駆られます。残念ながら世の中のセミナー・研修の類のほとんどはそういうものだと思います。
その講師の経歴はきっと嘘ではなく、そのノウハウを愚直に実践すれば、もしかしたら僕も同じ成果を挙げられるようになったのかもしれないですけどね…(遠い目)
だから、いっそのこと「モヤっと感」を持ち帰らせようと思った
時は経ち、気づけば自分がスキル系の研修の講師として立ち回る機会が増えました。あの時の〇〇力セミナーは、自分の中で単なる苦い思い出から、ある種の反面教師としての教訓を与えてくれます。
よくよく考えれば、私たちがスキルを身に着けること自体、たいていの場合は一朝一夕ではいかないわけです。人間のスキル習得までには4つの段階が必要とされています。
1.出来ないことを認識していない
四回転ジャンプに失敗した羽生結弦くんを批判するくせに、それがいかに難しいことかを考えもしない段階です。
2.出来ないことを認識している
でも、いちどスケート靴を履けば、ジャンプどころか立っていることさえ困難だということに気づきます。
3.出来ることを認識している
で、インストラクターに教わって「滑り方」を徐々に身に着けていきます。右足→左足→右足→左足…と、考えながらであれば滑れる状態ですが、ぶつからないように咄嗟によけたりは全然できないので、まだ「スケートできます」とは言えない状態です。
4.出来ることを認識していない
どうやったら滑れるかをいちいち考えなくても滑れる状態がこれです。今回はスケートを例に出しましたが、例えば「自転車」なら多くの人がこの境地にたどり着いているだろうと思います。
で、スキル系の研修の役割は、主に
「今の出来具合を把握させる(1⇒2)」ことや、
「やり方を教えて試しにやらせてみる(2⇒3)」が中心です。
勘のいい人はお気づきかもしれませんが、先ほど例示した「できる気にして帰らせるセミナー」というのは、3の入り口まで見せて終わり、というものがほとんどです。
それじゃ身につかないよね。
かといって時間の限られたセミナーで、「3→4」を実現するのは不可能に近い。「4」にたどり着くためには、どうしてもセミナー後に継続的に実践するという場を受講者自身が持たないといけないわけです。
そこで一般的に行われるのが、研修の最後に「まず明日何をやってみますか?」的なアクションプランを作らせてから帰らせるやつですね。これがあれば、確かに「明日から行動に移さないとあなたの人生は何一つ変わりません」ということを暗に告げることができます。つまり、3⇒4へのルートを示しつつ、ここからは僕の責任じゃないよ、というディスクレーマーの役割を兼ねているわけです。
それに対して僕自身が心がけているのが、タイトルにも書いた「モヤっと感を持ち帰らせる」というものです。
セミナーの終盤で、僕はいつも「スッキリ感だけで研修を終える人は、明日になったらすべて忘れています。だから、モヤっと感をセットで持ち帰ってください」そう伝えて、各自のモヤっと感、すなわち「セミナーで教わったけど、まだできそうにないもの」「セミナーで教わったけど、まだ腹落ちしてないもの」を共有してもらいます。
そうすることで、彼らは明日以降も試行錯誤をしてみようという気持ちになってくれます。