SS 予感
茜に染まる空を眺めながら、商店街に入る。穏やかに人が行き交う中を縫うように掻き分け自宅へと歩みを進める穏やかな日常。
ぎい かちゃがちゃ
軋む自転車の音が近づいてくる。
シルエットを遠くに捉えた。
少しずつ、セーラー服を着た少女が長い髪を風になびかせ近づいてくる。
そして、一瞬。
ほんの一瞬のうちに僕の世界はチカチカするようなビビッドに変わる。
自転車を漕ぐ少女の健康的な肌が。
見えるはずもない潤んだ唇が。
巻き起こした風の甘く爽やかな香りが。
脳裏に焼き付く。
一瞬ですれ違い
そして、すぐにいつもの味気ないの世界へと戻ってくる。
商店街の喧騒、民家から漂う夕食の香り、夕空。
日常の風景が何食わぬ様子で流れる。
僕の細かく刻まれた心音だけが、高らかに予感を主張している。