【SS】心の缶詰
私は心の缶詰を毎日食べている。子どもの時から、変だとは言われていた。
実際に、何件も病院を回り、とある病院で「体質だ」と言われ落ち着いた。
病院で処方された缶詰を摂取することで周りと同じように生活できている。
でも、病気ではないのだ。お肌を綺麗にしたい女子が、サプリメントを飲むのと少し似ていると思う。だって、感情は必ずしも必要なものではないから。
缶詰は輸血のように、人から提供されている。感受性豊かな人だけがこっそり選ばれて、感情を採取させてもらっているらしい。臓器提供をすると、提供者の記憶が一部共有されることがあるとはいうけど、実は感情も少し似たところがある。
例えば、何か映画を見たときに感じる悲しいという気持ちも、純粋な悲しいではないんだと思う。誰かから分けてもらった、誰かの思い出が詰まった「悲しい」だ。でも、ちゃんと私も悲しいの。
この話を友達にすると「それって本当にあなたの感情って言えるの?」と言われたことがあった。けれど、感情って本当に自分だけで作られるものなんだろうか。
病院では、感情というのは消耗品で、毎日体の中で自動生成されていると教わった。私にはその自動生成する機能がないらしい。その自動生成にも元となる成分があるはずで、それについては自分で作り出せないから皆どこかで摂取をしているはずなんだとも言っていた。
私が缶詰を食べているように、みんなどこかで摂取しているはず。
物語の主人公を見て、初めて知った感情とか、あったりしないですか。誰かの姿を見て、実感をした思いはありませんか。自分は絶対に抱かない、と頑なに思っていた気持ちが湧き上がってきたことはないでしょうか。
心は一人では生まれない。
色々なものを摂取して生まれている。
私には心がない。
だから、私は誰よりもそれを知っている。