未来のシナリオをどうやって描くのか 〜CIID "Future Casting"クラスの備忘録DAY2後編〜
コペンハーゲンのデザイン教育機関「CIID」のウィンタースクールin東京、Future Castingのクラスに参加したDay2も後半戦。5日間で一番インプットが濃かった日なので長編になってしまってますが…
ここまでのサマリーはこんな感じ。
「未来を”テクノロジーの進歩”だけで見ないように」
「未来を考えるときの”人の考え方の癖”を理解した上で考えよう」
「発明を”技術と人類の関係性”のパターンでとらえ直してみよう」
CIIDの創設者のシモナのインタビューにもあるように、「私たちは”人間中心主義”から、さらに先の”生命中心主義”で考えます」という意味がようやくここまできて、「いくつかの点を個別に思考するのではなく、相互関係的・生態系的にとらえて考えよう」という意味でわかってきました。テクノロジーもその生態系をなす1つの重要な要素だけど、その「点」だけで議論してもだめ。「点としてのテクノロジー」「点としての経済発展」の招いた現状を見れば、それでは生態系的には点同士の間の辻褄が合わなくなることが、人類はようわかったでしょ?と。 CIIDがSDGsをマントラの一つにすえているのも、「エコ思考集団だから」とかではなく、「相互関係的に考えないと、立ち行かないから」であって、それって結果的に「経済の発展性」にも影響しているわけです。”Interaction Design”とは、こういうことだと。だいぶ霧が晴れてきました。
DAY2後編はFuture Castingの核心が語られた日だったので、丁寧に書きます。最後の方から、ようやく「フレームワーク」が出てきて、実践モードになってまいります。
「CIIDとはなんぞや?&1日目」と、「2日目の前編」はマガジンに格納しましたので、ぜひこちらも。
発明に到るまでの「パターン」
直前まで語られた「発明と人間のダンスのパターン」の次は、「そのダンスを進化の流れで考える」こと。時間軸の議論です。その冒頭、Filippoが「僕はこの言葉が、全然好きじゃないんだ!」といって出てきたのがこれ。
If I had asked people what they wanted,
they would have said faster horses…
—Henry Ford (?)
「車がない時代の人間に、何が欲しいか聞いたって”早い馬”としか答えられねえべ」という、マーケティング界に燦然と輝く名言ですね。僕みたいな、トラッドなマーケ畑からキャリアが始まって、途中で頭ぶん殴られてイノベーション方面に思考法を広げてった身としては「アンケート調査や競合研究の限界」を戒めるマイルストーン的な言葉だったんですが、元々アートからスタートしているFilippoからするとこの言葉は、
・発明がさも「突然閃くもの」みたいに言われている点
・発明がさも「天才が一人で頭の中から生み出す」みたいに言われている点
において、好きくないみたいです。僕がこの言葉をよく例に出す意図とは抵触しない理由だけど、考えもしなかった理由なので、面白い。要するに、
発明には、必ず流れがあり、ある一瞬で起こる訳でもなく、多くの物事や人の願望やら思いやら失敗やらが後ろにあるのです。
ということが言いたいみたい。なので、一瞬の出来事としてではなく、「Model of Innovation」を考えてみようという話になっていきます。
例えばすんごく有名なものでいうとこんなの。
・イノベーションは「線形にことが進んでいって起こる」
「技術的な発明」→「価値のイノベーション」→「普及」
・「テクノロジー発」のものと「マーケット発」のものがある
という、古典的なモデル。Filippoは「わかりやすいけど、こんなにシンプルじゃないよね、実態は」と一蹴します。「発明と人間のダンスの”展開”のパターン」は1つじゃない訳で、「それがどんなテクノロジーで」「人間社会とどう相互関係して」「結果としてどういう軌跡を描いたか」を、いくつかの例と共に説明されました。
Innovation is incremental (連続的な増幅モデル)
一つ前の記事で例に挙げられていた「電信技術」。その本質は「遠隔地同士の同時性を伴ったコミュニケーション」。それによって情報の非対称性による悪意や偏見が偏在しづらくなったことが「ダンスの意味」だった訳ですが、もっとも古くは「狼煙」がそれだよね、と。
狼煙 → シグナルタワー → 手旗信号 → 電気シグナルタワー(灯台など) → 電信技術 → …
連続性でとらえてみると、どこが「分水嶺」だかわかってきます。灯台までは「(視覚による)物理的な距離の制限」があったけど、電信技術がそれをブレイクしている。で、これ以降、「電話」「ポケベル」「インターネット」「ケータイ」… と、引き続き連続的に進化していった。だから、”電信技術すげー”な訳だよねと。
Clear Goal : (明確な目標に向けた、技術競争)
「ある明確なゴール」を、方々の発明家が目指した結果として発明が起きるパターンだとこんな感じ。
「月に誰が先に行けるか?」みたいな例がわかりやすいかなと思います。最近よく言われる「問いの設定ができるかが大事」っていうのも、このClear Goalを思いつけるビジョナリーの重要性を説いてるんだと解釈できる訳で。
他にもいくつかモデルの例が提示されました。
Breakthrough without a use case (Market challenge) :
「革新的な技術」が先に生まれるも、使い道が想定されておらず、「使い道開発(Market challenge)」が続々と起こっていく。
Enabling technologies :
非常に有用な発明が、これまでの他の領域の発明に付帯的に乗っかっていって、「インテル入ってる」状態になっていく。
などなど。ElenaもFilippoもこれらの説明をしながらなんども、「イノベーションはある程度の必然的な流れを伴って起こるけど、それを人間社会はいつも準備万端で迎え入れられる訳じゃない。その時その時、色々な人々と、社会と、他のあらゆる領域との相互作用が起こり、それがさらに次のイノベーションに影響していく」ことを言いたかったんだと思う。フォードさんの言葉が嫌いだといった理由はおそらく、「そういうことを全部なぎ倒して、”かっこいい後付け武勇伝”的にイノベーションを片付けてしまいかねない」からなんじゃないかな。で、ここでやっと遅めのランチ休憩が入って、午後は実践開始です。
Scenario Planning
で、なんの実践をやったのかって、「シナリオプランニング」でございます。口すっぱく言われてきた、
× predicting the future (未来の当てっこ)
○ exploring the possibilities (可能性の探索)
という、この Future Casting コース、やりたいことは、
技術を単体でとらえずに、時間や他の変数と、世界を相互関係的にとらえた時に見えてくる「我々のいくつかの未来」に対して、今やるべきこと・できることは何かを”よりよく考えるための問い”を獲得すること
なんだとわかってきました(独断的に僕の解釈です)。それをやっている企業の一例としてシェルのシナリオプランニングがあげられました。
数々のエネルギー危機や、オイルショック、金融危機についても、実はシェルのシナリオの中には入っていた訳です。で、もちろんそれは「いくつも提示されているシナリオの中に」入っていた訳だけど、それをもって「何個も書けばどれか当たるだろ!」とイチャモンをつけるのはお門違い。いくつも考えて、それらを前提に可能性も探索して、策を講じられればいいのです。最悪なのは、「一つの予想で一つの未来を当てられないなら、考える意味がない」と思い込み、そもそも未来について考えることを放棄しちゃうことなんじゃないでしょうか。シェルはこれらのシナリオを中核戦略ツールとして日常的に採用している数少ない企業の1つで、ここから得られた価値は戦略的洞察能力だけでなく、組織の共有言語として「不確実な未来を議論可能な形に昇華できた」ことだとElenaは言います。これ、めっちゃ重要で、ビジュアライズや、シナリオの細部へのこだわりによるリアリティが、読み手を「あ、これはまじで起こりうるなあ・・・」という”まともに向き合わないとまずいモード”に誘い、共通言語化も合間って、議論の俎上に上がる訳です。この「細部」の話はDAY3以降のワークショップでめっちゃ追い詰めて考えさせられる訳だけど・・・笑
で、これをやろうというのが実践です。僕らのチームのTech Trendは「Extreme Bionics」でした。Day1で行った「Just Research」の結果に、いよいよ自分たちの類推や評価、考察を加えて、「未来へのシナリオを複数考案しよう」という訳です。そこで提示されたフレームワークが3つ。
1. Futures Wheel
2. Timelines
3. End states
それぞれ「なんのためのフレームで」「どうやってやるのか」が説明されます。
1. Futures Wheel
まず一つ目。出来上がるもののイメージは以下の感じ。
一つ一つの○は「起こる出来事」をポストイットにして貼り出していくイメージです。真ん中に「扱うトレンドテーマ(僕らのチームではExtreme Bionics)」をまず置いて、「それがまず及ぼす影響や、起こる出来事」を1st tier implicationとして中心から近いところに貼り出す。で、その1stが起こることによってさらに引き起こされるであろう出来事や影響を2nd tier implicationとしてその外周に貼り出し、さらにその影響で起こる出来事を・・・ という風に、年輪のような図を作る訳です。
DAY1のJust Researchで集めたこのテックトレンドのこれまでの経緯や事実、各者の意見や反応に、自分たちの類推も加えて、書き出しては貼って書き出しては貼ってを繰り返すことによって、「相互関係性の俯瞰図」を、大まかな”原因と結果”で整理できる感じ。で、その時に、絶対に自分のバイアスが出ちゃうので、また使うのが「STEEEP」です。
大まかに6つに、ポストイットを貼っていく方角をSTEEEPで分けて貼っていくことで、「どの思考に偏っているか」「こっちの方角では何が起こるのかをもっと考えよう」など、より生態系全体をとらえながら考えることができます。実際やってみると自分のバイアスがわかったのも面白かった。
2. Timelines
で、次に作るのがこのフレーム。Futures Wheelは写真に納めて、貼り出しまくったポストイットを一度解体、再構築していきます。
横軸に時間をとって、左端に現在、右端に「シナリオを考える未来の射程」いっぱいの年数をおきます。で、大きなきっかけが見えているならその西暦を、そうでなければ10年おきくらいに目印をつけて、先ほど書き出したポストイットを、「いつ頃の出来事なのか」考えながら貼っていきます。Futures WheelのどこのTierに置いたもので、周りのどんなポストイットと特に強い相互関係にありそうな出来事なのかを考慮しつつ、ペタペタとお引越しさせていくんですが、貼るときに2つ、意識すべき座標があって。
一つは、その出来事の「人間社会に置いての意味」を「良いこと寄り(Utopia)か、悪いこと寄り(Distopia)か」で、上半分と下半分どちらかに属させながら貼っていくこと。もう一つは、「どの程度の確率で起こりうる出来事だと思うか(probable / plausible / possible)」を中心線からの縦の距離で表現すること。この二つの座標によって、自分たちの思考が「楽観 / 悲観のどちらかに偏っていないか」「ぶっ飛びすぎ / 当たり前すぎのどちらかに偏っていないか」を自覚する助けになります。(本当にユートピアか?とか、本当に90%か?とか、正しさを可視化するための座標というよりは、自分たちのバイアスを点検するための座標なんだと理解しました)
3. End States
3つ目に、Timelinesに貼り出したポストイットたちを線でつないで、いくつかのシナリオを描き出していきます。これまでのインプットしてきた「人と発明のダンスの形や歴史」についての洞察や造詣が深ければ深いほど、いいシナリオが類推できるという訳です。ただ、昨日の今日で急にゼロからじゃ難しいだろうってことで、3つの「典型的なシナリオの例」を教えてくれました。DAY2の前編でも紹介した「関係性の定型文」でここも発想します。
In ____ years _______ has become _______, and people feel _____________.
シンプルに一度、このレベルで考えてみましょうということで、”ドローン”を例にABCを説明してくれた。
A. “Just never gets there”
In 10 years drones has become niche, and people feel cautious.
Aが「普及せずに衰退」のシナリオ。普及黎明期におそらく致命的な人命に関わる事故が起こったり、軍事転用拡大が国際社会の大問題になったり、そういうしているうちにより安全で信頼できる代替テクノロジーが出てきたり。背景にはいくつかの「ポストイット」が考えうるけど、よくあるパターンだよねーと。具体例としては「コンコルド」が挙げられてました。墜落事故、世界同時多発テロによる不安感情、競争軸が「快適性」にシフトした… いろんな出来事によって、この「Collapse Scenario」にはまりこんじゃった訳です。
B. “Widespread but heavily regulated”
In 20 years drones has become widespread, and people feel cautious.
Bは、要するに「まあまあ普及したけど、制限も増えて、限定利用に留まる」パターン。便利であることや、商用利用のプレーヤーによる技術の社会適用も進むも、どうしても犯罪利用や、アホな使い手による不慮の事故、迷惑行為は消し去れず、「夜間利用NG」「離島など必要性の高い特区に限り」「医療用、軍事用など特定用途に限り」など、制限がかかって限定普及に留まった場合。これは軍事由来の発明や、従来の倫理観に大きく抵触する領域で起こりやすいシナリオなのかもしれない。
C. “Everywhere, all the time”
In 20 years drones has become ubiquitous, and people feel bored.
「完全に普及して、もはやなんとも思わない存在になっている」パターン。あまりの利便性なのか必然性なのか、あるいは時間が人の慣れを生み出したのか、恐ろしい飛行音や怖い見た目が改善されたのか、いずれであれ、既存の倫理観や安全意識そのものがアップデートされてしまうようなシナリオ。「GAFAは個人情報を取りまくってるぞ!」と言われても、あまりに便利だから、”わかっているけどまあいいやー”となっている現状なんかは、この例に当てはまるかもしれないし、「人が死ぬかもしれない移動手段なのに、完全に普及している」自動車なんかも、冷静に考えると当初は反対意見も出ていた訳です。
まずは、この3つのシナリオをイメージしながら、Timelinesでプロットしたポストイットを「星空から星座を見出す」がごとく、繋いでみて、仮にこのテックトレンドを2050年の教科書の年表のページを作るつもりで記述した時に、どうなるのか?考えてみましょうと。
Headlines from the future
まとめると
1. Futures Wheel
=このトレンドの未来に起こるであろう出来事を「相互関係的に俯瞰」する
↓
2. Timelines
=相互関係を元に、今度は時間軸でソートする
↓
3. End states
=最後にいくつかの「つながりのあるシナリオ」を描いてみる
こんなステップです。で、最終的に「Headlines from the future」を描いてみてくださいという指令が出ました。言ってみれば、未来の新聞の見出しにするならどうなるか、ってことです。見出しは何で、本文ではどんな歴史的な経緯が語られるか。そしてその記事を書くにあたっての、「根拠にしたリサーチ結果は何か」「このシナリオを加速させる要素は何か」「こうならないとしたら何によって別のシナリオになるか」なども合わせて考えてくださいと。
例えばこんな感じ。
で、チームワークがスタートした訳ですが…
実際にどんな感じでやったのかとか、プレゼンとか、それにたいしてのフィードバックが、DAY3に続きます。DAY2は、こんな感じで一旦終了です。
まとめ:「よりよく考えるため」の考え方としてのFC
何しろ強く考えさせられたのは、「(自分を含む)人の意識や考え方を扱っている」という、思考の焦点について。大前提に「結局、未来がどうなるかは今の時点では誰にもわからない」(誰もがわかりきっているトピックは、押さえておけばいいだけ)という確固たるスタンスがあるので、「当てっこに意味がない」のは言わずもがな。じゃあ、これはなんの議論をしているの?というと、「今の私たちが未来のために、どういう頭の使い方で、どう考えるべきなのか?」を考えているということに尽きるのだろうと。「未来を当てっこする」のではなく、「未来をよりよく考えることで、今の自分たちの可能性をよりよく考える」のが本当の目的だってことが、何周も思考が回る過程で、1周するたびに強化されていくようなDAY2でした。「何が1st tierなのか」「それと何が相互関係するのか」「確率はどの程度か」「それはユートピアなのかディストピアなのか」など、どの座標も、「それが本当にそうかどうかは憶測でしかないじゃん・・・」な訳ですが、そここそが大事で。「どういう根拠で我々は”憶測”するのか」「そう憶測してしまうことから、どんなバイアスが見えるか」が、次の問いに繋がるんだと重単です。
ここが理解できないとFuture Castingのコースからは「なんだか不確かな未来を、SF作家ごっこしながら妄想しているだけ」としか学べないかもしれない。技術だけでなく人間だけでなく、この世界のあらゆる事柄を相互関係性的に俯瞰しつつ、あるトピック/テックトレンドを主語に、「人と発明と、その他諸々とのダンスのパターン」を深く洞察し、”じゃあこれから何が起こりうるか” ”そうだとした時に、今我々が真に考えるべき事柄は何か” を考える。ものすごく、「考え方の考え方」みたいな領域なんだと感じます。それを、取り急ぎは「シナリオズ」で考えてみようと。
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はい、じゃあ実際やってみたらどうなったかは、また今度…
「すごい情報量と情報価値だから、有料にしたら!?」と一部の人に行ってもらったんですが、まずはその人がサポートをしてくれたらいいと思います!笑 お待ちしておりますー!
もちろんサポートじゃなくても笑、感想、コメント、大歓迎でお待ちしてますー。
DAY3はこちらに続きます。